第6話 ゴーレム討伐作戦 1 移動手段

 武器をほぼ全て次元空間に収納した後、特別に料理をご馳走してもらい、寝床まで用意してもらった。ホント有難い……。


 明日からは討伐作戦開始だし、ここでしっかり休まないとな。



 ◆◇◆



 朝だ! 作戦開始の朝が来た!


 いや、時間的に朝ってだけで、別に朝日とかは差し込んで来ないんだけどね。地下だもの。


 カンカンカンカン!

「ハジメ殿! 朝食の用意ができましたよ!」


 メイド的な役割らしい、上位者達よりも一回り小柄なおかっぱ頭の少女がフライパンを叩き鳴らし、無理やり起こされた。


 しかし煩いなぁ。別に耳元で鳴らさなくたっていいじゃないか。こっちはベッドが予想よりも硬かったお陰で、殆ど寝れてないんというのに……。


 もう一時間くらい寝かせて欲しい……。


 カンカンカンカンカンカンカンカン!


「あーもう! 起きればいいんでしょ! 起きれば!」



 ◆◇◆



「ゴーレムの出現場所は、こちらに記されている通りです」

「はい。ありがとうございます」


 朝食を摂った後、ラミスさんに呼ばれ、現在執務室に来ている。


 簡単な挨拶を済ませ、作戦の最終確認をして、目的地までの簡単な地図と方位磁針を貰った。


 この世界で、というか人間社会では方位磁針はかなり高価らしい。


 何故そんなものを? と思ったが、理由は簡単。幻覚作用のある植物のおかげで迷いやすいらしく、森を歩く上では最低でも持つべき必需品なのだとか。


 必需品とはいっても、この森に入ってくる傭兵や盗賊はそんなもの持っていないから、すぐに道に迷って魔物達の餌になっているみたいだけど。


 というか、持っていても実力がなければ餌に……。


 駄目だ! マイナスなことは考えないことにしよう。なんだってポジティブが一番だ。ケ・セラ・セラってね!


 取り敢えず方位磁針があれば、相当安心だ。道に関しては。


 そう、“道”は……。


「……ところでなんですけど……」

「はい?」

「俺、戦えるんですかねぇ? 前世で剣なんて握ったことないんですけど……」


 ついさっき言ったばかりのポジティブシンキングを一瞬で諦めてしまうほどの、深刻な問題。そう、俺の戦闘力。


 たくさんサポートしてもらったけれど、正直依頼以前の問題が一番不安だ。

 “戦いは武器の性能だけが全てじゃない”というのは、戦いのない前世の時点で一般常識として知っていたことも、不安を駆り立てていた一因だろう。戦いは数だよ兄貴……。


 例え高性能なパソコンがあっても、それを生かせる人材がいなければ意味がない。


 それと同じで、例え剣の切れ味が良くても、取り回しが良くても、使用者が相手に順応した動きができなければ無駄死にするだけなのだ。


 俺? 俺は、前世で碌に運動をしていなかったこともあり、ハッキリ言って運動音痴。到底そんな動きできる筈がない。そもそも、目的地までたどり着けるかも怪しい。


 そんな俺が、戦えと言われて戦えるわけない……


「そこに関しては、多分大丈夫ですよ?」

「ですよねー……ん? 大丈夫?」

「いやその……貴方を呼び出す為の素体に使ったその身体、結構優秀な方の狼獣人だったみたいで、多分身体に感覚が残ってると思うんですよ」

「そうなの?」

「はい。ですから、心配する必要はないかと」


 ……戦えないんじゃないかと悶々としていた時間を返して欲しい。というか、最初に言って欲しい。


 あ、てっきり知ってるものだと思ってましたか。成る程。


 いや、普通分からないよ!



 ◆◇◆



「それじゃ! 行ってきます!」

「「「「「「「「行ってらっしゃい!!」」」」」」」」

「お気をつけて!」

「絶対に死なないでくださいよ!」


 クールに手を振り、立ち去る俺。くぅ~今最高に決まってるんじゃない? カメラがあったら絵になったと思うよ。


 妖精族の大声援を背中に受け、俺は人間の国側――入った時とは対になる位置――の階段を登り、森都を出た。


「ああ~。新鮮な空気が美味い」


 久々のシャバだ! 空気が清い! って、一日しか地下にいなかったんだけど。


 森都が結構広かったお陰で、目的地までは、直線距離で大体徒歩で七時間程のの距離らしい……うへぇ、七時間以上も歩くの?


 こっちの住民的には普通なのかもしれないが、俺的に超辛いんですけど。


 まあいいか……頑張って歩こう。


 途中弱めな魔物とエンカウントできれば、本当に俺が戦えるかもわかるし。


 でも七時間なぁ……どうにかして時短できないものか……。

 …。

 ……。

 ………。

 あ! いいこと思いついた! でも可能だろうか……。ザワぺディアザワぺディア……。


<解:可能です>

「キアアアアアアアシャベッタアアアアアアア!」



 ………



 俺が落ち着いたのを見計らって(?)、先程の声――機械音声のような女性の声は、自らが何者かを語り出した。


<私は主が“ザワぺディア”と呼称する存在です。“智慧之核”の恩恵によりライブラリ機能兼自動演算システムとして、主をサポートするため誕生しました>

「つまり、俺の中にいるAIってこと?」

<是:そのような認識で構いません>

「その高性能AIさんは、俺の計画は可能だって判断したってこと?」

<是:成功率九〇%です>

「そっか」


 機械音声――ザワぺディアは、淡々とそう告げた。自分の中の存在と会話するって、ラノベとかだとあるあるだけどいざ自分がなると変な感じだな。


 まあいいや。できるっていうならできるんだろう。なら、やってみるまでだぜ!


 と、その前に、広い場所を確保し、一息置いて……。


(何かこう……山道でも余裕で走破できそうな魔力で走るバイク! 見た目は俺の愛車! 出ろ!)


『創造者』のスキルアクション“創造”を発動し、無からバイクもどきを創り出す。


 そして、大体五m程先の広い場所に出現した、使い慣れたイカしたバイク……って、あれ? ちょっとショボくない? 具体的にいうと、前世で使っていた愛車より一回りくらい小さい……。


 まあいいや。一回乗ってみよう。最悪四次元空間に放り込んで、後で処分すればいいし。


 そして、同時に出現したキーでエンジンを入れ、バイクに腰掛け、アクセルに手をかけた……次の瞬間。


 ……轟音と共に土煙が舞い上がり、視界が晴れた頃には、あたかも今まで何も存在していなかったかのような静寂があるだけだった。



 ◆◇◆



 静かな森を飛び跳ねながら爆走する一台のバイク。


「ぎゃああああああああああああああああ!」


 速い速い速いィ! 流石に速すぎるって! 誰だよ! こんな爆速暴走バイク作ったの! ……俺か。


 でもなんで? 俺、アクセルに触っただけなんだけど!? 捻ってないのになんで!? というか、ギアチェンジもしてないのに、なんで加速するのさ!


 ってもしかして、アクセルを握る、というかアクセルに“魔力を込める”ことで動いているのか? ようわからんなぁ……(思考放棄)


 そう思い、手に入れる力を少し弱く……ってああ! まるで意味がない! そもそも魔力の扱い方、知らなかった! ラミスさんに聞いておけばよかったよ!


 続いて、バランスを崩して振り落とされないように、そっとアクセルから手を離すと、ゆっくり減速し……止まった。目前一m程先には、大木。


「あ、危ねぇ~……」


 成る程、“魔力で動く”ってしか指定しなかったから、魔力センサーがとんでもないところアクセルに直に付いちゃったか。


 うーん。走ったには走ったから、初めてにしてはまぁまぁ。成功なんだろうけど、“創造”も魔力の扱い方も、もうちょっと練習しないとな。


 バイク? 勿体ないけど、もう一回作り直そうか……。


<了:問題点を踏まえ、“創造”したオブジェクトの再構築を開始します。完了まで、約三秒>


 早っ!?

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