第10話 ゴーレム討伐作戦 5 討伐
外が明るくなった頃、俺はテントから出て、火を起こして簡単なスープを作る。
とはいっても、出汁は昨日のうちに兎の骨でとってたんだけどね。
だし汁に昨日採集したキノコや山菜(ザワぺディアで毒の有無は確認済み)やロレーヌから貰った香草ぶっ込んでいく。
少し味見……うん。いい感じだ。キノコの旨味も出てて味わい深い。俺史上、最も美味くできたスープなんじゃないか? ……そんなことはないね。香辛料の類はまるで入っていないから、日本の料理になれた俺には塩気が薄すぎる。
と、匂いにつられたのかロレッタがテントから這い出てきた。その髪はかなりボサボサになっている。一見すると別人みたいだな。
「ふぇぇ……もう朝ですかぁ……?」
「もう少しでできるから、その間に支度しておけよ。食ったらすぐに出発だからな」
「はぁい……」
うん。まだ寝ぼけてるみたいだ。
………
「いただきます!」
「はいどうぞ、召し上がれ」
今日の朝食は、先程のスープと、ロレッタが持っていた乾パン。そして……
「ハジメさん、これなんですか?」
ロレッタは、食器とともに置かれていた瓶を指差した。瓶の表面には、こちらの言葉で『栄養満点!』とだけ書かれている。
「これは……『栄養剤』ってとこかな」
……そう、栄養ドリンクである。
流石に昨日から肉ばかり食べてるから、確実に栄養分が偏っている。ビタミンが足りないと最悪死ぬ。
死ななくとも、これから激しく運動するというのに栄養不足でぶっ倒れたらまずいだろう。
ということで、ロレッタが起きる前にあらかじめ数本作製した。勿論、味は保証済み。何回か練習した。……正直、そろそろスキルアクションに使用制限がかかるんじゃないかって心配になってきたぞ。
「『栄養剤』って……ハジメさん、調薬もできるんですか!? 『調薬師』持ち?」
惜しい! 俺が持っているスキルは『調合者』であって、『調薬師』ではない。多分上位スキルなんだろうけどさ。
そもそも調合者って全く使ったことないな。それどころか、ほとんど『創造者』だけで済ませているよね。何これ勿体ねぇ~。
「『調薬師』ではないけど、スキルで作ってるんだ」
デモンストレーションとして、適当大きさの石を指先で触れて削っていく。すると、一分もしない間に石彫の猫が完成した。
「……凄い! 凄いです! 魔法みたい!」
「でしょ?」
ま、ユニークスキルだから、現実っぽくないのも当然といえば当然だよね。
ゴーレムの討伐でも、この能力を惜しげもなくジャンジャン使っていくよ!
◆◇◆
森の中は昨日と変わらず。鬱蒼と茂った葉が獣道の上に被さり、その影に幾つかの小さな魔物の気配がする。
別段脅威でもないし、根こそぎ狩るのも生態系を崩しかねないから、無視だな。
そもそもアイアンゴーレムなんてイレギュラーな魔物、虱潰しに探し回る必要はない。
俺の手にある二本の棒……そう、『アイアンゴーレムのいる方向を指すダウジングロッド』さえあれば。
探索開始から一時間程が経過した頃だ。手元のダウジングロッドが動いた。アイアンゴーレムが近い証拠だ。
「近いようだ。気をつけろよ。ゴーレムが出てきたら配置についてくれ」
「……はい」
アイアンゴーレムの体高は、約三m。普通ならば目視で確認できてもおかしくないが、遮蔽物の多い森の中では、周囲を見渡しても中々見つからない。
現に、俺の視界では確認できていない。もしかしたら狼の能力を得たことで視力が下がっているのかもしれないけど……。
でもロレッタも先程からキョロキョロしているから、特に問題はなさそう。
ギィィ……。
二時の方向より、なにやら音がした。その方向から、人間ではわからないレベルで微かに臭う鉄の香り。こういう時、狼の獣人でよかったって思う。
「あの音……間違いありません。ゴーレムの駆動音です」
「俺の方でも匂いを感知した。……作戦は覚えてるな?」
「大丈夫です」
よし、じゃあ……仕掛ける!
俺は駆動音のした方向に、懐(という名の四次元空間)から取り出した赤い玉を投擲した。
ドォン!
『――――!?』
直後に破裂し、森林に轟音を響かせた。と同時に、辺り一帯が激しい光に包まれる。
俺が投げたのは、『閃光弾のようなもの』。
実際の閃光弾とは結構違うが、木などの障害物に当たると砕け、轟音と閃光を放つようにしてある。
――アイアンゴーレムは目と耳がある。それも、人間と同じような機能を持つものが――
ラミスさん他妖精族の人達に教えてもらった知識だ。
人と同じ耳なら、突然の轟音に驚く。人と同じ目なら、突然の光には対応できない。
そうして悶えている隙に、目を閉じても狼らしく嗅覚に頼り行動できる俺が、アイアンゴーレムの前面に回り込む。
目で見ていないからわからないが、案の定効いているようだ。
ズガガガガガガガガ!
『――! ――! ――!』
「おいおい大物サン! 獲物はここだぜ!」
十秒ほどの発光が終わったと同時に、ゴーレムに対して挑発をかけた。
聞こえたかどうかはわからないが、ゴーレムはそれまでの挙動が嘘のように、静かに俺の方に目を向けた、ゴーレム。
流線型な胴体の上に乗る、
ウィーン……。
アイアンゴーレムが右腕を上げ、構える。それを見て、俺も臨戦態勢をとった。
先に動いたのはアイアンゴーレムだった。
ウィィィィィン!
『――!』
高く上げた腕を、俺目掛け一気に振り落とした。
「ッ!」
間一髪回避した瞬間、俺がいた場所が大きく抉れた。これ、噂以上じゃない? 早めにけりをつけないと! 幸い相手は隙だらけだ! 今ならいける!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
瞬時に間合いを詰め、地面に突き刺さった隙だらけの腕の、関節部目掛けて剣を振る。
ガンッ!
今の一撃で、関節に大きなヒビが入った。どうやら、聞いていた通り関節はそれほど硬くないようだ。
続けて攻撃を加えようとしたが、フリーになっていた左腕が頭上から降ってきた。
「ヤベェっ!」
咄嗟に右腕を掴み、跳び箱的な感じで飛び越え、スレスレで回避。
と同時に、再び先程まで俺がいた場所の地面が抉られた。ただ今回違うのは……。
バリバリバリバリ……。
バァン!
『――――!?』
アイアンゴーレムの右腕が、俺が付けた傷からヒビが入り、徐々に粉々になったということだ。
地面に突き刺さるようになっていた右腕は、関節部を大きく傷つけられたこともあって、重い腕を上げることは厳しい。となると、左腕の衝撃をモロに受けてしまう。
そうすれば、俺が手を加えずとも、自分の攻撃で勝手に自傷してくれるって訳だ。
『――!』
でもまだ油断はできない。何せ、元気に左腕が残っているのだから。
でも、油断ができない状況であるのは相手も同じなのだ。……油断しきってるみたいだけど。
アイアンゴーレムが、怒り狂ったような形相(最も、外見に変化はないのだが)で、残った左腕を振り上げた。
「ロレッタァッ! 今だ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『――!?』
俺の合図とともに、アイアンゴーレムの背後に潜伏していたロレーヌが、アイアンゴーレムの“背中”に向けて剣を突き出す。
普通の剣ならば、硬質な鉄に弾かれる筈の一撃。
……勿論、普通ならね?
グサッ!
『――? ……――!!!?』
ロレッタの『鉄を切り裂く処理』が施されたロングソードは、いとも容易くアイアンゴーレムの背中を貫き、胸を突き破った。
と同時に、胸にできた大きな傷から黒い液体が溢れてきた。……心臓部にある“コア”の中の液体だ。
液体が完全に流出すると、アイアンゴーレムは機能を停止する。要は死んで、ただの鉄塊になるわけだ。
今回のゴーレム戦の作戦は、「本筋では俺がコツコツとパーツを壊していくものだと思わせ、完全に俺に注意が向いたところでロレッタが一撃で沈める」、というものだった。
勿論、四肢を破壊して行動不能にするだけでもよかった。しかし、ラミスさんが話していた遠距離攻撃をしてくる可能性も十分にあった為、即座に決着を付ける必要があったのだ。
俺達の思惑通り、ゴーレムが引っかかってくれて助かった。
まだギリギリ生きているアイアンゴーレムの頭部を潰し、完全に機能を停止させた。
これで、依頼達成!
「あの……」
「ん? どうした?」
「この能力を持ってるんだったら、ハジメさんが危険な囮役を買って出る必要はなかったんじゃないかなって思いまして」
「いや、そこは……アレだよ、欲に負けたんだよ」
ロレッタさん? 急にテンション変わりすぎじゃないかなぁ? さっきまで「やったよ皆! 仇は取ったよ!」なんて言いながら泣き崩れてたのに……。一瞬で鋭い質問をぶつけてくるとは。この娘、只者じゃないな!? 只人だけどさ!
「それに、最初にも言った通りロレッタの仇討ちでもあったから、ぜひともロレッタに活躍して欲しかったんだよ」
「……! ハジメさんっ! ありがとうございます!」
……ロレッタの笑顔、そういえば初めて見たかもしれない。……いや、肉食べてた時とか、俺も必死になって食べてたから見てなかっただけかもしれないけど。
とりあえず、こうして真っ直ぐ向かい合って笑顔を見たのは初めてだろう。
うんうん。嬉しそうで何より。お兄さんも嬉しいよ……。ダメだ、泣きそうだ。最近涙脆くなってきて、「相澤、流石に老化早すぎるでしょ」って課長(四十三)にからかわれたのになぁ……。
あのしっかり者の課長にも会えないのか……。だめだ本当に泣くわこれ。ポジティブポジティブ! 残業する必要がなくなったと思えば、かなり気楽だな。って、違うよ! 俺の話じゃないよ!
ロレッタ、お疲れ様!
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