第98話 一応尋問しました。
こんにちは、勇者です。
ジューシーかつボリュームたっぷり、胃にもガツンとくる肉ばっかりの朝食を済ませて自分はクロちゃんたちと一時お別れ。
ドワーフたちの墓碑の改修作業も順調のようで、今日中には仕上げて納得のいくものが完成するとのことです。
それで彼らの罪の意識が消えることはないと思いますが、本人たちが希望するというならとやかく言う権利もありません。
クロちゃんのお父さんのお墓が立派になるのは良いことですしね。
――――さてと。あまり気は進みませんが自分もやることをやりますか。
っていうかですね、正直彼らを尋問しても後が面倒なだけなんですよ⋯⋯奴隷の問題もあるし、自分には絶対手に余る案件だと思うのです。
かといってズルーガ国内では罪となることを野放しにするのは気が咎めるし、殺してしまうのは更に良心の呵責が伴います。
そういうわけで、適当な落とし所を決めてズルーガの然るべき場所へと突き出すのが妥当。
その前準備として話を聞くに留める程度でいいでしょう。
でも⋯⋯ちらっと見ただけだったけどみんなガラが悪そうだったんだよなぁ。
嫌だなぁ。しかも、ルルエさんにもし喋らなかった時にはって色々と言われちゃってるし⋯⋯。
◇◇◇◇◇◇
「――――誰よアンタ」
彼らが監禁されているという納屋へ足を運ぶと、縛られた状態の女性が一人、男性が二人。
男の方は方や自分よりも細身で、もう一方はガチガチな筋肉質でした。
その中の女性が自分を射竦ませるように鋭い眼光で睨みつけてきます。
「初めまして、ではないんですが一応名乗っておきます。自分はグレイ・オルサム、碧の勇者の一人です」
努めて丁寧に名乗ってみますが、その後は誰一人として名乗りも返しません。
ま、予想通りなんですが。
「さて色々と質問はあるのですが、まずあなた方は蒼の勇者アキヒサ・ツムラの仲間ということで間違い無いですね?」
そう問いかけますが、誰も視線を合わせず言葉を発しようともしません。
じゃあ最初の仕掛けを使いますか。
「しらばっくれても無駄ですよ、ここに証人がいますから」
自分は一度納屋から出て、とある人物を連れてきます。
猿轡を噛ませ、綱でぐるぐるに縛った彼を引っ張ってくるとそれを見た彼らは目を見張りました。
「ア、アキヒサ!? ど、どうして」
はい、まずは第一関門クリア。
「どうしてもなにも、あなた方と同じですよ。自分がボコボコにしてこうして捕らえていたんです」
ま、嘘なんですけどね?
このツムラは
「そ、そんな⋯⋯本当にアキヒサがこんなガキに負けたなんて」
「信じられん⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
三者三様、しかしだいぶ心は揺さぶれたようです。
「ツムラ本人からは後ほどゆっくりと話を聞きます。さ、あなたはもう戻ってください」
幻覚を外へ連れ出すふりをして、
戻ってくれば先程とは違い、三人とも何処か諦観したような顔つきをしています。
「聞きたいことは山ほどあります。最初の一つは此処で使役されていた奴隷たち、その所有者は誰ですか」
はい、またみんな黙りです。しかし自分は見逃しませんよ?
なんか際どい服装の彼女、一瞬眉を顰めて目を逸らしました。
「そうですか、あなたが所有者ですね。お名前は?」
「⋯⋯セレスティナ。セレスティナ・ペルゲンよ」
おや。随分とあっさり自己紹介してくれましたね。
「言っておくけど、私はこのペルゲン辺境伯領の領主の娘よ! 碧程度のアンタなんか簡単に潰せるんだからね!」
あ〜、お貴族様の家の人でしたか。
というか今知りましたが、この辺はペルゲン辺境伯領という土地だったんですか。
竜人の里でもらった曖昧な地図で空からウロウロしてたのでどこの領地とか全然知りませんでした。
「ズルーガでは奴隷の所持は違法でしょう、貴族だからって法の裁きから逃げられると?」
「フン! 私のペットには他領の子息だって腐るほどいるわ! 抜け道なんていくらでもあるのよ!」
えぇ⋯⋯余所の貴族まで奴隷に、っていうか今ペットって言いましたよこの人。
真性のサディストなんでしょうか。しかしうちにはそれの更に上をいく女性陣がいるので特になんとも思いませんがね!
「それに誰一人証言なんてさせないわ。私の指示一つであの子たちの命だって思いのままなんだから」
「あ〜、それなんですが⋯⋯少なくとも此処にいた奴隷たちは契約を解除されてますからね?」
「――――ハ?」
あはは、目が点になってる。
そりゃそうですよねぇ、普通は契約者抜きに契約解除なんてできませんから。
「そ、そんな見え透いたハッタリ、子供でもしないわよ! あんた馬鹿なの!?」
「では証明しましょう――ウオンドルさん」
扉の外に一声掛ければ、髭もじゃドワーフのウオンドルさんが厳めしい顔を更に険しくしてズンズンと入ってきました。
「さぁ、彼はあなたが使役していたドワーフで間違い無いですね?」
「そ、そうよ」
「彼の額に奴隷紋はありますか?」
途端にセレスティナは動揺を見せました。
当然の如くそこにあるはずのものが消え失せているのですから。
「⋯⋯この、屑女がっ!」
ウオンドルさんがセレスティナに近づき、唾を吐きかける。
「きゃっ! やめなさいよこの獣以下のドワーフが! あんた殺されたいの!?」
「殺されたいのはどっちだ! テメェのせいで一体どれだけの仲間が売られて死んでいったか!」
ウオンドルさんはまさに怒髪天を衝く勢いでセレスティナの胸ぐらを掴み、頬を思い切り引っ叩きます。
あの、あんまりやりすぎないでね?
ドワーフの中でも一番自制が効きそうなので彼を選んだのですが、その怒りは自分の予想を遥かに超えていたようです。
叩かれたセレスティナは自分が何をされたのか、しばらく理解が追いつかないようでした。
自分の奴隷が、決して主人には手を上げられないはずの目下の者がそんなことをするなんて思いもしなかったのでしょう。
「⋯⋯すみませんウオンドルさん。もうその辺で」
「ふん、たった一発じゃちぃとも怒りは収まらんが⋯⋯パパさんよぉ、コイツらには後できっちりと落とし前つけてもらいますぜ」
そう言いながら、彼はドスドスと足音を立てながら去っていきました。
「それで、状況はお分かりで?」
改めてセレスティナにそう問うと、彼女は茫然自失といった感じで視線が定まりません。
「⋯⋯へっ、だからなんだよ。此処の奴隷が解放されたからって状況は変わらねぇ。市民権も持たねぇ元奴隷が何言ったって、貴族の言葉に潰されるだけよ」
そう言い放ったのは横にいる痩せぎすの男。なんか、なんていうか、とにかく目付きが不愉快。
如何にも悪事をし慣れてますって雰囲気です。
「そうですねぇ。でも、王族の言葉ならどうですかね?」
「ハッ! 王族がここにいるってか! 本当なら是非にも会ってみたいもんだな!」
自分の言葉に怯みもせず彼は言い返す。
だけどねぇ、いたんだよねぇ。
「多分そこのセレスティナさんが戦ったと思うんですが、彼女がズルーガの王族ですよ。名前はエメラダ。貴女ならご存知なのでは?」
問いかけるようにセレスティナに視線を向けると、ふわふわと漂っていた眼に力が戻る。
「――――エメラダ、お姉様?」
「お、お姉様?」
いやちょっと、自分が知らない間に何やってるんですかエメラダ。
「まさかお姉様が、いえでも確かに⋯⋯え、え? 本当に? あの方が第一王女エメラダ様?」
セレスティナの混乱ぶりに、痩せぎすの男もさっきから黙り続けている大男も少なからず動揺する。
「エメラダは今ここにはいませんが、あなた方をズルーガに突き出すためにももう一度彼女に会ってもらいます。でも今あなた方が犯してきた罪を正直に話すなら、多少は彼女にとりなすよう言い含めてもいいですよ」
その言葉に一番揺れ動いたのが痩せぎすの男。
この人、打算に満ち溢れているような雰囲気がありますし。
しかしそれでも自分の言葉が真実だと確信が持てないのか、無言で暫く様子を見ても誰も喋ることはありませんでした。
「――――ふぅ、なら仕方ありません。自分、あまりこういうやり方は好きじゃないんですが」
とりあえずは、痩せぎすの男からかな?
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