第9話 ゴーレム討伐作戦 4 仲間

 既にアイアンゴーレムにより人的被害が出ている。いつ周囲の住人への被害が出てもおかしくない。


 これは、急ぎ対応をしなければならないな。ま、今日はもう日も暮れてきたしここで寝るんだけど。


「俺は明日、そのアイアンゴーレムを討伐しに行く」

「討伐!? そんなぁ! 一人じゃ無理ですよ! あんな化け物、王国軍の騎士団に任せた方が……」

「任せるっていっても、ここからそのエルグラシアの王都まで、結構離れてるんだろ? 仮に早く着いても、国が自国の軍を動かすには相応の時間がかかる。人も食料も馬も荷馬車も必要なんだ。その間に周辺の村に甚大な被害が出たら、取り返しがつかないことになるぞ」


 俺の持論を聞いて、ロレッタはやや不安げな顔になる。まあ、無理はないわな。


「まあ安心しなって! 妖精族の……やっぱ今はやめよ。ヘマさえしなけば、知能の欠片もないゴーレム程度何とかできるさ! ヘマさえしなければ!」

「……そうですね。ハジメさんなら、なんだかできそうです」


 俺の苦し紛れの慰めも、ロレッタにとって自信を持つには十分な働きをしたらしい。そのスカイブルーの瞳からは、不安の色は多少抜けたな。


 そ・れ・よ・り・も! 異世界人だって間接的にもバレるのは、俺の直感がマズイと告げている。だから勿論隠していくスタンスだ。異論は認めないし、言わせない。……そのせいで何か隠し事があるってことは、完全にバレただろうけどね。


 だが、俺の考えはここからが本題だ。


「で、俺一人だけだと確実にヘマをして失敗するから、できればロレッタに手伝ってもらいたいんだけど……」

「…………」


 俺が急に態度を変えて下手に出たのが余程気持ち悪かったのか、ロレッタは口には出さないが軽蔑の視線を向けてくる。……そんなに気持ち悪いかなぁ? まあいいや。


 アイアンゴーレムと一度遭遇しているロレッタは、討伐において必要不可欠なピースであると考えた。相手の特性や攻撃方法を、間近で見た訳だし。


 それに二人いれば、陽動、背後からの奇襲など、二体一の数的有利を生かした戦術を取れるようになる。相対的に勝率も上がるだろう。


 まぁ、あくまで戦闘なんてど素人な俺の推測の域を出ないものではあるけど。


「ハジメさん」

「ん?」

「私、あのゴーレムが憎いんです。仲間を一方的に殺されましたし……。できることなら、私の手で倒したい。でも、私一人では到底できません。だから――」


「私も、同行させてください! お願いします!」


 いつの間にやら溢れ出していた滝のような涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、血を吐くような勢いでそう叫ぶロレッタ。


 その声には強い決意が感じられ、思わず身動ぎしてしまう程だった……なんてのは流石に誇張し過ぎかな?


 しかしその顔は、先ほどまでの年相応の可愛らしい顔と打って変わって、大人びた凛々しい顔立ちに見えた。


「よっしゃ! やるからには徹底的に叩くぞ!」

「はいっ!」


 こうして俺達は、アイアンゴーレム討伐の為だけの臨時パーティを組むことになったのだった。



 ………



 角兎の焼肉を食べ終え、“創造”で生成した『適当な大きさの丈夫な樽』を用いた風呂に交代で入った。


 そりゃ、俺は魔物を捌いたから血まみれだったし、ロレッタは仲間の返り血で血まみれだったからね。


 勿論覗きはしないよ。ラノベなんかだとラッキーがあるけど、元々三十歳超えのおっさん予備軍だったし、それに俺は紳士だから、そんなものはないよ。


 夏場だったら水浴びくらいでよかったんだけど、流石に一〇度くらいしかない中で水浴びはちょっとね……。高確率で風邪引いちゃうよね。


 今は、俺の出した『保温性の高い、厚手の毛布』に包まり、焚き火の前で温まっている。ぬくぬくぅ~。


 太陽はすでに地平線の彼方に沈み、満天の星空が宵の暗闇の中で煌めいていた。灯もガスもないから、ガスもかからず、余計な光もなく、純粋にしっかり星が見えるんだな。いやー綺麗だ……。都心部では絶対に見れないな。地方都市ですらシリウスがやっと見えるくらいだった訳だし。


「あの……、ところでなんですけどぉ……」

「ん? どしたの?」


 そんな星空を見上げていた俺に、ロレッタが申し訳なさげな顔で話しかけてきた。


 なんだい? この毛布の出所か? ふふん! それはなぁ……。


 しかし、俺の期待に反しロレッタはテントを指差し、


「……テントって、一つだけですか?」


 ……そう、ロレッタが申し訳なさげに尋ねてきた。その若干の上目遣いやめろ! 不覚にもときめきそうになっただろ!


 にしてもだ。いやぁ~すっかり忘れていたよ。いくら臨時パーティを組んだといっても、付き合ってもない男女が一緒のテントで寝るのは倫理的にマズイだろう。そこら辺の配慮がなってなかった俺をどうか殺してください……。


 いや、もしかしたら狭いテントの中に男女ごちゃ混ぜで寝るパーティも、中にはあるかもしれない。でもそれは、男女複数名いる場合であり、男女二人きりはやっぱりマズイね。


「ちょっと待ってて、今出すから」


 仕方ない。しっかりとしたテント、もう一つ出しますか……。


 何もない所からテントを出したら、やっぱりまた驚かれた。これ何度見ても驚くよね。俺だってまだ少しびっくりするもん。


 お互い早めに慣れような! まぁ、ゴーレム退治の後も長い付き合いになるかはわからないけどね。


 そして寝るまでの間、ロレッタが冒険者になってから起こった出来事についてあれやこれやと聞いた。その中には、冒険者間の暗黙の掟など、結構参考になるものも多かった。


 ……楽しかったよ。気を使わずに話せて。


 正直森都は居づらいかったんだよね。周りの妖精達が変によいしょしてくるからさ……。


 こうして、異世界二日目の夜は過ぎて行く――。

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