第21話 迎撃

 俺は第二十八工房に急いで戻り、考えついた迎撃計画をマサキとアオイに説明した。

 この計画には二人の協力が必要だ。

 本来であれば機猟会にも相談すべきなのだろうが、そんな時間はない。


「わかりました」

「すぐにやろうよ!」


 ヒバナから借りてきた小型レーザー発振器を子龍の腕部に装着。

 少龍の装甲類を外し、できるだけ軽量化。子龍を少龍に収納。

 マサキとアオイと共に転換神殿へと向かう。

 この一帯で最も高い建物が転換神殿だからだ。


 マサキの駆るイヌガミと俺は転換神殿の頂上に登る。

 アオイは下で待機している。


 マサキのイヌガミは人型に変形した。

 イヌガミは約八メートル、俺の少龍は約五メートルで、イヌガミのほうが一回り大きい。

 イヌガミは両腕で俺の二本足をがっしりつかむ。


「いいぜ、やってくれ」

「始めます!」


 イヌガミは俺の足をつかんで持ち上げ、振り回し始める。

 合わせて俺は肩部のウィングスラスターと足のバインドスラスターを回転方向に噴射開始、回転速度はさらに増していく。

 目まぐるしい回転によって強い遠心力が発生。回転速度は最高に達した。


 アオイが告げる。

「前線のイヌガミから連絡、飛行型リビルドの高度七千、方位十八」

「わかりました。リュウさん、方位十八で離します」

「頼む」


 俺の足をつかんでいたイヌガミが手を離した。

 猛回転から離れて俺は空に勢いよく飛び出す。

 ウィングスラスターとバインドスラスターを後方に向けて出力全開、加速しながら高度を上げていく。

 風を切りながら俺は飛行する。

 雲を抜け、高度七千メートルを目指す。


 連続最大出力のスラスターは冷却が間に合わず過熱していく。

 遂に限界を超えた。出力が急速に落ち始める。

 俺は少龍の機体ハッチを開き、内部に収めていた子龍で離脱。

 主を失った少龍の機体は落下していく。

 子龍はウィングスラスターを両腕に展開して飛行を続ける。二段加速方式だ。


 高度七千に到達。

 飛行機雲を引きながら蒼空を飛ぶ。

 彼方に複数の白点が見えてくる。

 白点に接近していくと、こちらに向かってくる飛行型リビルド編隊だと分かってくる。


 飛行型リビルドは爆撃機の形をしていた。

 プロペラを回すレシプロエンジンが六つ、ジェットエンジンが四つ、合計十ものエンジンを搭載した大型爆撃機だ。

 本来であればコックピットの窓があるあたりには六角形の青い目が並んでいる。

 俺はこの機体を知っている。アメリカ軍の戦略爆撃機、ピースメーカー。こんなリビルドまで存在するのか。


 ピースメーカー編隊は俺に気付いた。

 ピースメーカーの各部がチカチカと光り出す。機銃射撃だ。

 編隊は八機、そのすべてが俺に向けて機銃弾を送り込んでくる。

 周囲の空間が弾で埋め尽くされる。


 だが避けられない。

 ここで回避して編隊から離れればもう追いつけなくなる。

 俺は被弾しながらも最大加速で編隊の最前列を目指す。

 頭部に跳弾、センサーにノイズが走る。

 肩に被弾、装甲を抜かれた。


 みるみるピースメーカーの一機が迫ってくる。

 目の前がピースメーカーの巨体でいっぱいになる。

 俺は頭の前に腕をクロスしてガード、激突しながらピースメーカーの胴体にとりついた。


 猛風で吹き飛ばされそうになりながら、丸い胴体にしがみつく。

 同士討ちは避けたいのか、編隊の機銃掃射が止まる。


 俺は隣を飛ぶ機体の胴体中央部に小型レーザーの照準を定めた。

 レーザー照射を開始。

 飛行型リビルドの外板は薄い。すぐに小さな穴が開いた。

 そのまま切り開いていって丸く装甲をくり抜いた。

 内部が見える。黒光りする爆弾がみっしり並んでいる。

 レーザーで爆弾を焼く。爆弾はすぐに起爆して胴体に大穴が開く。次々に誘爆して機体は炎に包まれ、ばらばらになって落ちていく。

 一機撃墜!


 この調子なら楽勝かと思ったとき、編隊が続々と丸い銀色の物体を投下し始めた。

 爆弾? いや違う。丸い物体には翼がある。ジェットエンジンがある。リビルドの青い目がある。

 護衛戦闘機のリビルドだ!


 アメリカ軍ではピースメーカーに小型の護衛戦闘機ゴブリンを搭載するプランがあったという。それがこの世界では実現されているのか。


 七機ものゴブリンがピースメーカーから投下された。ジェットエンジンを噴射して飛行を開始する。

 先頭のゴブリンが旋回飛行して俺に照準を合わせ、機銃掃射を浴びせてきた。


「ぐうっ!」

 弾が俺の背部に命中。

 ピースメーカーを被弾させることなく俺にだけ当ててくる、恐るべき精密照準だ。

 風圧に飛ばされないようピースメーカー上を這って移動する俺に、ゴブリン編隊があらゆる方向から機銃を撃ってくる。


 小型レーザーの照準をゴブリンの昇降舵に合わせてレーザー照射。薄い舵は赤熱してすぐに溶け落ちる。コントロールを失ったゴブリンがピースメーカーの一機に激突した。ピースメーカーの主翼がぽっきりと折れて、ゴブリンと共にきりもみしながら落ちていく。


 やった!

 しかしレーザー照射で動きを止めた俺に、ゴブリン編隊の射線が集中してくる。このままではハチの巣だ。

 俺はつかんでいたピースメーカーの胴体から手を離した。

 猛風が一瞬で俺を引きはがして後方に飛ばす。

 飛びながらも俺はピースメーカーの爆弾槽にレーザー照射。

 レーザーに貫かれた爆弾が起爆した。一瞬でピースメーカーは火の玉になる。


 俺は編隊後方のピースメーカー先頭部にとりついた。

 ピースメーカーの目が赤く輝いている。怒りの目だ。

 自身の機体が傷つくことも構わずに、ピースメーカーは機銃を撃ち始めた。

 俺はピースメーカーの胴体上を走り抜ける。それを機銃弾が追う。

 胴体に次々と弾着。

 危ない!

 俺が跳ぶのと同時に、内部の爆弾に被弾してピースメーカーは自爆。他の編隊機も巻き込んで誘爆していく。


 俺は空中でウィングスラスターを全開して、狙ってきたゴブリンに突進。とりついて丸い機体上にまたがった。

 ゴブリンは俺を落とそうと急旋回を繰り返す。

 だが機械の足でめりこむほどに締め付けている。そう簡単には落とされない。

 小型レーザーでピースメーカー一機の爆弾槽に照準、照射、爆散。また一機を撃墜した。

 だが小型レーザーがとうとうオーバーヒート。ここまで持っただけでも幸運だった。


 ピースメーカーは残り三機。

 俺はとりついているゴブリンの外板を貫き手で切り開き、機銃パーツをもぎとった。

 腕のジョイントに機銃パーツをむりやり連結する。


 地上のアオイに通信を入れる。

「乗っ取り頼む!」

「うん!」


 アオイは遠隔から機銃パーツのセキュリティを乗っ取り、俺と機銃パーツの認証を成功させた。これで俺もこの機銃を使える。


 ピースメーカー編隊とゴブリン編隊が俺に砲火を集中。

 とりついていたゴブリンから俺は離脱する。

 ゴブリンは落下していき、俺は空中を舞う。


 まずい。編隊の後ろまで下がってしまった。これではピースメーカー編隊から取り残される。

 俺は後方から機銃射撃、ピースメーカー一機の右側に並ぶエンジンを次々と炎上させる。

 飛行バランスを崩してピースメーカーはぐらりと傾き、隣の機体に接触した。互いの翼が折れて、きりもみ落下していく。

 残りピースメーカー、一機!


 だがウィングスラスターを全開にしてもピースメーカーに引き離されていく。

 残ったゴブリン編隊はピースメーカーの後方を守る位置についた。

 機銃を撃ってもゴブリンが壁となって立ちふさがる。


 眼下に広がる大鋼原、転換神殿とアズマ工房市はもう間近に見える。

 ピースメーカーはそこに向かって一直線に飛んでいく。

 爆弾槽のハッチが開かれる。

 爆撃準備が整ったのだ。


 だめだ、阻止できない!


 その時だった。

 ピースメーカーは光に包まれた。

 全体が赤熱し、飴のようにとろけ、そして爆散。火の玉と化した。


 アズマ工房市の上空、八枚の翼を広げた黒い天使の人形が三十メートルはあろう長大なレーザー砲を構えていた。

 あれはヒバナの試作大型レーザー、そしてヒバナの新型機だ。

 大型レーザーは赤熱、炎上している。

 天使もまた白い煙を上げている。

 そうだ、一回使えば自壊するとヒバナは言っていた。


 レーザー砲を黒い天使は取り落とす。

 天使は煙を引いて力なく堕ちていく。

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