Main Story (1)
視点担当:ハイネ
状況説明:チアキとアスカVSハイネの決着がついた後、二人を見送ったハイネをセラが攻撃する話。
*
チアキとアスカの後ろ姿を見送った後、寝ころんだハイネを巨大な光熱波が襲う。予備動作なく、ハイネと同等――もしくはそれ以上の速度を持って事象を引き出す存在。
通常ではありえない速度に戦慄が走るのを感じながら、振り返り。
――立っていたのは、セラだった。
セラは〈法石〉の操作なしに、魔法を使っていた。
予想もしていなかった伏兵の存在に肝が冷える。
なぜ、と問おうとした隙に、強烈な衝撃波が飛んでくる。
セラの魔法をもろに食らって吹き飛ばされたハイネは、まるでおもちゃのように地面を転がる。同時、全身が焦げるような衝撃と痛みと共に、唐突にハイネは理解する。
なぜ、アスカがチアキを嫌いなのか。
なぜ、アスカが端末を操作しないと〈創造の大樹〉と接続できないのか。
なぜ、自分が子供であるセラにそれほど魅力を感じないのか。
なぜ、セラがチアキを最初に「パパ」と呼んだのか。
なぜ、セラが端末なしに魔法を使えるのか。
氷解する疑問と共に、自分の推理力と洞察力のなさに呆れる。
「君が……いや、君こそが〈エマヌエルの天使と悪魔〉だったってわけ」
しかし、ハイネのつぶやきはセラに届いていない。彼女は親とはぐれて心細くなった子供のように――実際子どもだが――あたりを頼りなく見回して、チアキの所在を尋ねる。
「パパ、どこ……? パパを止めなきゃ……」
その後ろ姿を見送りながら、ハイネはこれまでの情報を元に推理する。
恐らく、ハイネと対になる〈エマヌエルの天使と悪魔〉である彼女は何らかの事情でアスカにその役目を奪われ、システム内に封じられた。現実世界で何が起きたのかまで知る由はないが、何かのイレギュラーが発生したのだろう。
その代わりに送り出されたのが、アスカ。別の誰かによって、精神世界に放たれ、セラの代わりにチアキを導く偽物の〈エマヌエルの天使と悪魔〉。嘘や偽りを嫌うアスカが真実、偽物というもの皮肉な話だ。
その時に、セラは〈エマヌエルの天使と悪魔〉としての記憶や使命感といったものをアスカに奪われたのだろう。そしてセラに残されたのは、「チアキを好き」という感情だけ。アスカがチアキの理想とする女の子でないことを考えると、セラの性格がチアキの好みに近いところから察するに、初期設定の人格が残っている可能性があるが。
だが、アスカに色々と奪われたとはいえ、やはりセラの中にも何かは残っていたのだろう。それゆえに、本来自分の役目であるはずの場所にいるアスカと、審判者たるチアキが何をしようとしているのかを無意識のうちに理解した。恐らくは、チアキが決意した時に。チアキの決意と共に、アスカはクレイドル・システムを終了させる術を思い出す仕掛けが施されている。それなら、本物の〈エマヌエルの天使と悪魔〉であるセラも同様であると思っていい。
そしてセラは、二人がクレイドル・システムを終了させたが最後、チアキと一緒にいられなくなることを悟り、恐怖したのだろう。「チアキを好き」であるゆえに、好きな人と一緒にいられなくなることを恐れたのだ。
なぜなら、クレイドル・システムの終了が意味するのは、〈エマヌエルの天使と悪魔〉の消滅だから。
クレイドル・システムの終了を促すよう、チアキの背中を押したのがセラであるというのも、これまた同じように皮肉な話だが。
それゆえに、こうしてここまで一人でやってきて、二人を追いかけようとしているのだろう。本能や衝動みたいなものに突き動かされて。
セラという少女の性格からして、ここまで一人で来るのは相当心細く勇気のいることのはずだ。後ろからついてくるヒヨコのように、チアキを慕う姿は健気だが、本人が〈エマヌエルの天使と悪魔〉であることを自覚してないために、見ているハイネとしてはとても痛ましい。
そして、ここでハイネを攻撃するのは、無意識の内に対極の位置にいる存在であることを理解し、排除しようとしたため。
我ながらこれ以上にない名推理に笑いたくなる。
同時に、セラがこれからしようとしていることも理解する。彼女は多分アスカを殺す。導き手たるアスカがいなくなれば、この精神世界は永続するのだから。
そして、セラが〈エマヌエルの天使と悪魔〉なら、アスカとチアキは絶対に勝てない。チアキは〈
対抗できるとしたら、真の意味でセラの対になる存在であるハイネだけ。
「あー、もう……お兄ちゃんを最後までこき使ってくれるんだから」
ここで大人しくクレイドル・システムの終了を待とうと思っていたのに、最後の最後でとんだ大仕事が待っていたものだ。
まずはこの大けがを治してセラを追いかける。そして、チアキとアスカに文句を言おう。そう心に決めた。
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