なんか、姉ちゃんが異様に強い2
「よし、ジャンケンするぞ」
「ええー、もういいってー」
学校の帰りしな、姉ちゃんに出くわした。
ニヤリと上がった口角に嫌な予感を感じ取ったけれど、やっぱりだ。鞄持ちジャンケンを挑んできた。
姉ちゃんはジャンケンが異様に強い。ここ数年負けたところを見たことがない。
「じゃあ、わたしはパーを出すから」
やるとか言ってないけどなー。
そして、出たよ。お得意の心理作戦が。
姉ちゃんはいつもこうやって精神に揺さぶりをかけ、運の勝負を心理戦のフィールドへと引きずり込む。
読み合いなら負けないつもりか、いつまでも同じ方法が通用すると思うなよ。
「……いいよ。じゃあ、僕はグー出すわ」
敢えての負け宣言、これで計算を狂わせる。さあ、どう出る、姉ちゃん?
「ジャンケン、ポン」
全然迷わないんだけど。なんなん、この人。
「はい、勝ちね」
しかも普通に負けてるし、僕。マジでなんなん?
「汗つけるなよ」
勝利の喜びにひたるでもなく、作業のように鞄を突き出す姉ちゃん。
くそう、屈辱だ。
正直、鞄が一個増えたくらいでは肉体的な負担はさほど変わらない。ダメージはむしろ精神にくる。周囲からの『あー、あの人鞄持ちに負けたんだー』的な視線の方がザックザックと精神に刺さる。
「んー!んーっとぉ」
片や姉ちゃんは両手の自由を全世界に誇示するように、悠々と伸びをして見せた。
……おのれ、次は見てろよ。
今度は僕から先にチョキを宣言してやる。なんなら手の形もずっとチョキのままで固定しておこう。これで惑わされない奴はいないはず。
姉弟ルールで鞄持ちの期間は電柱二本と決まっている。駆け足で二本分を走り切り、隆々たる気合を込めて振り返った。
「チョキだ、チョキ! 次、僕チョキ出すからな!」
「はいはいはいはいはーいっと」
対する姉ちゃんは人差し指を僕の顔に突き出して、さらさらさらと空中に模様を描きつけ、
「ジャンケン、ポン――はい、勝ちね」
そのまま一歩も止まらず僕の横をすり抜けていった。
「え? え? ちょ、待って。何、今の?」
今のチョイチョイってやつ、何?
「………おまじない」
は?
「……ジャンケンに勝つ、おまじない」
いや、心理戦はいっっっ!
なんだ、急におまじないとか。そんなんナシでやって来ただろ!
もう嫌だ。もう二度と姉ちゃんとはジャンケンしない。そう決意して、僕は姉ちゃんの鞄の取っ手に爪を立てた。
うちの姉ちゃんは、やっぱり異様にジャンケンが強い。
※
数日後。
「………あ」
また下校中の姉ちゃんと出くわした。
「あ、弟君だ。久しぶり!」
今日は、友達の執行さんもご一緒だ。
てゆーか…………あれ?
「………行くよ」
僕の顔を見た途端、逃げるように歩を速める姉ちゃん。両肩に提げられた二つの制鞄が重そうにギシギシと揺れていた。
「え、なんでなんで? 弟君も一緒にやればいいじゃん、鞄持ち。あ、わかった!また負けるのが嫌なんでしょー。そうでしょー」
その背中を、手ぶらの執行さんが軽やかに追いかけて行く。
……どうやら姉ちゃんの無敵性は、僕にのみ発揮されるものらしい。
うちの姉ちゃんは、やっぱりよくわからない。
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