Main Story (3)
視点担当:チアキ
状況説明:クレイドル・システムの終点で、チアキとアスカ。
*
先ほどから、アスカは不機嫌な顔で黙っている。不気味なぐらい静かなアスカというのは珍しい。
「……言いたいこと、あるんじゃないの?」
絶対に説教されると思っていただけに、問わずにはいられない。言いたいことを我慢せずぽんぽん言うアスカが何かを飲み込むなんて、明日は槍が降るな。
「優先すべきはこちらの方だろう」
そう言ってアスカはてきぱきと何やら準備をし始める。
そうして、準備を終えた彼女は、チアキを玉座に座らせるとその前に仁王立ちした。
「いい機会だから言っておこうかと思ってな」
「何を?」
別れの言葉か、あるいは告白イベントか。
そう軽く期待したのだが、あいにくとアスカの表情は不機嫌の頂点を極めていて、絶対に浮かれるような内容ではないというのがすぐにわかった。
アスカは挑むような鋭い目でチアキを射抜いた。
「私はあなたが大嫌いだ」
まっすぐ切り込むように一言。出会い頭と全く同じ台詞である。
アスカの言葉には嫌悪感がそれはそれは大量に含まれていて、セラと違って嘘も偽りもないのが容易に知れた。そもそも、彼女は嘘が嫌いだ。ハイネと違って。
それだけにこちらの心のダメージもまた大きいのだが。
ずばずばと切り裂くようにアスカは言い放つ。
「優柔不断なあなたが嫌いだ。うじうじしているあなたが嫌いだ。私とセラにニンジンを食べさせるためにありとあらゆる手段を試すあなたが嫌いだ。セラに酷いことを言うあなたが大嫌いだ」
最後の大嫌いをことさらに強調してくるアスカ。
「セラに嫌われるためとはいえ、あのやり方は気に入らない。それだったら、大好きと言って突き放す方がまだマシだ。いや、どっちも最低だ。私も、ハイネも。だが、あなたは一番最低だ」
アスカが吐き捨てるように言い放つ。
「あんな表情で言われて気付かないほどセラは間抜けでも察しが悪い子供でもない。なのに、セラに大嫌いと言って、あの言葉をあえて言わせたあなたは最低だ、最悪だ、極悪人だ。血も涙もない悪魔だ。全国の子供好きと青少年を保護しようとする団体とロリコンのハイネに袋叩きにあえばいい」
まったくもってその通りなので、否定することができない。
「しかも、そう私に責められることを心のどこかで望んでいるから、救いようがないぐらい大嫌いだ。……セラの件については小一時間ぐらい文句を言える自信があるが、時間が惜しいので先に進めさせてもらう。あと、この期に及んで最後の最後まで迷うあたりも嫌いだ。ひねくれた発言をするあなたが嫌いだ。あの時は私も悪かったとはいえ、人が傷つくようなことを平気で言いまくるあなたが嫌いだ」
よくもまぁ、ここまで嫌う要素が出てくるものだ。
「考え始めると一時間以上悩むあなたが嫌いだ。ハイネをうっとうしく思いながらなんだかんだで面倒を見るあなたが嫌いだ」
「……ん?」
内容が少し変わってきたことに心の中で小首をかしげる。
「セラを大切に思うあなたが嫌いだ。相手の事情を思って強く言えないあなたが嫌いだ。私のことを嫌いつつ突き放しきれないあなたの優しいところが嫌いだ」
途中から徐々に柔らかくなってくる口調に、違和感を覚えて顔を上げる。
いつの間にか、アスカは微笑んでいた。咲き誇る花のように、優しい笑顔だった。
「いつでも悩んで、迷って、優柔不断で、でも、優しくて――」
一つ区切って、
「――そんなあなたが、本当に大嫌いだ」
そう万感の思いを込めて、告白でもするように、アスカは言いきった。
その言葉の意味を正しく理解し。
「……残念、僕は君のことが結構好きだったのに」
そう苦笑しながら告げてやる。少しは動揺したり頬を赤らめたりするような反応を期待したのだが。
「そうか。それは残念だ」
ちっとも残念がっていない口調で、アスカは苦笑しながらそっけなく言った。
「本当にね」
そう言って、二人して笑い合う。
「……では、さようならだ」
「さよなら、アスカ」
目を閉じ、クレイドル・システムを終了させる。
不思議と悲しくなかった。
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