実は以前から開かれていたかもしれない扉

 暦の上ではとうとう秋が始まり、それに呼応するように朝晩が冷え始めたその頃。僕は変わらず配信をしていた。配信者と名乗るのはおこがましい総視聴数だが、ひとつの趣味として安定していた。

 プロアマの垣根なく執筆の話などを交わす作家仲間やアニメ好き、読書好きなどの知り合いが徐々に増えるその過程こそが楽しかった。


 そんなある日。勝手知ったる仲となった数名の方、すなわち常連だけがその場に居た事もあって、自身のリアルの話題を始めた。

 そこで明らかになったのは、「もしかするとコイツ(僕)は、ゲイかバイなのでは?」というものだった。

 皆和気あいあいとジョーク交じりで語り合うも、段々と「あっ(察し)」となってゆき、もはや僕さえ否定できなくなっていたのだ。


 事の流れはこうだ。

 僕はほぼ男性と出かける。これはまだ普通だ。

 しかし、出かけるとなると、大抵は朝の10時から夜の8時頃まで。そして電車で目的地へと向かうのを換算すれば、実際は朝の9時半くらいから一緒にいる事となるのだ。

 現地集合ではなく、どうして同じ電車に乗っているか。その理由は案外単純なものだ。

 電車の乗り換え案内などの詳細を調べるのが僕だから。

 相手の乗る電車の時間を検索し、「これで大丈夫?」と詳細を送る。ある種、旅行業者のような行いだが、そうする事で、はやく会う事ができるのだ。そうして一日中、一対一で巡り歩く。


 友人は少なからず存在しているが、そういった会い方をする親友は3人。これまたリアルな数字である。


 いつか書いたことがあったかと思うが、僕は本当に親しい乃至ないしは親しくなりたい相手の趣味を体験してみたいという願望がある。

 この分析も既出だが、その願望の由来は、僕の趣味と合致する人物が未だおらず、であれば、親友の趣味をこちらがする事で、同じ話題で盛り上がる事がようやく可能となると無意識に近い心理が働いての事である。


 例えば、僕はガンダムの知識は皆無であり、プラモデル作りの経験もほぼゼロだ。

 でもその親友の一人が非常にガンプラ好きで、専門店によった際には、やはり僕自身退屈に過ごす事に引け目があった。おそらく相手もそうだっただろう。

 そんな僕の耳に「ガンダム40周年を記念して、完全初心者向けキットが発売される」との情報が入る。

 そう、僕はこのキットを購入するつもりだ。


 これらの前提にはある考えがある。

 僕は彼らと時折、美術館やクラシック音楽鑑賞へ行くことがある。

 彼らの趣味とは言えないが、一般的に、デートであっても今日においてはマイナーな場所であり、行く機会は滅多に来ない。

 それ故、くれ、思い出として刻んでくれる。

 それにこれが男女間におけるデートであれば、双方いずれも気取ってしまい、真に愉しんだとは言えない結果となる。


 それが同姓間であれば、「この絵はつまらないな」と思えばスタスタと次の絵へと向かう気楽さや、クラシック鑑賞であれば、これまた気軽に事ができるのだ。


 そういった側面を念頭に、なぜ僕が「ヤンデレ小説」しか書けないのか、と考えると何かしら感ずるものがある。


 そして、これらを更に裏付ける根拠として挙げられるものがもうひとつある。

 僕は事実、異性から告白される事が多い。

 だがしかし、何故だか大抵の場合僕はそれらを断った。

 年頃の男の子なら誰しも欲しがるバレンタインチョコでさえ、「いらないよ」と受け取らなかった事のある極悪人。

 思えば、小学生の頃から「もしかして◯◯君って、ゲイ?」と女子から言われていた。

 幸い、僕も彼女らも偏見の目は持っていなかったが、当然のように「違う」と言っていた。


 そんな話で盛り上がって、配信は無事終了。

 しばらくして、来てくださった方の配信へ伺うと、とある作家の小説をオススメしていただいた。

 それこそが、我が人生において、初めてのBL文学なのだった。


 本棚を見れば、その人が分かる。

 読書というものは、積極的に孤独を享受し、自ら個性という名の偏りをつくりだす。

 そのため、真剣にオススメされた書籍は、往々にして精神を一新させ、本来であれば生涯、読む(観る)ことのなかったであろう作品を知るきっかけとして実に優れた場である。


 そんな事を考えつつ、数日後にひかえる親友とのに胸を踊らせる……

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