第8話 ゴーレム討伐作戦 3 冒険者の少女

 狼君ズは、たらふく食って満腹になったのか帰っていった。


 皆がっつくものだから、もう骨しか残ってないよ……。仕方ない。ここに捨てていこう。どうせ特に売れないだろうし。俺豚骨はあまり好きじゃなかったし……。


「よし、これで終わりっと! さぁ! 無駄に時間を使っちゃったけど、魔物討伐再開だ!」


 出していた物の中で、再使用できそうなものを片っ端から次元収納にブチ込み、自分を鼓舞するようにそう叫ぶ。よっしゃ! 飛ばしてくぞ!



 ◆◇◆



 再びバイクで悪路を走ること一時間。木々の間から川が見えてきた。


 地図と照らし合わせてみると、どうやら目的地はすぐそこのようだ。


「あー……」


 長時間水分補給してないから流石に喉乾いたな……。喉ガラガラだし。能力で出せるだろって? 飲み水はなんだか嫌なの!


 ということで、ちょっと寄り道! 川へ向けてレッツゴー!



 ………



「結構澄んでるな……」


 思わず口に出してしまうほど、川が綺麗だった。それもそうか。ガチャの時インプットされた情勢から察するに、この世界では産業革命が起こっておらず、大規模な環境破壊は行われていないらしいから。


 ま、魔法で何とかできる世界だから、重工業は無用か。


 早速、大小二つの鍋と中心が凹んだ円形の蓋、そして焼肉で使った火打ち石を取り出し、昔サバイバル番組で観た簡単な蒸留装置を創る。


 ぱっと見澄んでいるといっても、川の水の中に何がいるかわからない。下手に川の水を飲んで、戦闘中に食中毒でグロッキーにでもなったら死んでも笑えない。


 適当な枯れ木や落ち葉に火打ち石で火をつけ、大きい方の鍋に半分くらい水を入れる。その中に小さな鍋を入れて、蓋をすれば、蒸留装置の完成!


 あとは蒸発して、純水が小さい鍋に溜まるのを待つのみ。


 でもこれ、結構時間かかるんだよなぁ……。非効率だから量を確保するには何回かやらないといけないし。


 最悪ここで野営しようか。現在大体二時くらい。今から食料を調達したら、結構いい時間になるだろう。


 それに、無理して夜に戦闘するのは危険だ。よく夜戦なんていうけど、それは平地での話。魔物の多い森だと、夜中は下手に動くと夜行性の魔物に襲われるリスクも増える(拡張・進化したザワぺディア参照)。


 それよりだったら、場所もそう遠くないんだし、休んで体力を回復させた方が余程良策だろう。


 幸いにもここ、ちょっと拓けてるし、大きいテントを張っても問題ないだろう。こんな危険な森の中、誰が通るって訳でもない。



 ◆◇◆



 現在、おそらく十六時。


 この地域には四季があるらしい(ザワぺディアより)。現在は秋。俺が死んだのも秋だから、分かりやすくて助かる。


 それで、何が言いたいかといえば……もう、結構暗いんです。


 あれから即席で創ったテントを張り、あまり離れすぎないように周囲を探索した。角の生えた……兎? も何羽か獲得。水も蒸留が終わり、現在冷ましている。


 ここまで聞くと、何も問題ないと思うじゃん?


 ……結構、寒いんだ。


 俺の今の服装は、この身体の元の持ち主のものらしい、民族衣装チックな上下ボロ着のみ。


 寒いわ! よくこんな服着てこの森いたね! 君……。


 焚き火の前で温まっているが、どうにも、ねぇ……。

 …。

 ……。

 ………。

 って、ああ! 能力で出せるじゃん!


 まだ異世界二日目、能力の存在を忘れるのは仕方ないね。


 よし、最強最温なパーフェクト湯たんぽ創ろ……。


 カサッ。


 ん? 何かいるな……。


 魔物であった時のために、先程の剣を次元収納から取り出して即座に臨戦態勢をとった。


 がさがさッ。

「……いい匂い」


 現れたのは、おそらく只人族と思われる、十五歳前後と思われる少女だ。


 それなりにちゃんとした装備を纏っているから、恐らく冒険者か何かだろう。それもそれなりの実力者と見た。ということは、後何人かパーティメンバが居る筈だ。


 しかし、仲間が現れる気配は一切ない。もしや……魔物に殺られたか? その可能性が高いな。


 少女は、俺のプライベートスペースの中心にある焚き火を目指し、肩まで伸ばした金髪を揺らしながらゆらゆらと進む。まるで俺が見えていないかのように……。てか、本当に見えてないんじゃない? 大丈夫?


 そして、気付けば目の前にいた少女は、既に焼けていた兎肉の串に手を伸ばし……。


「……いただきまーす!」

「ストーップ! ストップ! それ、俺の肉だからーッ! ねぇ、ちょっとー!?」



 ◆◇◆



 俺の必死の説得で、少女はようやく正気を取り戻した。


 森の中を長時間歩き回ってお腹すいてたのね。この兎肉なかなか美味しいし、沢山あるから、たーんとおあがり。田舎の薄らボケお婆ちゃんパート1。


「助けていただき、ありがとうございます……ってぇ! きゃあああああああああ!」

「……えぇ?」


 ……目が合った瞬間めちゃくちゃ怯えられたんだけど! なんで!? てかここまでサスペンス的な悲鳴も中々真っ正面で聞けるものじゃないよね。


 とそうだった。猪の魔物なりなんなりを狩って、今顔から何から全身血塗れなんだった。そりゃ怯えるのも無理ないわな。


 身の潔白を証明するためにも、これは早急に着替える必要があるな。


 ということで川辺から離れ、適当に服を……どうしようかな。


 ええい! もうテキトーな上下にパーカーでいいや! ちゃんとしたコートなりなんなりは後で出せばいいさ!


 ということで、それなりにカジュアルだと思う格好に着替えてきたら、冒険者の少女はかなり驚いた顔をして、次に安堵の表情を見せた。うんうん。誤解が解けて何より。


 あとは、随時焼けたお肉を分けつつ、じっくり話を聞いていこうじゃないか。


 ………


「もぐもぐ……私はロレッタ。エルグラシア王国のもぐもぐ冒険者ギルドにもぐ所属する、もぐもぐ駆け出しの冒険者です……ごくん」

「そんな詰め込まなくても、肉は逃げないぞ?」

「ダメです! 話してるうちにお肉が冷めちゃったら、勿体ないですよ!」

「その時はまた温めるから」

「そうですか? ならさっさと話しちゃいますね!」


 話を聞けば、ギルドで手頃な薬草調達の依頼を受け、この森をパーティを組んでいた仲間とともに散策していたとの事。


 迷いの森は、内部は魔物も多く、迷いやすいため危険だ。しかし、外縁は魔物も比較的少なく、出てきたとしてもさっきの角兎ホーンラビット程度のため、冒険者達の中では比較的安全とされている。そのため、パーティメンバー全員が、動きやすい軽装で赴いたようだ。


 その後の油断しきったお仲間の展開は……お察しください。


 仲間の援護もあり、ロレッタだけが逃げ切れたはいいものの、道に迷い、帰投できず彷徨っていたところ、俺に出会ったと。


 しかし、エルグラシア王国ねぇ……。ザワぺディアが表示した地図的にも、ラミスさん製の地図的にも、森の北側に隣接する国はシャローム魔法王国だけだと思っていたが、地図を見返して見るとここは森の北東部、北のシャロームと、東のエルグラシアの国境線上らしい。成る程ね。


 ただ、話を聞いて引っかかった点が一つ。


「その、仲間を殺した魔物って、もしかしてアイアンゴーレムか?」

「……ッ! そうです。アイアンゴーレム、でした……」


 その仇の魔物というのが、俺の討伐対象であるということだ。

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