第5話 森都の宝物館
別室を出て、再び会議室へ。
俺以外に集まったのは、森都の幾つかに別れた地区の区長達と、その秘書。そして、彼らを束ねる妖精族の族長であるラミスさん。
先程は少しモタついたせいで余りよく回りが見えなかったが、集まったメンバー、思っていたより凄いな。まるで森都オールスターじゃないか。
こんなところに俺みたいな部外者がいて良いのか? ……って、俺はラミスさんから依頼を受けていたからセーフか。
「先程は失礼致しました。この度ラミス様より討伐依頼を承りました、異世界人のハジメと申します。宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しく頼む」
よしよし。念話じゃなく、しっかりとした会話ができてる。これで一安心だ。
………
俺を交えた魔物対策緊急会議、そして森都として正式な俺への討伐依頼は、あれやこれやと様々な意見や有益な情報が飛び交い、かなり熱い議論になった。
「アイアンゴーレム? そいつが、今回の討伐対象ですか?」
「そうです」
勿論、討伐依頼なので、討伐対象の情報が最優先なワケで。
アイアンゴーレム。
“魔素渦”と呼ばれる、魔素が異様に濃い地域で、ごく稀に発生する“ゴーレム”の一種で、鉄鉱石を主な材料としている。
その特徴は、なんと言ってもRPG宜しく魔法攻撃が効かない点。
さらに全身が上質な鉄で覆われたアイアンゴーレムは、大抵の物理攻撃も効果がない。
露出した球体関節が唯一の弱点だが、一箇所潰した程度では特に怯みはしない。
しまいには空中に鉄塊を生成しての遠距離攻撃も……ってオイ!
「なんでこんな危ない依頼、初対面の、それもど素人に任せようとしてるんですか! そんなもの、戦闘のプロに頼んでくださいよ! こっちの世界にもいるんでしょ! 傭兵とか! 冒険者とか!」
「「「「…………」」」」
あれ? なんで皆そんな顔して……。もしかして地雷踏んだ?
「私達妖精は、魔法しか使えないから、魔法が効かない相手には相性が悪くて……」
「傭兵ギルドに依頼を持っていくにも、大体途中で金目当ての貧乏傭兵に攫われるし……」
「例え無事に持っていけても、その地域に腕の良い傭兵がいるとも限らないし……」
「そもそも儂等は、人間の貨幣を使わんのじゃ……」
あ、はい。適任者が俺しかいなかったってことですか。成る程。畜生ーーッ!
◆◇◆
なんやかんやで数時間が過ぎ、会議は解散。
まあ早く終わって助かった。あのまま続いても精神的に苦痛でしかなかっただろうし。
それで今は、ラミスさんや数名の物好きな区長達の案内で、議事堂地下(?)にある森都の武器庫という名の物置へ向かっている。
しかし、今日移動が多いな……。異世界初日って、もっとこう、右も左もわからぬ主人公を拾ってくれた、心優しい
俺? もうとっくに昼過ぎてるよ! なんなら夕暮れ時だよ多分。地下だから、外の様子が全く分からないから何とも言えないけど。
万歩計とかがあったらきっと凄いことになってるだろう。
朝方に目が覚めて、ラミスさんに会って、草原から森都まで大体徒歩で四時間。昼時に森都の入り口について、そこから地下に降りるのに三十分。そして、議事堂まで約一時間。二、三時間程度の会議を挟んで、また移動……。
…。
……。
………。
(いい加減、どこかで落ち着いて座りたい!)
「こちらです」
「……え? おお、おお~! うおぉおおおおおおお!?」
なんて考えてたら、武器庫に着いたみたいだ。
武器庫といっても、本当にただの物置って感じだ。滅茶苦茶広いし、滅茶苦茶高価そうなギラッギラな武器が幾つか混じっているってだけの。
「これじゃまるで宝物庫じゃないか!」
ついつい大声で叫んでしまった。でも、これは凄いぞ!
「すみません。では私はこれで……」
「道中お気をつけくださいませ。族長殿」
ラミスさんは、何やら用事があるとかで戻っていったが、そんなこと、お宝を前にして大興奮している俺にはまるで関係ない。
幸い付いて来た区長の中に、鑑定魔法を使えるアーニャさんもいるし。
というかなんだこれ! 待って!? この、如何にも高価そうな装飾(アーニャさん曰く純金製)がされた短剣なんて、持ち出して何処かの国の都会で、大商会とかに売れば、数ヶ月は食いっ逸れることはないんじゃないか!?
うおおおおおおお! マジか! 金ッ! 金の匂いぃぃぃぃッ!
公務員だっただけに、他の職業よりは幾分か高給取りで、前世では結構お金に余裕はあったけど、、やっぱり……お金は大事だよね。
というか今、無一文なわけだし。
◆◇◆
だが、極度の凝り性が災いして、未だに装備品が決まっていない。……いや、正確に言えば、「どれを持ち出して売るか決まっていない」のだ。
アーニャさんには「多分戦ってる時に刃こぼれとかするだろうから、いくつか質の良いやつ、選んで良い」と言われているので、いくつか保険をかけられる選び方ができるようになった分、言われる前よりは選びやすいと思ったんだけど……。
「ぐぬぬぬぬ……」
「……私、ぐぬぬって言いながら唸る人初めて見た」
「ぐぬぬぬぬ……」
「ぐぬぬぬぬ……」
「「ぐぬぬぬぬ……」」
アーニャさん、からかいながらも乗ってくれるあたり結構いい人っぽいな。口数はあまり多くはないけど。
持っていく武器があまりにも多すぎると、重すぎて戦いにならない。寧ろそれが命取りになり兼ねないだろう。逆にあまり少なすぎても、今度は街で売れる量が少なくなってしまう。それが原因で野垂れ死ぬなんて御免だよ!
うーん……。この状況、一体どうしたものかね……。
…。
……。
………。
あ、すっかり忘れてた。
「能力で全部運べるから、選ぶ必要ないのか!」
「ええ~……」
自信満々の俺と、そんな俺をドン引きしながらジト目で見つめるアーニャさん他区長達。
しかし! そんな周囲の視線など、今の俺には関係ないのだ! フハハハハ!
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