第26話 黒龍
黒龍の姿はアズマドラゴンから大きく変容していた。
ただ闇色に染まりきっているだけではない。より分厚い装甲をまとい、鋭い棘が全身に生えている。
胸部にある半球状の機構はなんらかの武器か。
俺は黒龍と向かい合う。
「やるぞ、アオイ。アズマドラゴンを助ける」
「うん!」
「さあ、主様をいただきましょうか」
黒龍は顎を開いた。その奥には見たことがない機構を覗かせている。
俺は小手調べにレーザー砲を黒龍の胴部へと照射。
レーザーは胴部装甲に命中、だがチリチリと輝くだけだ。レーザーは散乱反射されてしまっている。
黒龍の闇色は単なるペイントではなく、対レーザーコーティングのようだ。
黒巫女が甲高い笑い声を響かせる。
「レーザーなど古臭くて! 主様といえどもその程度でございますか」
光学兵器は通じないということか。
俺はレーザー砲をパージ。
物理的ダメージを試してやる。
翼部の連装式ミサイルランチャーを黒龍に向けた。目の前だ、ロックオンするまでもない。
「ミサイル全弾、マルチバースト!」
黒龍の至近距離からミサイルを連続発射、大量のミサイルを叩き込む。
発射、さらに発射。
黒龍は連続する爆煙に包み込まれた。
爆煙の中から丸い透明な球体が現れる。
球体は黒龍を包み込んでいる。
黒龍の胸部にある半球が白く輝いていた。あれはまさかバリアジェネレーターか!?
「あらあら残念ですこと。この黒龍は禁則技術を完全解除してありますの。主様のほうはせいぜい二十世紀までかしら?」
俺のミサイルと黒龍のバリアでは少なく見ても一世紀以上の技術差がありそうだ。
ここまでにリビルドから奪ってきた技術では通用しそうにない。
「だが、格闘戦ならどうだ!」
俺は左腕前端のツインクロウで黒龍の胸部を突こうとする。
黒龍は前肢を回転させてツインクロウと交錯。
「ば、馬鹿な」
俺は視覚センサーを疑った。
高硬度のミスリウム合金で作ったツインクロウがばらばらに切断されていた。
黒龍は前肢の棘を白熱させている。この棘がいともたやすくツインクロウを切り刻んでしまったのだ。
黒龍が前進する。
俺は全身の力を込めて右ストレートをぶつけにいく。
黒龍は尻尾を前に振り回してきた。俺の胴部よりも太い尻尾にはたかれる。拳は届くことなく、俺は吹き飛ばされてもんどりうつ。
「ほほほほほ、リビルドごときを倒して強くなったとお思いだったのでしょうね」
黒龍は顎を開く。
顎の奥に輝きが生じる。周辺に光の粒が生じ、奥へと吸い込まれていく。
黒龍は全身の棘から放電し始める。
顎の奥から発する咆哮のごとき音は低い唸りから高い叫びへと変じていく。
「お喰らいなさい、重荷電粒子ビーム」
黒龍の顎から発射されるたのは荒れ狂う稲妻を束ねたかのようなエネルギーの暴流。
俺は翼と腕で胸部を覆う。
膨大なエネルギーを浴びせられ、王龍の巨体が後ずさる。
白熱は翼を焼き溶かしていく。
ようやく黒龍がビームを止めた。
俺の両翼は焼け落ち、両腕も装甲が溶けて黒い煙を上げている。
胸部も焼けただれていた。
「アオイ、無事か!?」
「大丈夫! それよりリュウは……」
「翼は捨てよう。しばらくは徒歩だな」
俺の背部から使い物にならなくなった両翼がパージされる。
俺は笑った。
レーザー砲は無効、ツインクロウ破損、翼およびミサイルランチャーとウィングランチャーをパージ。
主武装を全て喪失した。
しかし勝負はここからだ!
黒龍は棘からの放電を止めて全身各部の放熱フィンを開き、蒸気を噴出して放熱する。
黒巫女は楽し気に言う。
「どうでしたか、切り札のお味は。これがアトポシスの本気です。今まではコピーされないために隠していただけ」
俺もまた楽しく告げる。
「そうか、そうだよな、実は俺もそうなんだ」
しばし沈黙。
「負け犬が戯言を。次で終わらせて差し上げます」
黒龍は再び棘からの放電をまとい始める。
もう一度撃たれたら今度は機体が持たないだろう。
俺は覚悟を決めた。
「アオイ、使うぞ」
「あれを? だめだよ、戻ってこれなくなるよ!」
「頼む」
「……」
「俺が今まで約束を破ったことがあったか?」
「リュウはいつも約束を守ってくれたよ」
「だから信じてくれ」
黒龍が顎を再び開く。
「さあ、か弱き主様。最強を相手にして消え去る準備はお済みでしょうか」
「……アトポシスにとって最強とはなんだ」
「知れたこと。最強とは全てを奪い去る力。星を壊すとはそういうことです」
「俺は考えてきた。ただ壊せば強いのか? いずれ時の流れの前に星も生命も消え去る。だったら時間が最強か。いや、そんな訳はない。……真の最強とは与えることだ。自由を、生命を」
俺は黒龍を指さした。
「星から得た力をただ壊すことにしか使えないアトポシスは紛い物の強さに過ぎない!」
「口先だけで語られる強さなど笑止千万です! そろそろお死になさい!」
黒龍の顎に光が集まり始める。
俺は王龍のドラゴンテイルを高く掲げる。
「やるぞ、アオイ!」
「リュウ、約束だよ、必ず戻ってきて!」
「ああ!」
俺は叫ぶ。
「テイルブレード・ボルトオフ!」
俺は右手にドラゴンテイルの先端をつかむ。
ドラゴンテイルの上から下まで並んだボルトが次々に爆裂、吹き飛んでいく。
ドラゴンテイルが縦に割れた。中から灰色の剣が姿を現した。
俺がつかんでいたドラゴンテイルの先端は、この剣の柄だ。
「テイルブレード解放するよ」
剣を固定していた爪機構がモーター仕掛けでロック解除されていく。
「テイルブレード解放!」
俺は剣を引き抜く。
剣は短く、刀身は鈍い灰色。
「なまくらの剣ごときが通用するとでもお思いなのかしら」
黒巫女が嘲笑う。
「アルティウムコア・アーマーシェル・オープン!」
俺の胴部装甲が左右に開く。
さらに第一内部装甲と第二内部装甲がスライド、フレームが露出する。
フレームに収められているアーマーシェルがハッチを開く。。
その中にいるのは子龍だ。
子龍は己の胸を割り、輝く多面体の金属結晶、アルティウムコアをつかみ出す。
アルティウムコアこそは俺のエネルギー源であり俺の意識が宿るところ、俺自身。
「アルティウムコア接続!」
王龍は剣先を胴部にかざす。
子龍はアルティウムコアを剣先にセットする。
剣にエネルギーが供給されて輝き始める。
アーマーシェル、内部装甲、胸部装甲は閉じていく。
俺は剣を引きつけて構える。
黒龍は一歩後ずさる。
「なんですって? まさか主様ご自身を!?」
「そのまさかさ」
剣身は白熱の輝きを増しながら伸びていく。
「エネルギー解放率百二十パーセント、ブレードチャンバー完全充填だよ」
「ターゲット、ロックオン頼む」
王龍の青い視覚センサーに複雑な模様が走る。
「ターゲット、黒巫女、ロックオン!」
「まさか、まさかまさか、お止めなさい!」
黒龍は顎に光を集め始めた。急いでビームを発射しようとしている!
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