なんか、姉ちゃんはわからない
「お姉ちゃんって可愛いの?」
姉がいると告白すると、ほとんど必ずそう聞かれる。
この質問は本当に困る。
弟にとって生まれた時からすでにいる姉ちゃんという存在は、例えば庭の土だとか、洗面所の蛇口みたいなもんなのだ。
「うちの庭土、可愛いわー」とか、
「うちの蛇口映えるわー」とか、
そんな妄言吐くヤツいないでしょ、この世に。
なので答えは「わからない」でフィックスされている。
しかし、そう答えると、
「でたでた、弟特有の照れ隠し」
みたいなしらけた空気が流れ出す。
僕がスベッたみたいになる。
あげく「判別してあげるから写真見せろ」と言い出す始末。
あほなのか? どこの世界に姉ちゃんの画像をスマホに入れている弟がいるというのか。
もう本当にうんざりだ。
姉ちゃんを知る友達や親戚からはよく美人だと言われるので、一般的には美人の部類に入るのかもしれない。
でも僕にとっての姉ちゃんは、居間の備品のように常にソファに寝転んだまま、「カーテン閉めて」とか「リモコン取って」とか「麦茶いれて」とか、二階にいる僕にLINEで命令するやっかいな暴君でしかない。
最近ではそれもどんどん横着になり「セ」だの「コ」だの一文字しか打たなくなった。
ちなみに「セ」は「セロハンテープちょうど良い長さに切ってきて」で、「コ」は「冷凍庫から状態の良い氷持ってきて」である。
今日も学校から帰ると、姉ちゃんはソファで寝ていた。
姉ちゃんは寝るのが大好きだ。いつものクッタクタのノースリーブとホットパンツ。つんと唇を尖らせて、すーすー寝息を立てている。
――カシャ!
響いたシャッター音に、姉ちゃんは一瞬寝苦しそうに眉間に皺を寄せ、
「……お前、早く……プール入れよ」
謎の命令を下して、また、眠った。
……やっぱりわかんないや。
スマホの画面に収まった姉ちゃんの寝顔を指で弾いた。
写真で見ても、僕には姉ちゃんが可愛いかどうか判別がつかない。
つかないから、つくまで画像は取っておこう。
うちの姉ちゃんは、色々とよくわからない。
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