Main Story (2)

視点担当:ハイネ

状況説明:チアキに世界の真実を教えた後、チアキに「アスカは真実が好きなくせして、その存在は全部設定という名前の偽りじゃないか」と言われて別れた後、アスカとハイネの会話。





「なるほど」


 アスカの理想論はとてもまぶしい。それゆえに、彼女に反発するものもいれば、逆に賛同するものもいるだろう。


「でも、それは強い人間の台詞だ」

「強い……?」

「アスカ。君は自覚してないだろうけれど、君は強い」


 相対する目の前の彼女に、敬意さえ抱きながらハイネは告白する。


「君はどこまでも真っ直ぐで高潔だ。理想を掲げ、辛く苦しい道のりであっても、困難と挫折を繰り返しても、何度でも仲間と共に支え合い励まし合い、そして立ち上がり、明日を夢見るのを諦めない――それは、とても人として強くて美しいだろう」


 目を細めながら、アスカを真っ直ぐに見据える。


「――でも、誰でも君のように強くはあれない」


 諭すように優しく言えば、アスカがようやく気付いたようにはっと目を見開いた。


「往々にして強者は弱者を虐げるよ」

「……だが、弱さを言い訳にして逃げていいわけでもないだろう」


 それでも苦い顔をしながら言い返してくる。その姿勢にハイネは苦笑した。


「それも同感だけどね。でも、それこそが強者の台詞なんだってば。君が今のチアキに答えを迫るのは、極端な言い方をすれば、傷ついて心が折れそうな人間を前に、戦えと無茶を言うようなもんだよ」

「私はそういうつもりじゃ……」

「じゃあどういうつもり?」


 ハイネは真綿で包み込むように優しく問いかける。それがアスカを追い詰める発言だとわかっていても、問いかけずにはいられない。

 所詮、分かり合えないとわかっているはずなのに、ハイネはどうもこの少女に問答するのをやめられない。

 それは期待なのか、あるいは〈エマヌエルの天使と悪魔〉として、相対する位置にするアスカを嫌悪しているからなのかはわからないが。

 口をつぐんでしまったアスカに、ハイネはどこまでものんきだった。


「いいじゃない。逃げたいなら逃げれば。ちーちゃんが逃げたいなら好きにさせてあげればいい。俺としてもこの状況は好都合だしね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る