第3話 妖精の都

 迷いの森北部に位置する小国、シャローム魔法王国。


 その王都、イベルタ――通称、魔法の都――に位置する王宮に、衝撃が走った。


「何? “魔物の都”付近で“死者蘇生”に似た魔力の流れを観測したと……いや、アレは禁忌だぞ。我が国の魔術師団の中でも、実力を持つ極限られた者しか知らないはずソレを、王国関連者以外の何者かが使ったなんて……」


 偵察に長けたドミナントスキル『観測者ハカルモノ』を持つ重臣、セルシオの報告を聞き、驚愕のあまり白い肌をさらに真っ白にさせた、シャローム王、ノア=シャローム。


 シャローム魔法王国は他国と比べれば小国であるが、その名が示す通り、魔法が発達しており、その分野ではトップに立つ国だ。


 それもその筈、この国の国民の大半は、非常に長寿で器用な“耳長族エルフ”が構成している。


 その長い寿命を生かし、永い時を魔法研究に費やし、日々新たな魔法が誕生しているのだ。


 その研究の過程で生まれたのが、死者蘇生と評される“反魂の術”である。


 反魂の術は、非常に難解で、そしてリスクが高すぎる。術式を間違えでもしたら、国を一つ滅ぼすほどに。


 その実績とエルフという種族特有のプライド、そして若さ故に……といっても、既に百年近く生きているのだが……ノアは普段冷静沈着な割に、プライドを傷つけられると、非常に沸点が低くなる。特に、魔法関連であったのなら。


「よし、決めた! ヴィット、いるんだろう?」

「は、ここに」

「王国騎士団をラミスの森へ調査に向かわせる。異論は認めない。急ぎ軍部に……そうだな、フォルテ団長辺りに伝えてくれ」


 ……そして、突拍子もないことを言い出すことも。


 良く言えば、いざという時に即決できる頼れる智慧ある善王、悪く言えば、超マイペースで聞く耳を持たぬ頑固者。これで“賢王”の異名を頂戴しているのだから不思議だ。まあ、この人物の内面を知らない民衆には、そう見えるのかもしれないがな……。


 これに振り回される自分や、執事のヴィットの気持ちも多少は考えてほしいものだ……。と、今にも口に出してしまいそうなのを堪え、退出するヴィットを見やる。


(あの男、完全に楽しんでいますね……)


 ヴィットは仕事人だ。王に与えられた仕事にだけ生きがいを感じる。言ってしまえば変人。その変人が有無を言わずに了承してしまったのだ。幼馴染の自分が背くなど、考えられない。……そもそも、背く意思など毛頭ないのだが。


 そんなことを思いながら、セルシオは一人“観測”を続けるのだった。



 ◆◇◆



 俺は、妖精族の住処に案内された。


 智慧之核は、少ししてから渡すと言われた。何でも、少し魔法で手を加えることで付与エンチャントされる能力がグレードアップするそうだ。


 何気にこの世界にも魔法があるって初めて知ったな……何? マジで剣と魔法のファンタジーなの? 君と紡ぐ、夢の物語__


 いや、獣人になった時点であるだろうとは思ってたけどね。むしろ魔法がなきゃ折角転生した意味がないじゃないか。


 とここで、先程の疑問が未だ未解決だったんだけど……。


 そういえばラミスさん、死んだ獣人を生贄に使ったとか言ってたっけ……。


 そうなると、“異世界召喚”という言い方が一番近いのかもしれないな。



 ………



 研究担当の精霊に智慧之核の細工をしてもらっている間に、ラミスさんに妖精族の住処の中を案内してもらった。


 妖精族の住処ってちょっと長いから、もういっそのこと“森都フォレストシティ”とかでいいかな。


 ラミスさんに聞いてみたら、即OKだった。


 なんでも、この地下都市が出来てから今まで、客人は各国の首脳が数十年おき程度にやって来るだけで、特に呼び名は決まっていなかったとのことだ。


 そのまま明日行われる族幹部の議会で提案してみるそうだ。


 仮にも人間側との関係が悪化するかもしれないって時に、森を管理する一族の族長が、嬉々とした表情で綺麗な銀髪をゆさゆさと揺らしているなんて、緊張感ないなぁ……。


 俺の中では、最初の厳かで神々しいイメージから一変、どんどん好奇心旺盛なアホの子にジョブチェンジしちゃってるよ。ラミスさん……。


 あ、ほら、スキップとか始めちゃったし……。


 森都はラミスの森の地下空間にある都市で、この世界の妖精族フェアリーの聖地なのだそうだ。


 勿論地下だから陽の光は入ってこない。しかし、魔法か何かによって謎の光源が確保されており、非常に煌びやかだった。


 その光の下、妖精達が楽しそうに縦横無尽に飛び回っている。


 その一個一個の光源があまり明る過ぎないってのがまた良いんだなコレが!


 空洞内に点在する大樹を模した巨大建造物が、その朧げな光によって照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出している。


 丁度、京浜や北九州などの大規模な工場地帯・工場地域の夜景と同じような感じだろうか。


 道すがら、妖精についても聞かせてもらった。


 妖精族の身体の大きさは魔力の蓄積量によるもので、魔力が少ない者は三〇cm程度、魔力が多い者は人間大になるらしい。


 言われてみれば、先程からすれ違う妖精達は皆んな大きさがバラバラだ。


 中には親子らしい妖精もいたが、やはり大きさは違っていた。


 しかし人間大の大きさの妖精は余りおらず、身長一六〇cm程度のラミスさんは、恐らく妖精の中でもかなりの実力者なのだろう。


 性格は皆陽気、それでいて研究に余念はないそうだ。


 子供っぽいだけかもしれないけど……。


 ラミスさんのキャラチェンジも、元々がフェアリーなのでしょうがないかもしれない。



 ……



 そのまま街の中心部、人間と比べるとやや小柄で、尚且つ飛べる妖精達には不釣り合いな程広いメインストリートを進むと、一際大きな建物が見えてきた。


「アレは何です?」

『森都の議事堂です。先程言った議会もここにあります』


 ほぉ、ここが森都の議事堂ですか……。


 てかラミスさん、分かってたけど俺の案結構気に入ってるな? 森都って字面は気持ちカッコいいよね。気持ち。


 やっぱり、精神年齢は少女のソレなんだろうか……。


 俺はラミスさんに言われるがまま、議事堂の中に足を踏み入れた。

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