煩悶する日々

 「創りたい、絶対に創りたい!」

 その日僕は改めて決心した。いつか必ず『Key』を創ると。人生すらも変えてしまう、神の領域、芸術の神髄たる『Key』を。

 俄然として僕の小説は人気とは程遠い存在であり、陽の目をただ日陰から恋しがっているに過ぎない。


 もちろん、そう簡単に実現出来れば、案外僕の傾倒する作品たちはそこまでのモノなのかもしれない。したがって、僕が苦悩すればするほど、それら二次元はいと高き座へと君臨している事への証明でもある。


 だからこそ、魂をぶつける必要がある。創作は嘘の塊ではない。真に伝えたい事を活字として注ぎ込む。それが創作における、昇華という現象なのだ。


 ではどうすればいい?

 正攻法で攻める他あるまい。

 ただひたすらに活字と向き合うのだ。視力を芸術の神が鎮座する祭壇へ、生け贄として捧げ、経典に則って神事を奉るが如く、名文・名作を読む。そして肝心要たる所作、創作へと日夜励む。なればこそ、芸術は作品へと舞い降りる。


 雨の降りしきる中、僕は一人闘魂を燃やし、使命と言わんばかりに小説を書き出す。執筆用デスクに長時間居座り、気づけば窓の外は真っ暗だった。時間をかけるしかない。明日のことはおろか、一分先のことすら怪しいのが、人間の宿命である。

 しかし、時間という資本以外に、僕の作品を向上させるものは何一つとして無いのだ。


 流れ行く雨粒と時間は、僕のメンタルの弱さを見捨てて、どんどん先へ先へと進んでゆく。かの感染症の流行により、たまさかストレスが減少している現状。

 しかしはすぐ近くまでやって来ているのだ。あの辛い日常が。いずれ時間でさえも、ままならなくなってしまう。その日が来たら、僕はどうなるのだろうか……


 希望の裏にはいつだって絶望が息を潜めている。まるで僕らを嘲笑うかのように突然現れ、ズタズタに心を引き裂き、またどこかへと去っていく。僕はあの日常が怖くて怖くて仕方がなかった。


 優れた作品を観た後は、大抵、辛い日常と比較してしまい、虚無感の渦へと巻き込まれる。

 僕はさながら自傷行為のように、そんなが自分でも創れるように、そして自分が傷つく事を待ち望んでいた……

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