第2話 考察と出会い
「異世界、ねぇ……」
……ってオイ! こんな訳の分からない話、あるわけないだろ! マンガの世界じゃないんだし!
なんて心の中で絶叫しても、『ドッキリ大成功!』なんてフリップを持った人物がひょっこり現れることはなかった。
だってそうだよね。確実に“異世界”に来てしまったのだから。
しかし……。
一呼吸置いて、俺は今一つ非常に疑問に思っていることがある。
――何故俺の身体じゃないのか――
……何を言っているか分からねぇと思うが、簡単に説明すると、「何故俺自身の身体ではない他人の、それも成人した、あるいはそれに近い年齢の身体なのか」ということだ。さっぱりわからんなぁ……(放棄)。
異世界モノのテンプレってものは、ハッキリ言って二パターンに分かれる。
一つは、己の身一つで異なる世界を渡るパターン。よく“異世界転移”なんて呼ばれるものだ。
この場合、何らかの衝撃が加わり死ぬか何かした後、一旦傷なりなんなりがリセットされた後、元の世界からそのままやって来る。
そうじゃないと転移と呼べないからな。
そしてもう一つは、一度死んでから、魂だけが世界を渡り、新たな命として生まれ変わるパターン。所謂“異世界転生”だ。
こちらは異世界転移と違い、元の世界での自分とは赤の他人として、こちら側の世界の別の夫婦の間に生まれる。
ある意味前世来世とか、そういう説明が最も分かりやすいだろう。
共通点は、何方も世界を渡ること、そして死ぬこと……やっぱ俺死んだっぽいね。
そして……俺の場合はどちらにも当てはまらない。
自分の身体じゃないし、赤ん坊として生まれた訳じゃないからだ。
成長して意識が覚醒した……的な作品もあることにはあったが、その可能性は低いと思う。
何せ此方側の世界の記憶が全く無いからな。
記憶が蘇った衝撃で忘れている、なんてこともあるかもしれない。だが、もし仮に記憶喪失状態になったのだととしたら、習慣になっていることは残る筈だ。しかし、先程からの絶叫は全て日本語だ。つまりそれは、必然的に此方側の言語情報が完全に欠落、あるいは元から存在していなかったということになる。
第三者が知ったなら、「こんなしょうもない疑問、一体何になるんだ?」と思うかもしれない。
しかし、少し考えてみてほしい。
俺は「此方側の世界の言葉は自動的に変換されます。貴方が発する言葉も同様です」なんて説明は受けていない。その超少人数説明会があるかすら怪しい。
そうなると、英語すらまともに覚えられなかった俺は、確実に見ず知らずの大地で一人孤独に生きていく羽目になるのだ。
危険視もして当然だろう。
何せ今の俺は狼だ。狼とは群れで生きる生き物。孤独を嫌うのだ……多分。
「俺、一体どうすればいいんだよ……」
俺の呟きは、広大な大地にただ吸い込まれる……。
……ことはなかった!
『お待ちしておりました。”
そんな言葉が響いた後、突然何処からともなく白いローブに身を包んだ女性が現れたのだった。
◆◇◆
突然現れた女性は、俺の“精神”に直接語りかけてきた。フィクションで言うところの“念話”というところか。仕方ないけど非科学的~。
「えっと……貴女は?」
『申し遅れました。私はラミスです。この森の守護者であり、
白いローブの女性――ラミスさん――は、そう言い? 終えると、恭しく一礼した。
『突然で申し訳ないのですが、貴方には、私共の抱える問題の解決に、協力していただきたいのです』
「……よくわからないけど、俺でいいのなら……それより、俺をこんな風にしたのって……」
『私です。この平原で生き絶えた狼獣人の死体を生贄にして、貴方の魂をこの世界で受肉させました。まあ、死者蘇生的な感じですかねぇ……』
「ですかねぇ……って……えぇ? 死者蘇生の割に軽くない? そういう世界??」
成る程……まるで予想外の方法だった。
それなら、まるで思い入れのない身体で目覚めたのも納得がいく。
「それじゃあ、命の恩人ってことですか……成る程」
俺がそう呟くと、ラミスさんはオロオロとし始めた。えっなにこれどう言うリアクション……えっ?
『いえいえ、私が勝手に呼んだだけのことですから……』
そう言って、ラミスさんは少し恥ずかしそうな顔をしながら、例の問題とやらの説明を行った。
ここ最近、森と人間の里の境界付近で、かなり強力な魔物が徘徊しているらしい。
森の中ならば問題はないそうなのだが、人間や亜人に被害が及ぶと、後々厄介な事になってしまう。
その前に、都合良くやってきた俺にチャチャっと討伐して欲しい、とのことだった。
「そういう奴の対処って、人間の冒険者なんかじゃダメなんですか?」
その依頼を聞いて、俺はこう思わずにいられなかった。
魔物などの凶暴な生物の排除は、プロに任せるのが一番なのだ。
しかしラミスさんの答えはNoだった。
理由は幾つかあるそうだが、一番は「人間の手に負える代物ではない」という理由だった。
人間は、数が多い割に他の亜人より脆い。
妖精族が誇る“
ん? 待てよ? 演算装置?
『はい。我々妖精族は、あまり表立って行動することはありませんが、他の種族と比べて最も“精霊科学”が進歩しており、このようなシミュレーションを行うことも可能です』
「ほーん……」
そう誇らしげに話すラミスさん。とりあえず凄いんだろうな……。
俺が思っている以上に、この世界は進んでいるようだ。いやまあ多分一部だけだけどねぇ……。てか、俺のしているレベルが低すぎるのかもしれない。中世ヨーロッパを何となくでイメージしてたけど、流石にそこまでじゃなさそうだ。
と、突然彼女がはわぁっ!? と驚いたような顔をして、少し離れた場所――俺が最初に寝ていた場所――に走っていった。えっ何??
走っていくというよりは、ふわふわと飛んでいくという方が正しいだろう。
ゆらゆらふらふらと宙を揺れながら、何か球形のものを持って帰ってきた。ありゃなんだぁ……?
それは、拳ほどの大きさで、真紅に輝くガラス玉のようなモノだった。ホントに何だこりゃ……。
『申し訳ありません。私としたことが、最初にこれの説明をするのを忘れていました……』
そう言いながらしゅんとするラミスさん。ただ……何となくの直感だけど、貴女結構こう言うミスやらかす人だよね? 俺は詳しいんだ。知らんけど。
「それは?」
『これは『
「その、異世界人の方々ってことは……まさか俺以外にも、異世界人がいるということですか!?」
『その通りです。そしてこの核は、そんな異世界人の方々に、この世界の常識と“スキル”を授ける為のマジックアイテムです』
その説明を聞いて、俺の不安が一つ吹き飛んだ。ラミスさんが現れる前に悩んでいたのはまるで意味がなかったらしい。これさえあれば、現地の住民とのコミュニケーションも問題ないだろう。勝ったわ。対戦ありがとうございました。
それよりも俺が気になったのは、異世界人……要するに、俺と同じようにこの世界にやってきた日本人の存在だ。いや、日本人じゃない可能性も全然あるけどね。下手すりゃ違う世界の住人とかの可能性だってあるし。
まあ、できれば日本人がいて欲しい。流石に知らない土地に日本人一人だけは悲しすぎるんだぜぇ……。
それに、俺の前にいるってことは俺の後からもドンドンやってくるってことだろう。そうなれば、あっちの世界がどうなったのかとか、愛読していた漫画が俺が死んだ後どう進んだのかとか、そういう些細だけど割と重要なことも聞けるからね。
俺はこの時、「この未知の大地で同郷の者に出会う」という、小さな目標を見つけたのだった。
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