芸術サロンの復興
僕は以前から、一人の友人と哲学的議論会を度々催してきた。僕らはそういった場を、サロンと称してきた。ネイルサロンではなく、貴族や文化人の集いの方だ。
しかし、ここしばらくは連絡も交わさず、各々が独り、自らの赴くままに過ごしてきた。
だがある日、再びサロンは息を吹き返した。脳死ではなく、心配停止であったため、在りし日のように、彼から議題が送られてきたのだ。
日常では使わない脳の一部を呼び起こし、カビの生えかかった拙い学識を、ここぞと言わんばかりに吐き出した。
彼は僕が小説を書いていることを知り、こう切り出した。
「俺の体験を書いてはくれないか」と。
僕としても面白そうなので、快諾し、後日、彼から体験とやらの草稿が送られてきた。
いささかおこがましいが、彼の草稿は、読み物としては、それほどでもなかった。
しかし、やはり他人である以上、自分からは発想されないであろう言い回しには、驚かされた。
僕は彼を応援・批評するのを隠れ蓑に、自らを鼓舞した。
勉強を教える方もまた、勉強になるというが、まさしくその効果を狙ったもので、彼の作品が、読者の視点でダメだと思われる箇所は、とりもなおさず自分も思われかねない箇所である。
塾や師弟関係ではない。知識・教養を互いに向上させてゆく。これこそが、サロンなのだ。だからあえて、編集者や批評家を気取るのではなく、読者として彼に語りかけ、決して手を加える事はしなかった。
私小説の完成は、必ずしも現実に基づく必要はない。これは、異世界転生を許すといったような突飛なものではなく、結末への態度は、現実と小説を一致させなくても良いという事。
ゲーテがフラれたのは事実だとしても、結果的に自殺することはなく、『若きウェルテルの悩み』を書き上げたように。
小説と共に、僕らは確かに成長している。
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