なんか、姉ちゃんがチェックする
「ちょっと、待て! どこ行くの!」
玄関で姉ちゃんに捕まった。
土曜日の朝。居間の気配を探りつつ慎重に玄関を目指したつもりだったけど、姉ちゃんはトイレから現れた。
そして、スキャンでもするような視線を僕の頭のてっぺんからつま先まで走らせて、
「全部変。全部着替えて」
僕渾身のおしゃれファッションの総とっかえを要求した。
今日も我が家のファッション税関の目は厳しい。
秘密裏の脱出に失敗した時点で一つ二つのダメ出しは覚悟していたけれど、総とっかえとか酷くない?
「ぜ、全部変ってことはないでしょ……」
「全部変」
「このジャケットとか割といいかなって思うんだけど……」
「一番変。二度と見たくない」
「でもまだこれ一回も着たことなくて……」
「それでいい。一生着ずに墓までもってけ。買ったことを周囲に漏らすな」
辛辣すぎる。このジャケットにだってデザイナーはいるんだぞ。
僕と姉ちゃんのファッションセンスは根本的なところで乖離がある。だから僕が何を選んだところで姉ちゃんは絶対に首を縦に振りはしない。
でも……。
「僕は……そんなに変だとは思わないけどな」
今日のファッションには僕だってこだわりがある。
てゆーか、なんで毎回毎回外出の度に姉ちゃんにお伺いを立てなきゃいけないんだって話ですよ。やってるやんよ。今日こそビシッと言ってやんよ。
「一応ほら、これってドラマに出てたモデルの真似だし。クラスのオシャレなヤツも同じようなカッコしてたし。全然大丈夫だと思うけど。どこが変なの?」
「……古いのよ」
―――ぐっ。
「そのドラマって一年前のやつでしょ。友達も去年やってたカッコじゃないの?」
―――ぐぐっ。
「流行を取り入れるなら最先端じゃないとダメだからね。流行り終わってからの後追いが一番ダサい」
―――むぐぐっ。
「遅いのはもう本当にダメ。ダサいだけじゃなくて、恥ずかしい」
「わかったよー、もう! 着替えるよー!」
はい、だめでした。全然無理でした。
やはり姉ちゃんは最強の門番だ。最初の一撃で心折られた。
「わたしが買ってあげたのあるでしょ。あれにして」
「………………はい」
そして、今日も僕は全センスを殺されて家を出る。
屈辱だ。
いい年して、着る物一つ選べないなんて。いい年して、全身『姉ちゃんに買い与えてもらったセット』で出かけなきゃいけないなんて。
「あー、やっと来たか。遅刻だぞ……てゆーか、今日もおしゃれだなー」
そして、その恰好が友人達に絶賛され、
「……やっぱお前のねーちゃんセンスいいよなー」
挙句、我が家のファッション事情まで見透かされるなんて。
屈辱の極みだ。
そして、その夜。
「……どうだった? 友達の反応は」
帰った僕に、姉ちゃんは第一声そう尋ねた。
「ああ、うん。オシャレだなって、褒められた……けど」
「………けど?」
「どうせ姉ちゃんに選んでもらったんだろって、秒でバレた」
「………ふーん」
あったことをそのまま伝えると、姉ちゃんは顔色一つ変えずに部屋へと戻り、
「よしっっ!」
数秒後、謎の叫び声が二階から聞こえてきた。
やっぱりファッションは、姉ちゃんの言うとおりにしていたら間違いはない。
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