第12話 ディアスの街並み

「ディアスーー! 最高ーー!」

「わーっちょっと! 急に大声出さないでくださいよ! 一緒にいる私の身にもなってください!」


 ロレッタが必死になって制止するが、この場合、叫んでしまうのもしょうがないと思うんだ。それだけの価値がある。というか叫ばせて!


 周りの視線? 全く気にならないね。だって、目の前の風景がそれ以上なんだもの。


 立派な門を通った先にある城壁都市ディアスは、前世における中世ヨーロッパの街並みを思わせるような、日本人の感覚でいうところの異国情緒漂う、それはそれは綺麗に纏められた街だったのだ。


 それこそ、プロのカメラマンが撮った渾身の一枚をそのまま具現化・立体化したような、そんな美しい街並みと言うべきだろう。


 遠くに見える領主の居城は勿論、住宅や広場の噴水に至るまで、美しい程に白い。しろいいよ!


 日本では絶対見ることのできない、街全体での“統一感”だ。


 非常に見慣れた日本の街並みは、諸外国、こと長い伝統を誇るヨーロッパ諸国と比べて、文明開化以降文化が混ざり合ったということもあり、圧倒的に統一感がないんだよね。地中海の住宅地と日本の一般的な住宅地を比較すれば一目瞭然。雑多としているというか、なんというか。


 新しい物好き過ぎて混ざり過ぎてるんだよね。それが魅力なんだろうが、あまりにも情報量が多すぎると俺は思う。


 そんな雑多な生活から、急に統一的な別世界を目の当たりにしたのだ。そりゃ大声上げて感動もするでしょ。俺だけですか。成る程。


「凄いよ! すごいででででで! ちょっ!? ロレッタ!?」

「そろそろ静かにしてくださいっ! 周りの方々の迷惑になってしまいますよ!」

「わかった! わかったから、あんまり強く耳引っ張らないで……」


 言われて周りを見回すと、四方八方目、目、目。


 微笑ましげな表情の優しそうなご老人もいれば、さも鬱陶しげな顔で睨むゴロツキまで、多種多様過ぎて民衆のバーゲンセールだ。


 ……はい。流石に反省します。ごめんなさい。


 でも、獣人の耳って割と敏感だから、あんまり強く引っ張らないで欲しいんだよね……。痛いってば!



 …………



 門から続くメインストリートを進み、冒険者ギルドを目指す。二十分も歩けば着くそうだ。


 道の脇には出店が出ていて、食べ物の匂いが混ざり合い、適度に食欲を刺激する。


 時刻は昼時。こればかりは致し方なしか……。


「お、焼きソーセージとかもあるんだ」


 露店の中にソーセージの文字を発見した。この世界にもソーセージってあるんだな……。世界が違っていても発想は同じなのか。


「ディアスは畜産が盛んですからね」

「言われてみれば、ここにくる途中何頭か牛を見た気がする」


 具体的にいうと、門の外、小さな農村とみられる地域で放牧していた。あそこもディアスの一部なのだろうか……。多分、ただの郊外の集落といった感じだろうな。


 にしてもいいのか……? 森の中に狼君達いたけど。彼等牛を襲ってこないのか……? という心の中のツッコミはそのまま心の奥底に閉まっておこう。きっと何か、対策はしているだろうし。


「……ソーセージ、食べます?」

「いいの?」

「いいのも何も、めちゃくちゃ食べたそうな目で見てたじゃないですか」


 くっ、バレたか……。バレたらしょうがないね。頂こう。丁度お腹空いてたんだよね! やったぜ!


 でも、こっち来てから焼き肉系多いよね。ビタミンCを取るためにも野菜もしっかり食べよう! って問答無用で無理矢理味気のないコーン食わされちゃうよ! 俺玉蜀黍そんなに好きじゃないのにさ。


 まぁそれを無視して体調崩しても、最悪朝飲んだ栄養ドリンクがあるからなんとかなるんだけどね。


 ちなみに、またも支出はロレッタの財布から。毎度毎度ありがとうねぇ……。


「ありがとう。いただきまーす!」

「……その代わり、このお金は後でしっかり返してもらいますからね?」

 ヒシッ!


「分かってるってば……」


 今日はからっとした秋晴れで、日差しのおかげでそこそこ気温も高い。


 だが、俺の周りだけ非常に空気が冷たかった。……ロレッタ、ほんわかした見た目に反して恐ろしい子!



 ◆◇◆



 焼きたてのソーセージをはふはふ言いながら咥え歩いていると、別段豪勢という訳でもなく、かといって質素すぎない、適度な装飾が施された三階建てのこれまた真っ白な建物が見えてきた。


「ここが……」

「そう! 冒険者ギルド、ディアス支部です!」


 へぇ……これが冒険者ギルドねぇ……。俺が思ってたよりずっと綺麗だ。というか纏まってる。単一表現の美ってやつ?


 ただ割と質素だな……。でもそうか。外装が変に豪華だったりごちゃごちゃしてたら、新米冒険者とか貧乏人は入りづらいよな。俺は入りたくない。絶対に。


 ふぅ……。

 外観は大体見たし、期待を胸に、重い木の扉を押しいざ中へ! どんな見た目なんだろう……。


 かららん。


「いい加減にしろ! 何度言えばわかるんだ!」

「それはこっちの台詞だ! この頑固オヤジ!」


 うわぁびっくりした……。扉を開けた瞬間野太い怒号が聞こえてくるとか、ハッキリいって心臓に悪いよ……。


 改めて中を覗くと、胸倉を掴み合い、お互い罵声し合う親子とみられる男達が見えた。その様子を、呆れながら眺めている冒険者達と、数名のギルド職員。


「え……何これ」

「あー、成る程、そうなっちゃいましたか……」

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