御託を並べて分析とする青二才

「ちょっと待て。それは違うだろ」

 僕の好きなプロの小説家が、小説投稿サイトで賞を取ったことを知った時、僕はそれにエントリーこそしてはいなかったが、正直なところ嫉妬から怒りを覚えた。

 有名動画投稿サイトでも同じく、素人の空間にプロが参入し、瞬く間に元居た世界同様に、圧倒的人気を勝ち得る。

 その現象が、この投稿サイトでも行われている事実を知り、少なからず腹を立てている。

 だが、「もうこんなもの続けても仕方がない」と諦める気にもならなかった。それほど僕は「小説」に情熱を傾けていたのだ。新作の連載ものが上手く形にならない焦燥感がこの権威に対する憎しみを生み出したに違いない。

「仕事そのものが報酬ですから」と語ったシャーロック・ホームズを思い出し、再び前進しなければならない一方で、「趣味で書いています」と語る売れっ子作家達に追いつけないこの許しがたい現実も忘れてはならない。

 理性では専業作家にそう簡単になれるものではないことくらい分かっている。しかし、口が裂けても、馬鹿にされようとも僕は執筆を「趣味」とは決して表現しない。

「頑張れ」「思っていたよりも面白い」

 僕が打ち明けた数少ない友人達はリップサービスであろうとも皆、こう表現してくれる。何が悪いのかが分からなくなってきているというのが本音だ。もちろん100%の完成度などと思うほど自尊心に精神を飼いならされてはいないのだが、さりとてこうも伸び率が悪いものかと感じているのは紛れもない事実だ。


 これは何も投稿サイトにおける読者数だけの話ではない。ネット世界でのフォロワー数もこれに等しい動向を見せている。

「原因は何なのか」

 単純に考えてこれが判明した時こそ、僕の真価が問われる時でもあるのだ。

「ミネルヴァの梟は黄昏に飛ぶ」

 とある哲学者が言った言葉で、端的に表すと、現実の学問はその事象が終わった時にようやく機能するという風な意味で、つまるところ、経済学だろうが何だろうが、現在進行形の事柄に対して完璧な分析・説明が付くのは、その出来事が既に終わった時になるということ。

 僕は書き続ける。分析はある程度は必要だが、机上の空論となるのは目に見えているからだ。仮に普遍的にヒットする法則があるならば、とうに実践しているだろうし、それを大多数の人間が実践したならば、もはや成功とは言えないだろう。


 学問に王道なし。この王道は「ラノベで言うところのラブコメ」などという意味合いではなく、読んで字の如く、王の道を意味する。学問には王専用の近道などなく、皆が等しく、同じだけあるいはそれ以上の努力が必要だということ。まさしく天才とは99%の努力と1%のひらめきなのだ。そしてこの苦悩は、僕が真剣に取り組んでいるからこその賜物なのだ。


 しかしあることに気が付く。その受賞したプロの作家は果たして全作評価を受けているのか。答えはそうではない。

「代表作」という言葉を穿うがった見方をすれば、比較的評価を受けていない作品が他にあるということ。

 こんなつまらない事をわざわざ取り上げてコイツは相当、嫉妬に狂っているなと思われかねないので、話を続けると、プロですらそうなのだから、何もにこだわり過ぎず、漫然にとまでは気を緩めなくとも、そう追い込み過ぎないのも一つの長期的プランなのかもしれないなと後に続く気づきなのだ。


 次なる新作が迫りくる夏にヒットを迎えるという夢物語を抱きながら、しばらくは物語を執筆してゆく。

 そう思い直した時、ようやく新作の構想がはっきりと見えだした。

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