プロローグ2「紅に染まる銀色」


 夜のとばりが下ろされた城下外。


 仄かな橙色の灯りが、水面みなもに流れる蝋燭ろうそくの様に列を作り、人々の活気が高く聞こえる程に賑わう。


 まるで、星空を地面に反射させたかの様に、色とりどりの灯りが街の繁栄を表す美しい光景。


 そこに、東方の大國——大和ヤマトでしか生えない木々が凍てつく寒さに備え、赤や黄緑等、鮮やかに街を着飾っている。


 大通りから真っ直ぐに伸びた坂の奥。


 天を貫かんと言わんばかりの何十階層からなる木製の塔が、そんな煌びやかな都市全体を見下ろしていた。


 塔全体が朱色に染まった、その最上階。


 そこには、一人の獣人が住んでいる。


 誰かは天を貫かんとする塔に住むのだから、と最上階には「天への橋渡しとして月女神が住んでいるのだ」と言い、またある者は「きっと、見目麗しい妖艶な美女が住んでいるに違いない」と言い、またある者は「いいえ、あの場所には伝説の賢者様がいらっしゃるのよ」と言った。


          * * *


「ふふっ、にゃふふふっ♪」

「楽しそうですね?」

「そりゃあ、楽しくもなろうて」


 誰が言ったか、和城華塔わじょうかとうとも称される塔の主人である女は声を掛けてきた人物に眼もくれず、ただジッと嬉しそうに何かを見つめていた。


 その証拠に、彼女の腰から伸びる白銀のもふもふとした尻尾が左右に機嫌良さそうに揺れる。


 一定のリズムを刻みながら流れる水の音も、鹿威ししおどしの軽快な音も、全てが彼女の為に作られたもの。


 目の前の光景をいつもの事かと表情の読めない呆れ顔で眺めていると、表情の原因を見つけた。


「その手紙は?」

「これか? 知りたいか?」

「……めんどくさ」

「しっかり聞こえ取るわ! このドアホがぁ!!」

「で、なんなんです? それ?」

「これか? これはな、にゅふふふっ」

「あ~、ほんと良いですからそういうの。早く教えてくださいよ」

「……お主ホント、そういうとこ変わらんのー」


 呆れた顔をしていた白獣の女だったが、自身の真後ろから覗き込んだ女を見ると、壮大な笑みを浮かべた。


「これはな、我が愛しの旦那様からの愛の手紙じゃ!!」

「ぁ~……つまりは、あの御方からの手紙ですか」

「味気無いのぉ~。恋無き乙女は遂に恋慕という感情すら無くしたか」

「そう言われましても。それで、なんと?」

「ん~、つまりは――――」


 ニマっと八重歯を覗かすと、


「アヤツらより早く、困った旦那様を見つけ出せという事じゃ♪」

「………………はい?」


 吹き抜けた風が彼女の白銀の長い髪を靡かせる。


 振り返った姿と星空に浮かぶ月光が彼女と重なり、神聖でありながら魔の妖艶さを魅せていた。

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