第12話 神殿修理

 翌日、マサキは転換神殿の修理資材が届いたから作業を始めるとのことで、俺とアオイも見物についていった。

 俺は服を着たので一応人間っぽく見えるはずだ。仮面の変な人だが。


 工房地区を出て、街はずれからさらに一キロほど歩くと転換神殿だ。


 転換神殿は先日の騒動でパイプラインが半壊し、頂上も傷だらけだ。

 堀の周囲にあったはずの塀は残らず吹き飛んで跡形もない。

 痛々しい光景だった。


 転換神殿のふもとまで来ると、パイプなどの資材が山と積まれていた。さすがに工房市だけあって対応が早い。

 神殿関係者のお偉方らしき連中が視察しており、アオイは挨拶に行って戻ってきた。

 神殿理事会の役員たちだそうだ。

 役員たちが注目しているのはマサキだ。


 マサキのグソクは背部に籠を背負い、そこに細いパイプを多数収納している。籠には第二十八工房と大書されている。


 マサキは元気な声で、

「では行ってきます」

 アオイと俺が、

「行ってらっしゃい!」

「無理するなよ」


 他に作業者はおらず、マサキ一人だけでの修理開始だ。

 マサキがどういう意図なのか分からないが、今はアオイと並んで見守る。


 マサキのグソクは残ったパイプをつかんで登り、壊れたパイプの除去と新品鋼管への交換を始めた。

 ネジ止めだけで溶接はしない。

 

 この転換神殿はそもそも人間が建造した物ではなく、この鋼原が生み出した、言うなれば鋼原という巨大生命における心臓器官とでも言うべき存在。

 機械生体細胞(リビルドセル)によって構成されており、人間が作ったパイプを設置した場合、それを一種の栄養として機械生体細胞が浸蝕融合していくのだそうだ。


 だからビス止めしておくだけでも接合は十分になるのだとマサキから教わった。

 生きた機械、奇妙な世界だ。自分自身もそうだが。


 マサキのグソクは最初こそぎこちなく登っていたが、次第に慣れてきたのかまるで猿のような器用さで登り降りするようになってきた。見事なものだ。


 昼時になり、マサキとアオイは資材置き場の横で弁当を広げる。

 穀物を炊いて丸めた、おにぎり的なもの。ソーセージの類。黄色いのは卵焼きっぽい。

 食文化はわりと日本に近いのかもしれない。

 気分的に俺も座って、鉄のネジをかじってみたりする。サクサク噛み切れてスナックみたいだ。美味しいような気がする。


 アオイがおにぎり的なものをかじりながら、

「お姉ちゃん、登るの早いね!」

「統御球が学習したからですよ。今までのグソクでは決してあり得ない成果です」

 マサキが自慢げに答える。

「そんなに違うものなのか?」

「はい、今日はまだまだ向上すると思います」


 マサキの言葉どおり、飛ぶようにといっても過言ではなさそうな速度にまでグソクの動きは加速していった。

 なんでも、もはやいちいち操作することなく、最初のきっかけさえ与えれば半自動で登り降りから作業中の姿勢制御をこなすところまで学習したのだそうだ。


 神殿理事会の役員たちはマサキに目を見張っている。 

 通りすがりの人々もマサキの動きに目を止めて、見物をし始める。

 その人数は次第に増えていった。

 ツナギ姿や猟師服姿の者たちだ。

 グソクの異様な動きに興味津々なようで、

「あれはどんな達人が乗っているのだ。作りが違うのか」

 などと俺たちに話しかけてくる。


「第二十八工房のグソクですよ。改良型です」

 と答えたら、

「あそこは開店休業状態だったと思ったが、こんなものを秘かに開発していたのか! 他よりも先に問い合わせだ!」

 と街に急ぎ戻っていった。


 気が付くとエンマたちも来ていた。

 降りてきたマサキをエンマや馴染みの猟師たちが取り囲む。

「どうやってるんだ、教えてくれマサキ」

 ヘルメットを外したマサキはにやりとして、

「手伝ってくれたら先行販売してあげます」

「そう来るかい! 分かった、手伝うから安くはしてくれるんだろ」

「がんばり次第ですね」

 エンマたちはこのチャンスを逃がすまいとの顔。


 大勢が修理を手伝い始めて、作業速度がみるみる加速していく。

 この調子なら今日で大半の作業を終えられそうだ。

 第二十八工房へのグソク注文も殺到することだろう。


 俺は目立つと商売の邪魔になるので下手に動かず応援するだけにとどめる。

 アオイはにこにこして見物している。

 龍巫女としても、妹としてもうれしいのだろう。


 ここは安心だ、もう機猟会まで出かけてもいいだろう。

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