第97話 一応成長しちゃってました。
おはようございます、勇者です。
皆さん、お分かりですね?
はい、いつもの例に洩れず二日酔いでございます⋯⋯。
昨日は日も高いうち早々に酔い潰れ、今朝起きればベッドの上。
そしてまず第一に取った行動がトイレにダッシュでした。
それはもう気持ちの良いくらい盛大にキラキラを放出し、自分は這々の体でベッドへと戻り崩れ落ちました。
「おっはようグレイくん! いい朝ねぇ、調子はどうかしらぁ?」
「あ゛〜、ゔぁ〜〜〜〜〜」
もはや言葉にもならない呻きを上げ、ルルエさんに助けを求めます。
早く! 解毒を早く!
「あららまた二日酔い? いつまで経っても強くならないわねぇ。ドワーフたちを見習いなさいなぁ」
酒にべらぼうに強いと噂のドワーフを見習えと言うほうが頭おかしいんじゃないですかね?
そう言いたくとも頭痛と吐き気に苛まれ、とても言葉にはなりません。
「るるえさ⋯⋯げ、どぐ⋯⋯⋯⋯」
「は? なんで?」
まるで意味が分からないといった風にルルエさんがそう言います。こ、この人⋯⋯ドワーフたちに混ざって自分の口に酒瓶突っ込んできたくせに!
「あのさグレイくん。君もう自分で魔術使えるんだから私が解毒する必要ないのよぉ?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯あ。
「――――
試してみれば、何の問題もなく二日酔いはサッパリと消え去りました。
そうだった⋯⋯自分もう魔術使えるんだった。いつもルルエさんのお世話になってたからそうしなきゃいけないと思い込んでた。
「ふぅ、生き返った!」
「それは三日前の話だけどねぇ。それともグレイくんはお姉さんに治してもらいたかったのかなぁ?」
「ぐ、ちがいますぅ! ちょっと忘れてただけですぅ!」
なんですかその生暖かい目は! べ、別に甘えてたとかそんなんじゃないんだからね!
「そういえばグレイくん、いつの間に精霊召衣を無詠唱でできるようになったの?」
「へ?」
そういえば、いま無意識に水精の力を使ってましたね⋯⋯なんで?
「試しにそのまま他の魔術も使ってみなさいよぉ」
そう施されて、言われるがまま攻撃系ではない魔術を使ってみる。
火精の
全てが精霊召衣を無詠唱で、というか召衣するという意識をせずとも使えてしまったのです。
魔術自体もやろうとすれば無詠唱で発動可能。でもやっぱり術や技って口にしたくなるじゃない?
「なんで⋯⋯これ結構大変なことじゃないですか!?」
「そうねぇ。もしかしたら今のグレイくんは常に五元精霊を召依してる状態なのかもしれない」
「ウソ⋯⋯」
(嘘じゃねぇぞ? お前ん中――――お前の器と言ったほうがいいか? いまアホみたいに広くなっててよ。俺ら常にお前に力垂れ流してんだわ)
その声はサルマンドラさんですね。
(サルマンドラさん、どういうことですか? 広くなってるって)
(まぁお前がそれだけ成長したってことだろ。こんなこと出来る人間、俺達が知る中でもお前が初めてだわ。まぁ素直に喜んどけよ。魔力も桁違いに増えてるし、憑依だってこれまでとは比べられんくらい長い時間憑いていられるぞ!)
(そんな急成長する理由にまるで心当たりがないんですが!?)
(あ〜。一応理由はあるんだが、俺の口からはなんも言えんな。あれだ、死んで生き返ったからなんか強くなったとか、そんな感じに思っとけよ)
そんなことあるかーい!
一々生き返って強くなってたら自分はとっくに世界最強ですよ! それは言い過ぎだけど!
でも確かに⋯⋯二日酔いに気を取られてすっかり忘れていましたが、昨日あれだけ精霊痛で重かった身体が今日はなんの問題もないのです。これは回復の速さも以前よりずっと増している?
「な〜に一人で百面相してるのよぉ」
サルマンドラさんと話している間に色々と顔に出ていたのでしょうか。ルルエさんが気味悪そうに自分を見ています。
「あの⋯⋯精霊のお話では、自分が死んで生き返ったからなんか凄く成長したとか、そんな感じのことを言われまして」
「――――ふ〜ん? 良かったじゃなぁい」
そう言って笑うルルエさんの顔は、何処か黒いものが見え隠れするようなそんな雰囲気を感じました。
ひょっとしてこの人、また黙って自分に何かしたんじゃ!?
「ルルエさん、もしかして自分に何かしま⋯⋯」
「パパァーーーーーーッ!!」
バンッと入口の扉が開け放たれ、黒い塊がすごい勢いで腹に飛び込んできました。
ウッと思わず嘔吐きながら下を見れば、さらりとした長い黒髪が朝日に照らされて綺麗に光り輝いています。
「クロちゃん、ちょっと、痛い⋯⋯」
「おはよう! 今日はどうする? ドワーフのおじちゃんたちのお手伝いする?」
「おはようクロちゃん、朝から元気ねぇ。でもグレイくんにはちょっとやって貰わなきゃいけないことがあるから、今日はお姉さんと色々お勉強しましょう!」
「え〜、お勉強やだ。クロもパパのこと手伝うよ?」
そう言いながら、クロちゃんは自分によじ登って抱っこ状態になったりおんぶ状態になったりと忙しない。
「うおぉ、クロちゃん重い⋯⋯」
な、なんか以前より一層甘えてくるようになってませんか。
まぁ可愛いからいいんですけどね? むしろ大歓迎ですけどね?
と言うか、自分なにかやることってありましたっけ――あぁ、ありましたね。
ツムラの置き土産たちの尋問という面倒な用事が。
「クロちゃん、戦い方とか習いたくなぁい?」
ルルエさんの一言に、今は肩車状態のクロちゃんがピクリと反応します。
「竜の姿のクロちゃんも強くていいけど、これからグレイくんと家族としてずっといるなら人間の時の戦い方も知ってたほうが良いとお姉さんは思うんだけどなぁ?」
「ん〜むむぅ⋯⋯! わかった、クロ今日はルルーと戦い方のお勉強する!」
わちゃわちゃと自分の髪を弄りながら悩んだ結果、クロちゃんはルルエさんと過ごすことに決めたようです。
ちょっと大人のお話になりますし、クロちゃんは確かにいないほうがいいでしょう。
「でも! パパの用事が終わったらクロといっしょね! 狩りとかしよ! お肉お肉っ!」
昨日の焼き肉パーティーが余程楽しかったのか、単に狩りが楽しいだけか。でもそれで満足してくれるなら後でいくらでもお付き合いしましょう。
「わかりました。自分の用事が済んだら一緒に狩りに行きましょう! それまでルルエさんの言うことをよく聞いていっぱい強くなって下さいね?」
期待してるよ! と暗に含めてそう言えば、クロちゃんは俄然やる気を見せ始めました。
⋯⋯でもあまり強くなりすぎても自分の立場がなくなっちゃいそうだなぁ。
「でも、まずは朝ごはんにしましょう」
「あ、そうだ! クロはパパとルルーを呼びにきたんだった!」
昨日の朝はウオンドルさんが運んできてくれましたが、どうやら今日はドワーフの皆さんと食卓を囲んでの食事のようです。
「じゃあ急いで行きましょうか、ドワーフさんたちは皆よく食べますからなくなっちゃうかもしれません!」
「それはダメー! いこ、パパ! ルルーもいこ!」
「そうね、行きましょっか」
ルルエさんが自分の肩からヒョイとクロちゃんを降ろし手を繋ぐ。
クロちゃんにせがまれ自分も反対の手を取ると、三人仲良く朝食の席へ出発です。
⋯⋯なんかこの光景、
そんなことを思ってしまい自分は一人だけ頬を熱くしながら小屋を出ました。
ちなみに、ドワーフたちが用意してくれた食事は朝からガッツリ肉料理でした⋯⋯。
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