第4話 初めてのスキルはガチャの味

 議事堂内、会議室。


 そこには、森都の主要メンバーと、先程族長が連れてきた獣人の少年。その他護衛や給仕。


 主要メンバーは、連れてきたラミスを除き、全員が少年を凝視していた。


 勿論、それは大臣の一人であるアーニャも例外ではない。


 それは、ここでは珍しい客人、それも人間ではなく、あまり重役に就くことがない獣人であったことも大きい。


 しかしそれ以上に……。


(何あの獣人!? 魔力の量が私達の比じゃない!!)


 そう、“普通”ではなかったのである。


 勿論、それは誰でも目に見えてわかるというものではない。


 ここにいる大臣達は全員妖精族の中でも上位者であり、自分の魔力が多かったからこそ、わかったというだけの話。


 だから、大臣達よりも魔力が少ない給仕係や下級の護衛は特に驚きもせず、久しぶりの客人を物珍しく眺めるだけであった。



 ◆◇◆



「初めまして。ハジメと言います。異世界人フォーリナーです。本日は宜しくお願いします」


 森都の重鎮の前で、俺は深々と頭を下げた。が……。


「「「「「………」」」」」」」


 静まり返る室内。


 あれ? 何か、やっちゃった?


 会議室に入る前、“ハジメ”という名前は正直どうなのか、偽名を名乗るべきなのかと聞いてみたら、『珍しいには珍しいが異世界人であると説明すれば問題ない』と言われたのだが……。対応がおかしい。


 皆、首を傾げて、まるで俺の言っていることがまるで分かっていないような、突然目の前のカップルがドギツイ津軽弁で話し始めた時ような顔をして……ああ!


 俺、異世界語こっちの言葉話せないじゃん!


「ちょっとラミスさん!? 俺まだこっちの言葉話せないんですけど!?」

『あ……』


 ラミスさん、唖然――!


 いや唖然してる場合じゃないよ。何が『あ……』だ。しっかりしてよ! 族長でしょ!?


 とそこに、丁度良く研究員が智慧之核を持って飛び込んできた。


 智慧之核は先程より赤みが増し、この世界に来たばかりの俺の目でも、強大な力を持っていることが分かった。


 しかし……。


『と、とりあえずこっちへ……』

「……はい」


 俺達は一旦、別の部屋へ移ることにした。



 ……



「貴女一応族長でしょ! 何やってんのさ!」

『すいません……』


 扉が閉まった瞬間、ハジメの剣幕をくらいラミスは半泣きになっていた。


 それは、『仮にも族長である私がなんたる失敗を……』という、後悔からくる涙だった。


 決して、決っして! ハジメのガチギレが怖かった訳ではないのだ。絶対に……。



『あうぅ……』

「……はぁ」



 ……



 俺の怒りも多少は治まったことだし、本題といこうか。


 半泣きのラミスさんは、先程研究員から渡された加工後の智慧之核を取り出し、説明を行う。


『これより、貴方に能力スキルを授けます。内容は、『言語解読トランスレート』と『不特定能力付与ランダムスキルエンチャント』です。『不特定能力付与』は貴方に合った最適なドミナントスキル以上のスキルを獲得できます。また、通常は一個のみですが、加工のお陰で複数……』

「……ちょっと待ってちょっと待って? そのドミナントスキルってのは何ですか?」

『ああ、優性能力というのは……』


 この世界の住人が持つ、“能力スキル”。


 その能力には、コモンスキル、レアスキル、ドミナントスキル、ユニークスキル、そして滅多に現れないアルティメットスキル……というようにランクが上がる。当然だが、ランクが上がるごとに性能は増す。勿論相対的に獲得できる者は限られる。アルティメットの上など、空想上の存在でしかない。


 武器や防具のランクも同じように上がっていくらしい。


 そして、事故ではなく、召喚された異世界人である俺は、ドミナントスキル――手にすれば国の重役に就けるレベル――の獲得が確定している。


『……といったところです』

「……は?」


 本当に、は? だよ。


 もうそれは……普通にチートなんじゃないかなぁ……。たまげたなぁ……(驚愕)


 よくあるような「チート能力で無双」はできなくても、支援系のスキルが引ければ軍隊なんかにも入れるし、回復系のスキルが引ければ医者としてどこかの国で病院を開き人助けもできる。また、偵察系のスキルを手に入れれば同郷の者にも結構早く会えるかもしれない。可能性はほかほかの白米並みに無限大だ。


 しかもそんな万能スキルが、複数個……。


 ソシャゲか? ソシャゲの最初の無料ガチャか!?


 いや、今後こんなにホイホイとスキルを獲得できるチャンスもないだろうし、誰かの智慧之核ガチャ石を手に入れなきゃ、次のガチャもない。


『スキル獲得の儀式は、結構力技になってしまいますが……宜しいですか?』

「……はい。てか、それをしなきゃこの世界では生活できないんでしょう?」


 ラミスさんはただ微笑むだけだ。


 最初で最後、リセマラのない、今後の運命を決めるガチャ……。やけに緊張してきたぞ。


『じゃあ、いきますよ!』

「よっしゃ来いやァ!」


 ラミスさんは、ガラス玉を持ったまま何やら構え……。


『……ふんっ!』

「……!???????」


 ……俺の腹にねじ込んだ!


 しかし、痛みはない。そりゃそうだ。


 俺に吸い込まれるようにして、ガラス玉は消えてしまったのだから。


 完全に吸い込まれると同時に、視界が遮られ、意識が何処かに引きずり込まれた。



 ◆◇◆



 目が覚めると、見たこともない真っ暗な空間で、これまた見たことのない謎の文字列――恐らく、この世界の文字――が俺を囲んで漂っていた。少しして、羅列していた文字列がちょうど眉間あたりに吸い込まれ、膨大な量の情報が入ってきた。


 この世界の言語、文字、礼儀作法。さらには、各国間の情勢までも。


 それらが、俺の元々持っていた知識と統合され、取捨選択をした上で俺のモノになっていく。


 正直非常に頭が痛い。自分のことながら、よく無事でいられるなぁ……。


 ある程度の情報の取得が終わると、目の前には、古代ギリシャの神殿のような建造物が見えた。


 あれだ。ガチャ画面だ。確実に。


 完全に情報のインプットが終わると、神殿の奥にある祭壇が輝き出した。


 そして光の中から飛び出す、智慧之核に似た色とりどりの三個のガラス玉。そして、一際大きな無色のガラス玉。


 それらは、俺の周りを一周した後、先程と同じように、俺の体に吸い込まれていった。


 同時に視界が切り替わり、目前にはこの世界の文字が現れた。それらは俺の頭で自動的に読み込まれ、俺が理解できる言語――日本語ではなく、意味を持った脳内信号――として翻訳される。


<個体名:ハジメが以下のスキルを獲得しました>


 謎の機械音が耳にキンキン響く。正直痛いんですけど……。だが、そんなことは御構いなしとばかりに、機械音は目の前のパネルに表示された文字列を淡々と読み上げる。


<固有スキル>

 多岐にわたるため省略。


<種族固有スキル>

 コモンスキル『狼獣人ワーウルフ

 スキルアクション

 超嗅覚、超聴覚、念話、狼獣化……身体能力上昇小。走力上昇大。


<獲得スキル>

 ドミナントスキル『調合者カラメルモノ

 スキルアクション

 “調合”……異なる物体同士を合成する。


 ユニークスキル『創造者ツクルモノ

 スキルアクション

 “創造”……イメージを実体化する。但し、一〇〇kg未満までの重量制限有。応用として、次元収納を作成可能。


 ユニークスキル『狂戦士ベルセルク

 スキルアクション

 “狂戦士化“……身体能力上昇大。状態異常無効。魔法攻撃無効。使用者の意識レベルが一定以下になると、数分間“狂乱状態”になる。尚、その前に意識レベルが危険地に達しても解除される。獣化と併用可能。


 獲得した全てのスキルを確認した直後、俺の意識は謎空間から引きずり出された。



 ◆◇◆



 十分程の不思議旅行体験を経て、ようやく視界は先程の部屋へ。いや、体感時間がそのくらいだったってだけで、実際はもっと短かったのかもしれない。


 未だ思考がまとまらず狼狽していると、魔力か何かで獲得したスキルを読み取ったラミスさんが「ユニークが二つも……。大当たりですっ!」とか騒いでいる……。


 マジでガチャかよ!

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