なんか、姉ちゃんがひーひー言ってる

「ひー! ひー!」


ちょっと来て、とLINEで呼ばれて一階に降りてみると、キッチンで姉ちゃんがひーひー言ってた。


「……何してんの?」

「これ。これ」

姉ちゃんが震える指で示すのは、金属製のボウルに入った白くて細長くてブヨブヨした………妙な物?


「気持ち悪っ!なんなん、これ?」

「……さあ、母さんが何か作ってんじゃない?」

食品なんか、これ。

ボウルの壁面にクタっとU字に張り付くそれを、改めてまじまじと見つめてみる。

なんだよ、これ。なんかの水死体みたいなんだけど。

「指触りもキモイんだよ。ブヨブヨしてる。ひー!」

なるほど、見た目通りだな。

「ひー! 何回触ってもゾワゾワする。ひー!」

なんで触ってんの?

「お前も触る?」

そのために呼んだんか。

「………触る?」

触るけどさ。



「はー、キモかったなあ」

「………うん」

「ゾワゾワしただろ?」

「したけど………」

「はー、キモかったあ」

謎のブヨブヨを思う様つつき回して満足したのか、姉ちゃんは定位置のソファに腰を下ろし、下着が見えるのも気にせず足を組む。

「あれ、晩御飯に出てきたらどうする? キモキモのゾワゾワ煮みたいな」

「……どうもこうも」

ホントこのためだけに呼んだのか。

仕方ないのでグラスに麦茶などついでみる。

「はー、まだ背中がゾワゾワする。でもあれって、どっかで似たようなの見たことあるよな?」

「ああ、あるある。見た覚えある」

確か、深海魚だったか、ジャングルのキモイ虫だったか……。

「北公園だっけ?南公園だっけ?」

え、そんな近所の話なん?


「いやー、でも、ホントキモかったよな」

「……うん」

「わたし、一番苦手なフォルムかもしれない」

「そうなんだ」

「色がよくないわ、白ってのがキモみを助長してる」

「なるほど」

「………もっかい触ろうかな」

「なんでだよ」

絶対になんでだよ。


「冗談だって、トイレ行くわ」

そう言いながら立ち上がってトイレに向かう姉ちゃん、キッチンはトイレの横。

絶対触るコースじゃん、それ。


「ひー! ひー!」

うるさいなあ、もう。


キモキモのゾワゾワ煮はそれから一度も食卓には上らなかった。

うちの姉ちゃんはやっぱり変だと思う。




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