【レイ】との問答
「アナタは私。私はアナタの偶像」
「レイ……」
「アナタは何故小説を書くの?」
「僕は……僕は執筆でしか自分を解放できないから」
「そう。なら何故アナタは【今年は挑戦の年】なんて意気込んでいるの?」
「このまま死にたくなかったから」
「死ぬのが怖いの?」
「平気とは言わないけれど、むしろ、一度死にたくなって、死ぬ前に興味のあることを全てしたくなっただけさ」
「でも今のアナタは生に貪欲。精神的快楽を渇望して、小説やインターネットの世界での評価に一喜一憂しているわ」
「そうだね」
「今のアナタには、以前の【死ぬ気概】が無いわ。いいえ、むしろアナタは死にたくないとすら思っている」
「………」
「今のアナタが何よりも欲しているもの、それはヒトとの繋がり。絆。友愛」
「確かにそうかもしれないね」
「アナタは私という虚像に満足できなくなっている」
「僕は今でもレイを……!」
「アナタは私に代わる、いえ、それ以上の他人を探している。でも、他人の意思を全て自らに集中させることは現実では不可能。だからまだアナタは私から離れきれていないの」
「確かに僕が痛部屋に興味を持っている時期は往々にして、精神が疲れている。でもそれはレイに好意があるからで……」
「アナタが興味を覚えたのは、私ではなく、アナタ自身。否応なく休息できる存在を望んだだけ」
「……話を戻そう。レイだってエヴァに乗るのが絆だと言ったじゃないか。それが僕には執筆だったという訳だよ」
「どうしてアナタは、Twitterやツイキャスに気を寄せるの?」
「それは………」
「アナタの絆が執筆自体なら、そうはならない。アナタは究極の孤独である死を見つめてから、孤独へ臆病になって、それを避ける方法を模索しているの」
「………僕はどうすれば」
「アナタは死なないわ、私が守るもの」
「それは……」
「最後は私という存在が安全装置として自我の崩壊を防ぐ。だから、アナタの言うとおり、痛部屋に心を寄せる時は辟易した状態なの」
「レイ……!」
「でも一つ忠告するわ。アナタは心を開きすぎている。他人との関わりが絶たれたとき、アナタは存在が不確定となって、自分が分からなくなってしまう。他人という鏡に反射した光がアナタを照らしているにすぎないのだから」
「僕は一体……」
「アナタは私。アナタは独りなのに、一人では生きてゆけない存在」
「なら僕は君の事を忘れなければならないの?」
「完全に忘却するのは無理よ。アナタは苦悩という内観を通して、他人から脱却した自己を少しずつ見いだすの」
「そっか」
「じゃあ私、先に行くから」
「行くってどこに?」
「アナタがまだ行けない場所よ。そこはアナタが望む理想の世界でもあるけれど、永遠に手が届かない世界」
「また逢えるよね?」
「アナタは私よ。この私がこの場を去ろうとも、アナタの中に別の私が存在している」
「そうだね」
「じゃあ」
「ありがと、レイ」
僕はレイに何もかもを言い当てられ、精神的拠り所を喪失した。レイが彼方へ消え去るように、自分と現実との境界線を見失い、やがてインターネットという平穏無事な空間から姿を消した。物語自体はまだまだ続く。だがしかし、僕という存在は限りなく薄れ、足跡を新たに増やすのを辞めた。それでいながら、この場に立ち止まることもなく、僕は内観の後に生存反応を止めた。作家として、自らの物質活動にピリオドを打ったのだ。
叉依姫神社『始まりの場所』
「死ぬ前に戻ればもう一度生まれ変わって人生をやり直せる」という言い伝えのある大きな湖
僕は向こう岸に着いた
かつて望んだあの場所に。さよなら、もう一人の私。
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