なんか、姉ちゃんが足痛めた

4

「あー、痛い。イタイイタイイタイ、痛いわー」


日曜日、朝から姉ちゃんが足の痛みを訴えている。


「はー、痛い。痛いはー。痛いはー」

「どしたん、姉ちゃん? 足痛めたの?」

「うー、痛い。やっちゃったかも」

「マジか? いつ?」

「昨日かなあ」

苦しそうに顔を顰め、ソファの上に投げ出した膝をさする姉ちゃん。


「ほら、わたし、昨日公園行ったでしょ?」

知らんけど。

「行ったんだよねぇ、散歩で」

インドア派の姉ちゃんにしては珍しい土曜の過ごし方だな。

「すぐに帰るつもりだったんだけどさ、気が付いたら結構長い時間経っててさあ」

「はあ……」

「それで、かなぁ」

散歩で足痛めたんか。脆いな、姉ちゃん。肉体年齢どうなってんだ。


「あー、痛い。あー、痛い。動かしただけで痛いわー」

「そんなに? 湿布貼っとく?」

「んー、いいわ」

「テーピングで固定してたらマシかもよ?」

「んんー、いいわー」

「あ、アイシングのスプレーあるけど使う?」

「いいわー」

なんかやれよ。なんで全治療を拒否するんだ。


「えっと……じゃあ、僕はなにしたらいい?」

「そうねー、じゃあ。お茶入れてきて」

「そんなんでいいのか」

「あ、あと、スマホ取って」

「はいはい」

「カーテン閉めて」

「あいよー」

「よしよし……じゃあ、もういいや。何かあったらLINEするわ」

「わかった。上にいるし」

そう返事して部屋を出て、階段を登りきったあたりでさっそくLINEが届いた。

 

『冷凍庫からアイス取ってきて』


「はい、アイス」

「ミルクじゃなくて、ソーダの方だって」

「ああ、そうか……………………………はい、ソーダ」

「んー」

「じゃあ、上いるし」

「んー」


そして、また階段を上がりきった頃、


『アイスのゴミ捨ててきて』

………まあ、しょうがないか。

なんだか、人使いの荒さにターボがかかってる気がするけれど、怪我人だからしょうがない。今日は病院開いてないし、足が痛いなら月曜までは極力安静にしておくのが正解だろう。だから、まあ、しょうがない。

そう言い聞かせて階段を下りた。


「ゴミって、これ?」

「そうそう」

「じゃあ、部屋に戻るわ」

「んー。またLINEする」

「……………………」

「どした?」

「いや別に」

片手にアイス、片手に文庫本の構えでソファに寝転ぶ姉ちゃん。デローンと伸ばした足には別段腫れや赤みのようものは見られない。


「……………あのさあ、姉ちゃん」

「ん?」

「マジで湿布とかいいの?」

「いいわー」

「公園で何やって足痛めたんだっけ? 歩き過ぎ? コケたりしたん?」

「あー、それねえ」

片手だけで器用に文庫本のページをめくりながら姉ちゃんは答える。

「ほら、昨日暑かったじゃん」

「暑い? ああ、そうね。暑かったね。真夏並みっつって」

「そうそう。でさ、公園にいい感じの木陰があったのね、芝生んとこ。で、休憩がてら寝転んで本読んでたのよ。優雅に」

「……ほう」

「で、そのまま寝ちゃってさあ」

 寝た?

「わたしホットパンツっていうか、ハーフパンツっていうか、そういうの履いてたのよ。ほら、黒いやつ。わかる? 黒い、いつも履いてるやつ」

「ああ。まあ、わかる……かな?」

いつ怪我の話始まるんだろう。

「んでさあ、思った以上に長く寝ちゃってさあ、気が付いたら影が動いてて、両足が日なたに出ちゃってたんよ」

………はあ。

「で、焼けた」


日焼けかいっっ!

そりゃいらねーわ、湿布なんか。

「はー、痛い。痛いはー。ちょっと部屋から枕取ってきて」

「ヤダよ、知るか」

絶対に知るか。


うちの姉ちゃんは、どこででも眠る。








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