新たな景色 変わりゆく景観
近頃、そう多くないにしても少しずつ評価を頂けるようになり、それに呼応するかのように、精神にも変化が現れてきた。いささかおこがましいが、クリエイター的視点でもって様々な作品を観察・鑑賞し始めたのだ。これは小説だけに留まらず、音楽や絵画、アニメにゲームなどの芸術娯楽全般と言っても過言ではない。
それともう一つ変化したことがある。懐古趣味と言うよりも、思い出を探しているとした方が正確かもしれない。かつては自室にモノが少ないことを良しとしていたが、僕の前斜め右には、子どもの頃に時折買ってもらい、好んで食べた「メロンアイス」のカラの容器が仰々しく鎮座している。ただのゴミであるこの容器をわざわざ洗い、仕方なしに目薬などを放り込んでいる。
幸い、物で散らかった部屋とまではなっていない。しかしここで「クリエイター的思考」が登場し、自分が「名作だ」と感じた書籍などを、以前よりも財布の紐が緩くなったおかげなのか、はたまた、そのせいなのか、物は依然と比較しても増えやすい状態にあるのは事実だ。
クリエイター的思考などという不確定なものを差し置いて考えた時、僕はあることに気が付いた。
小説を執筆し始めてからというもの、以前よりも自室に居る時間が増え、それに拍車をかけるように、とは言え時間軸ではこちらの方が先だが、感染症の流行に際する自粛。ここで自室が退屈至極とまではいかずとも、無味乾燥で、単なる宿泊ルームでは、確実に窒息してしまう。それ故に、僕は思い出という安全地帯と、名作というイデア界を欲したのだろう。この現実に、この部屋に縛られないために。
歴史を僕は好んで学んでいるが、それも英雄や、知識人・芸術家の動向や思想という大河に身を委ねると、現実での士気が高まるからというのも理由の一つだ。
そして、過去の名作や思い出に浸りながら、パソコンに向かって創作することで、ある種、自身が歴史上の人物・偉人になったかのような錯覚さえ起きてくる。
あともう一つ変わったのは、僕の机に自分と同じ名字の「S」というキャラのスマホスタンドを新たに購入したことだろうか。これはもちろんマニア的嗜好品なのだが、僕にとってはより大きな意味を持つ。
というのも、そもそもこのスマホスタンドが自室に飾られるはるか以前から、「S」のポストカードを写真立てに入れて飾っていたのだが、このキャラは、先ほども言った通り、同じ名字であり、僕のイメージ画像としても使用している。言わば、作家Sという別人格・幸福へと繋がる二次元的アイデンティティの象徴でもある。
ドラマの刑事が警察手帳に家族の写真を挟んでいることで、警官である自分と、夫・父親であることを思い出させるように。
自らのもう一つの肖像画として、今も机に飾られている。それが増え、スマホスタンドとして「実用」している。
小説だけが、世界との「絆」であるというメタファー。命を賭して、一事に励む精神性の偶像崇拝。孤独と孤高の違いを指し示す使徒。万物の由来たるマリア。それらを一身に表現するキャラクター「S」を、僕が意識せずとも視界に入れる事で、作家としての自分という存在を、確固たるものへと昇華させんと脊髄反射的に自らを鼓舞し、今日という日常をなんとか生ききる。
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