闇夜を照らし、行く先を諭す北斗七星
ラノベ作家Rは僕の目標であり、ある種師匠的存在であると同時に、僕の中では、切磋琢磨し合う友人だった。書籍化にはいたっていないが、投稿サイトでは既に人気作家。
僕の好きな小説、文豪・武者小路実篤の代表作『友情』が、個人的に思い描く関係図と似ていた。
僕が主人公・野島なら、彼は大宮。世間での知名度の低い僕を、心から応援してくれる文士仲間。僕らの友情、もちろん、文面でのみ介された友情を破綻させる「杉子」が居ない以上、まだ決別する事はないはずだ。
つい一週間程前、Rは自主企画を立ち上げた。
〈第1回 白樺賞〉
短編かつ自由主義的である事が前提条件であり、1位である「白樺賞」と、二人選出される2位「実篤賞」、そして3位の「細川賞」
気心の知れた作家が主宰している、というよりも、彼は誰かがつけた評価ではなく、作品をしっかりと読んで、選考してくれると信じて、僕も企画が発表された日に、エントリーした。
さて、「1万字以下」という指定があるため、文字数の問題は無かろう。問題は「自由主義的」という基準である。こちらが自由主義だと考えても、Rが、読者がそう捉えなければ、企画としてはよろしくない。
どうしたものかと悩んでも、結局はいつも通り、冒頭やテーマを考え、後は無心でキャラに委ねようと切り替えた。どこかで聞いたような手法だが、事実僕はそうして執筆している。
書き出せば早いもので、その日の内に完成し、早速投稿する。
結果発表は一週間後。それまでは他の自分の作品と変わらず、「作家 S」という欄に掲載されているに過ぎない。
これはよかれあしかれだが、僕は自分の作品を素晴らしいと信じて疑わない。
だが、企画にエントリーした小説の反応や如何に、と問えば、まさしく悲惨なものであり、閑古鳥が鳴く昔ながらの商店街の如く、がらんとしており、読者は一向に現れない。
それでも今日は訪れ、僕はRのコメント欄で待機していた。焦燥と期待。不安と希望。
画面に新たなコメントが追加される。急いで僕はそれをクリックし、集中する。
『作家S様 実篤賞』
僕は感動を拳に集め、天高く掲げた。
一位ではなかった。だが、僕の作品は、確かに「作品」たる資質がある事が証明された気がした。初めての受賞。
僕は急いで感謝の言葉を送信し、後は余韻へと浸ることにした。あぁ、人生は素晴らしい。絶望していた頃の記憶が消されたかのように、全身全霊をもって、自らを祝福した。
そんな日だった。あの麻枝准が新作アニメを今年の10月に放送すると発表したのは。
Keyという初心を思い出させる、まさしく神の采配のようにも感じた。
ともかく僕は間違ってなかったと、自分を褒め称えた。そうすることで、明日を生き抜くために。
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