プロローグ3「神職者」


「……教皇様」


 ステンドグラスのバラ窓から、淡い光が暖かな陽気に差す木漏れ日の如く、大聖堂を照らしている。


 その場所は他の場所と違い、空気が澄み渡り、神々しさすら感じられる場所。


 講堂の中心でたった一つの像に向かって祈りを捧げる一人の女性に信徒が手紙を運んできた。


 そして、教皇と呼ばれた女性に丁寧に手紙を渡すと奥へ消える。


「……?」


 一通りの祈りを終え、女性は手紙を確認する。


 だが、そこに差出人等の情報も無く、ましてや貴族等が使う家紋の印すら無かった。


 加えて言えば、手紙自体、お世辞にも上品な紙を使ってはおらず、見るからにそこらで買った和紙を使っている。


 和紙自体、東方発祥の物であり、他国に流通しているとは言え、その数は多くはない。


 だとすれば、物珍しい和紙を取り扱っている所も限られる。


 感触での手触りや周辺の魔力で瞬時に感じ取ると、彼女の事をよく知っていないと分からない程ごく僅かに顔をしかめた。

 

「……マスターは意地悪ですね」


 そして、手紙の内容を周辺の魔力を用いてインクの跳ね、染み込み、和紙とインクの比率等を正確に把握し、文章を読んでいく。

 

「…………なるほど」


 一言呟くと背後に立てかけておいた小さめの鞄を開けた。


 その瞬間、聖とは真反対の講堂を溢れさせる程の悍ましい魔力が放出。


 けれど、女は何事も無い様に鞄の中からある一つの紙を取り出すと、何かを書き、小さな声で何かを呟いて魔術を行使すると、小鳥へと紙を変化させた。


「これなら。きっと、マスターは喜んでくれるでしょう」


 彼女には、この世全ての物が目元を覆う黒で見えてはいない。


 だが、


「ふふっ、今日は、世界を救うにはとってもいい日です」


 そう呟くと天からの光を浴び神々しく輝く一人の男の像へと手を触れ、柔らかく微笑む。


 そんな彼女の背後には幾千もの黒装束に身を包んだ信徒が、片膝を付き、首を垂れるという異様な光景が広がっていた。

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