ディアス編

第11話 エルグラシアへ

 迷いの森から出るため、北を目指し歩く俺達。


 ゴーレムが森の外縁にいてくれたおかげで、三十分も歩けば森を抜け、舗装された道に出る。さらに一時間程も歩けば“ディアス”と呼ばれるかなり大きな街、もっというとエルグラシアの主要都市の一つに着くそうだ。因みに、ロレッタの故郷だという。


 勿論、ロレッタもいるのでバイクには乗らない。というか、危なくて到底乗れたものではない。


 バレるというのもあるけど、普通に二人乗りは危険だからね。舗装された道ならまだしも、根が畝る森の中では簡単に振り落とされてしまう。


 それに、今までバイクの類を見たことがない人には、あの爆音は恐怖でしかないだろうし。


 だから、バイクは当分封印! 今度一人で旅に出た時までは、バイクの使用を自粛しよう。身バレ程怖いものはないってことはSNSで学んだ。


「ハジメさ~ん! 楽な乗り物とか出せないんですかぁ……? ずっと森の中を歩いてたから、今私の足パンパンなんですよぉ……」

「……はぁ」



 …………




 ロレッタには少し我慢してもらい、予想通り三十分程歩いた頃、森を抜けた。


 周囲には小さな農村があり、畑や、家畜が放牧されているのが見える。のどかでいいねぇ……。


 そして道の先に見える、周囲を石レンガの城壁で囲まれた、城壁都市――ディアス――。


「アレが、エルグラシア王国が誇るディアスの城壁ですよ!」

「……デカイなぁ」


 国を守る巨大な“石の盾”は、まだ数km離れているというのに、圧倒的な存在感を放っていた。


 なんでも、大昔に魔物や隣国からの襲撃が頻繁に発生した地域であるため、他の国境沿いの街より特に頑強な城壁を構えているそうだ。


「ちなみに、ディアスには冒険者ギルドの支部もありますから、冒険者の登録をするならあそこでできますよ」

「マジか!」


 道すがらロレッタに聞いた話だと、冒険者登録をすれば、ギルドへの通知だけで簡単に旅ができるらしい。


 正直、願ったり叶ったりだよ!


 旅がしやすいってことは、それだけ同郷の人間が見つかる可能性だって高い。


 ……もしかして、俺の目標結構早めに叶っちゃったりするんじゃないか? というか、下手したらディアスにいるんじゃないかな……。


 まあ、早く叶うならそれでもいいんだけどね。もしそうなったら、どこかの街で小さな商店でも開いて生計を立てればいい話だし。


 仮に何処かで立ち往生をして、ここと違う言語の地域に留まらなければいけなくなったとしても、この世界の全ての言語を情報としてインプットした俺には関係ないし。



 ………




 大きな街には必ず検問所があり、他国からの渡航者の場合、必ず入国審査を受けなければいけない。


 それは、国境に一番近い都市であるディアスも例外ではない。


 ……入国審査といっても、初めて訪れる場合でも書類にサインをして、銀貨二枚(日本円換算で二千円程度)支払えばば簡単に通れる。二度目以降なら、初回に渡される証明書を提示すればそれだけで通れる。



 俺は今生憎持ち合わせがないから、銀貨二枚はロレッタから借りた。……仕方ないね。


 宝物庫のガラクタお宝達を売って、すぐに返すよ。


 でもこのシステム、ガチガチの情報社会で慣れてしまった俺からすると、厳つい外壁の見た目に反して非常にザルだ。パソコンも防犯カメラも無いから、仕方ないか……。


 取り敢えず初入国の列に並ぶ。列といっても数人しかいないけどね。


 俺達より先に並んでいた人が、俺達――というか、俺――のことをチラチラ見てくるが、正直あまり気にならないな。見てる人の目があまり悪意がないからかもしれない。『珍しい物を見た』といった感じの視線だな。まあ、もし仮に怪訝に思って見ている人が居たとしても、危害を加えてこなければ別にいいかな。


 しかし、人数の割に結構がかかっている。え、簡単に通れるんじゃなかったの……?


「入国審査って、普通こんなに時間がかかるの?」

「いや? 普通はそんなにかからないと思いますよ? 私はずっと住んでたからわからないですけど……」


 ロレッタに聞いてみたが、理由は知らないみたいだな。


 でもまぁ、人力で全てを行なっているから、何か些細なミスで時間を取るのは仕方ないのかもね。



 …………



「次の方ー!」

「はーい!」


 後ろに並んだお婆さんと話しながら、かれこれ三十分経っただろうか。


 ようやく、俺の番が来たようだ。


 長かったなぁ……。お婆さんの持ってたクッキーが美味しくて助かったよ。


「ではこちらの書類にサインをお願いします」

「はい……ん?」


 ロレッタ曰く、渡された用紙を見て硬直していた時間も、並んでいた時間ほどではないが中々のものだったそうだ。

 …。

 ……。

 ………。

「っはぁ! 危なく呼吸困難になるところだった!」


 何分経った? 五分くらい? もし経ってなくとも俺の体感時間はそれくらい経っている。


「……大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃない」


 用紙の上部、氏名を記入する欄の下。


 ……出身国とか、なんて書けばいいんだよぉぉぉぉぉぉ!


 『迷いの森出身』とか、あの地域一帯人が住んでいないから絶対書けないじゃないか! あーもう! こんな当たり前に聞かれるようなこと、なんで何も考えてなかったんだ、俺!


 とりあえずザワぺディアで検索だな。どこか手頃な場所……。


<第一候補:シャローム王国>


 シャローム? ダメだ。近すぎて、仮に嘘がバレた時に面倒になる。


 どこか、比較的離れたところ……。あった! “エルス聖国”! どうやら、“南方聖教会”とやらの総本山らしい、小さめな国。


 地理的にも条件にバッチリビンゴ! 妖精の森を挟んだ反対側だ。丁度ここ“北の大陸”と、“南の大陸”の間にある国だ。


 前世で言うところの、メキシコのような位置関係といえば、多少はわかりやすいだろうか。分かりずらいね。ごめん。


 ……正直、南方聖教会が一体何かは知らない。調べたくもない。関わりたくもない。なんか怖いから。ま、きっと関わることはないでしょ。あれ? 今フラグ立った? 気のせいだよな?


 それから、俺のペンの動きは早かった。


 ガリガリガリガリ……。

 ばさっ!


「これでお願いします!」

「は、はい!」


 書いたばかりでインクが染み込んでいない用紙と銀貨二枚を受付嬢に手渡した。やりきった感満載の、最高の笑顔で。


「えっと……。エルス聖国出身の……、ハジメさんですね……。はい。記入漏れはありませんね! では、こちらが入国証明書になります。大切になさってくださいね!」


 と言って渡された、俺の名前が記された黒いカード。サイズ的には一般的なICカードくらいか?


 カードの周りが淡く光ってるけど、多分魔法か何かなんだろうな。微妙に魔力を感じる……。というか不自然に温かい。


 あくまで推測だが、盗難・悪用防止のために、多分擦っても名前が消えないとか、その手の魔法がかけられているのだろう。


 試しに袖でベルトサンダー並みのスピード(※自己申告)で擦ってみたけど、凄いな……。ちょっとやそっとじゃ消える気配がない。どうやら予想通り、書かれた文字が消えない魔法がかけられているようだ。


 ザルだとか言ったが、意外にしっかりしてるじゃないか……。魔法の力ってすげー!

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