3章 骨山編
第11話 一応覗いちゃいました。
こんにちは、勇者です。
目の前にそびえるお屋敷は、豪邸というよりもはや小さなお城のようでした。高い壁に囲まれ、重厚で巨大な鉄柵門に守られた外観、覗いてみると広い庭園が広がり、数人の庭師が芝や樹木の剪定をしています。
その奥にある建物はとにかく大きく、古い印象を残しながらも瀟洒な雰囲気を醸し出していました。
「で、でかい……こんなお屋敷初めて見ました」
「そぉ? ハイエン家は王国でも古い名門だし、こんなものじゃないかしらぁ」
そうですか? と小首を傾げ無垢な瞳で呟くクレムくんは、彼が本当にお坊ちゃんなんだなぁと自分に自覚させました。この金持ちめ!
クレムくんは門番(門番までいるの!?)に声をかけると門を開けさせ、侍従らしき人がやってくると一言二言言葉を交わしています。
「皆さん、ひとまず僕は事の報告と皆さんのことを父に話してきますので、それまで客間のほうでお待ち頂けますか?」
勿論と頷き、入口から建物まで続く石畳の道を歩きだすのですが、門からそこまでが実に遠い……。
侍従さんが先に話を通していたのか、お屋敷の中に入ると十人ばかりの執事さんとメイドさんが整列しこちらに頭を垂れています。
その中のひとりの立派なジェントル髭を生やした執事さんが前に出てくると、恭しく挨拶をしてきます。
「クレム坊ちゃま、お帰りなさいませ。お客様の方々もいらっしゃいませ、ここまでご足労をお掛けしました。客間までご案内しますので、こちらへ」
「では皆さん、僕は外しますので、少しの間ごゆっくりなさってください」
こちらへ、と声を掛けてきたメイドさんの後ろに続いて客間に案内されました。部屋の中はもうどこの貴族の私室だよ、あぁここ貴族の家だったわと我に返るほど豪華な調度品が精錬に配置されていました。
「主のお声が掛かるまで、こちらでお休みください」
そう言ってメイドさんが下がると、自分はその部屋を見渡します。ちなみにルルエさんは別室へ案内されています。
祐に三人は横になれそうなベッド。柔らかな毛並みのベルベッドであつらえられたソファに、木目の綺麗なリビングテーブル。一番目立つのが、豪華な額に縁取られたご家族四人の肖像画でしょうか。一番ちいさな子供が多分クレムくんですね。
ソファに座ってみれば、適度な柔らかさで身体が沈んでいきます。もう自分ここで寝れる……。
ふにゃあ、とそこで横になり溶けていると、コンコンと戸を叩く音が聞こえます。慌てて居住まいを正してどうぞと声を掛けると、先程のメイドさんがお茶を持ってきてくれました。
「あ、ありがとうございます」
緊張気味にメイドさんにお礼を言うと、とんでもございませんと返され、ちらりとこちらを伺うような目線を感じます。何か品定めされているようにも感じました。
まぁある意味当然でしょうか。宅のお坊ちゃんが招いたとはいえ、素姓のわからぬ輩がいきなり訪れたのです。懐疑も興味も湧くでしょう。
メイドさんの出してくれた紅茶に一口くちをつけると、いままで味わったことのないような素敵な香りが自分の心を和ませます。ここのところ張りつめた日が続いたのもあって、自分はそこでうとうととし、うたた寝を始めてしまいました。
どれくらい時間が経ったのでしょう。再び戸を叩く音が聞こえて飛び起きました。
どうやらお屋敷の主――クレムくんの父親であるハイエン侯爵にお呼びが掛かったようです。名残惜しくソファから立ち上がりメイドさんの後をついていこうとすると、メイドさんが申し訳なさそうな顔で自分を見て、そっと白いハンカチが差し出されました。
「お客様、お口元がその……」
言われて、口から涎のあとが伝っているのだと気付きます。丁寧にメイドさんの心遣いをお断りすると、慌てて自分の手拭きで口を拭います。やだホントに恥ずかしい!
そして案内された応接室には、ハイエン侯と思しき中年の男性とクレムくんが隣り合って座り、その対面にはルルエさんが既にグラスを傾けて一杯ひっかけていました……。
「ご主人さま。グレイ様をお連れ致しました」
「あぁ、ありがとう。お客人……いえ、勇者グレイ様とお呼びすべきでしたね。ようこそ当家にいらっしゃいました。どうぞお掛け下さい」
立ち上がってハイエン侯に施されると、自分は恐縮し慌てます。
ハイエン侯は体格はがっしりとしているものの、何処かクレムくんに似た柔らかな雰囲気を醸す方で、失礼ながら自分のイメージしていた貴族様とはかなりの差異がありました。
「いえ、あの、どうか普通にグレイとお呼びください。自分はまだ若輩の勇者ですので……」
「では、失礼ながらグレイ殿と。クレムの言った通り謙虚な方ですな。さ、どうぞ。貴方も嗜まれますか?」
ハイエン侯がそう言って向けた視線の先には、ホウと甘い吐息を吐きながら高級そうな蒸留酒を飲むルルエさん。あんた自重しなさい!
「いえ、自分は結構です。お気遣いありがとうございます。……それと連れの不作法、申し訳ありません」
「ハッハッハ! なんの、ルルエ様とは古くから交流を持たせて頂いておりますので、もう当然のおもてなしですよ。さぁ、お掛け下さい」
ほう、やはりルルエさんとハイエン侯は面識があったのですね。
施されるままルルエさんの隣りに座ると、またメイドさんがお茶を差し出してくれます。
「なに普通に飲んでるんですか……失礼でしょ」
「いいのよぉ、クラウス坊やに気なんか使ってもしょうがないもの」
そう言ってルルエさんはまたチビチビとグラスを傾けます。
「ルルエ様は相変わらずの奔放さですな――さて、自己紹介が遅れました。私はクレムの父、クラウス・ロウ・ハイエンです。この度は息子の窮地を救って頂いたこと、本当に感謝しております」
そう言ってハイエン侯――クラウス様が深々と頭を下げます。あのダンジョンにクレムくんを行かせたのだから相当の毒親と思っていましたが、こう話してみる限りは割と普通に見えます。
「グレイ・オルサムです。この度はお招きいただきありがとうございます」
「いえ、当然の礼です。手練れの私兵を護衛に付けたので安心しきっていたのですが……まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったのです。重ね重ね、感謝いたします」
よく見ればクラウス様の目には薄らと涙が浮かんでいます。よほどクレムくんの無事が嬉しかったのでしょう。
「この通り愚息のクレムは魔物に対して極端に怯えてしまいます。しかし勇者の称を賜ったからにはと心を鬼にして送り出したのですが……私が間違っておりました」
「……僭越ながら、もし次に同じようなことをなさるおつもりならば、私兵ではなく信用のおける優秀な冒険者をお雇いください。今回のことは本当に偶然と幸運が重なった結果です。しかし最後にダンジョンのボスを倒したのはクレムくんです。よくご評価なさってください」
「ご忠告、肝に銘じます。しかしそれもグレイ殿のご助力あってのこと。聞けば何度も危ういところを助けて頂いたそうで。お二方がよろしければ好きなだけ屋敷にご滞在ください。クレムも喜びます」
「いえ、そうご厄介になるわけにも……」
「あら、なら丁度いいわぁ。そろそろグレイくんにも本格的に強くなってもらいたいし、ザーツにちょっとしごいてもらいましょう」
酒に夢中のルルエさんがそう口を挟みます。ザーツさんとはどなたのことでしょうか?
「なるほど、そういうことでしたらすぐ父に話を通しておきましょう。しかし、いきなり父の元での鍛錬とは……失礼ながら、グレイ殿のお身体が耐えきれるでしょうか」
「へーきへーきぃ、私がちゃんと治して嫌でも身体が動くようにしてあげるからぁ。今からグレイくんが血反吐を吐きまくる姿を想像すると楽しみで仕方ないわぁ!」
何怖いこと言ってるんですか!? 話の流れからザーツさんとはクラウス様の父上、クレムくんのお爺様ということなんでしょうが……鍛錬とは?
「あの、よく話が見えないのですが……」
「あぁ、失礼。私の父で前ハイエン侯爵のザーツは、昔はこの国でもそれなりに名の通った剣士でして。このクレムを鍛えたのも父なのです」
ちらりとクラウス様の横で黙ったままのクレムくんを見ると、微かに震えているのが分かります。え、うそ、そんな怖いの?
「あの……お兄様、死なないでくださいね。お爺様の修行は、その――地獄です」
「えぇぇ…………」
クレムくんのその一言で自分はくらりときました。楽しいお招きのはずが、いつの間にか地獄への直通馬車となってしまっています……。
「ま、まぁグレイ殿、そう怖がらず。父も隠居してからはかなり丸くなっております。些かやりすぎるかもしれませんが、死にはしません……多分」
この親子はやはり似ています。正直者なとことかそっくりです。時にそれは残酷なことなんだと声高に叫びたい!!
「ひとまずは、今夜の宴をお楽しみください。当家の料理人たちに腕を振るわせます故。グレイ殿のお口に合えば良いのですが、何かご希望などございますか?」
「い、いえ! お任せ致しますので、楽しみにさせて頂きます!」
お貴族様お抱えの料理人の食事が自分の口に合わないわけないじゃないですか! それを考えただけでも自分のテンションはウナギ昇りです! もう鍛錬のこととか考えず今夜は楽しませてもらいますよ!
「それでは、また晩餐の時間になったらお呼びいたします。その際には我が妻をご紹介させて頂きます」
「このおっさんねぇ、酔っぱらうと奥さんのことしか話さなくなるくらいぞっこんなのよぉ。グレイくん、絡まれることは覚悟しときなさいねぇ」
言われ、クラウス様は口ごもりながら顔を真っ赤にしています。平気です、惚気はともかく絡み酒は慣れています。主にルルエさんで。
そうして顔合わせも終わり、自分たちはまた客間へと戻りました。
ちなみにクロちゃんですが、どうやらお屋敷の庭が大変気に入ったらしく、表で楽しそうに飛び回っています。元々は自然で暮らしていましたし、好きにさせておきましょう。
そしてその夜の晩餐は、それはもう筆舌に尽くしがたい最高の時間でした。酒精はそこそこにしていた自分ですが、出される料理だけでもその豪華さに酔っぱらってしまいそうでした。
テーブルマナーも分からぬ自分にお好きなようにご堪能下さいと笑顔で返すクラウス様は、ルルエさんに施されるまま酒を飲み、ベロベロになりながら隣席に座る奥方との惚気話を披露して下さいます。
奥方――クレムくんの母親であるエルザ様は、肖像画でも拝見していましたがそれは美人な方で、クレムくんと顔がよく似ていました。あの可愛らしさは母親譲りのようです。
「主人は普段はあまり飲まないのですが、ルルエ様がいらっしゃるといつもこの調子で……グレイさん、不作法お許しくださいね」
「いえ、とても楽しいですよ。お二人は本当に仲睦まじいようで、お話だけでもお腹が膨れてしまいます」
エルザ様は凛とした空気の中に暖かな雰囲気を持つ、母親像を絵に描いたような方でした。どうやらクレムくんには甘々なようで、何かにつけては世話を焼いています。
「お母様……お兄様の前ですのであまり、その」
クレムくんはそれが恥ずかしいようで、少し疎ましげでした。思春期してますねぇ。
「ほらぁグレイくん! せっかくこれでもかと良いお酒があるんだからもっと飲みなさぁい! 暴飲暴食も勇者の嗜みよぉ!」
そんなの初耳ですしあんたはもっと静かに飲み食いしなさい。周りのメイドさんがドン引きしてるじゃないですか!
「それでですなグレイ殿……いやもうこの際グレイくんと呼ばせて頂く! そうして私と妻は身分違いでありながら、人目を盗んでは逢瀬を重ねたわけだ!そして愛を交わすこと五年と――――」
ご機嫌なクラウス様は、そろそろ耳にタコが出来そうなほどお二人の出会いのエピソードをリピート再生しています。なるほどこれは面倒くさい!
「ごめんなさいお兄様、せっかくお招きしての歓迎でしたのにこんな雰囲気になってしまって……」
クレムくんが申し訳なさそうにそう言います。
「そんなことないですよクレムくん。むしろ堅苦しくなくおおらかなこの空気のほうが自分は好きですから」
「そう言ってもらえると恐縮です……」
母子共々に同じような顔で謝ってきますが、自分は本当にこの空気が嫌ではありません。
「ほらグレイくん! グラスでちびちび飲んでんじゃないのぉ! 勇者なら瓶でいきなさい瓶で!」
「あんたはそろそろ自重しなさい! いくらお知り合いのお宅だからってはっちゃけ過ぎですよ!」
こう言った感じにその夜の晩餐は続き、クラウス様が酔いつぶれたところでお開きとなったのです。
その後は客間に戻り、自分には不釣り合いなほど大きなベッドで横になってはみましたが、あまりの柔らかさに返って落ち着かず、自分は中々眠れずにいました。
喉が渇いたのでちょっと潤そうと枕元の水差しに手を伸ばしたとき、つい不注意でそれを落としてしまいます。
「あっちゃあ……」
幸い床は絨毯が敷かれていて水差しは割れませんでしたが、水が零れてしまいました。染みにならないといいのですが……。
水差しの中身もなくなり、どうしようかと思いつつも喉の渇きがどうしても我慢できず、自分は部屋を出ました。厨房にいけば水も頂けるでしょう。
しかし自分はこのお屋敷の広さを舐めていたのです。恐らくこちらだろうと進む先に並ぶ部屋、部屋、部屋。しばらく歩いても厨房には辿り着けず、結局引き返したのですが、今度は自分の部屋が分からなくなってしまいました。
勇者、迷子になりました……。
とりあえず見覚えのある廊下を探そうと歩きまわっていると、暗闇の先に一筋の明かりが差しているのに気付きます。
誰かが部屋の戸を完全には閉め切らなかったようで、そこから灯りが洩れていたようです。特に気にも留めず通り過ぎようとすると、部屋の中から複数の女性たちの歓声のような声音が聞こえてきました。
(ほら、やっぱりお似合いです!)
(絶対に似合うと思って、ちょっとずつ作ってたんですよぉ、頑張った甲斐がありました)
(ほら、ご自分で鏡を見てみてくださいな)
(や、やめてよ……僕、こんな)
……ん? 今のはクレムくんの声ではなかったでしょうか。何やら興味を惹かれ、下種な行為とは思いながらも自分は薄らと開いた扉から部屋の中を覗いてみました。
そこには、なんというかこう、うん。すごい光景が広がっていました……。
「ほらほらお坊ちゃま! このワンピースなんかどうです? いま王都で流行ってるんですよ」
「それにこのリボンをお付けしてみては? あらぁ、もっと可愛らしくなりました!」
「ん~、でも坊ちゃまにはもっと気品ある服のほうがよくないですかぁ?」
「だ、だからぁ……もう、やめてってばぁ」
その中では、秘密の園とでも言うべき宴が繰り広げられていました。
具体的に言うと、クレムくんが女物の服で着せ替え人形にされていたのです……。
メイドさん三人に囲まれ、あーでもないこーでもないと次々に脱がされては着せかえられていくクレムくん。しかし、顔は真っ赤ですが存外嫌そうにしていないのは何故でしょう……何故でしょう?
「もう坊ちゃまが居ない間、私たち仕事に身が入らなくて……」
「用意したものを早くお召しになって頂きたかったのに、急にいなくなるんですもの」
「でも無事に戻ってきて下さってホッとしました。あのお客様、すこし頼りなさげですが本当に感謝しなくてはいけません」
「お、お兄様の悪口言わないで! じゃないともうこんなことしてあげないよ!」
「あぁ! そんな、ご無体な……しかしお坊ちゃま、随分とあの方に懐かれてらっしゃいますね」
「そうそう、坊ちゃまのお客様を見つめる瞳……なんだか、こう」
「わかるわ! あの目はそう、もう、アレよね!」
アレってどれですかね!? こちらには気付かず宴はドンドン盛り上がっていきます。どうやらこれ、今日が初めてではない様子。だって着せるほうも着るほうもめっちゃ手慣れてますもん。
「お、お兄様には何度も命を救われましたし……でも背負われた時のお兄様の背中は暖かくて……すごく、大きかったな――――」
「「「きゃーーー!!」」」
黄色く腐った匂いがしますね……。これはもう早々に撤退して早くあの慣れないベッドに横になり忘れてしまおうと思い、そこから離れようとした時でした。
「では本日のメインディッシュ、いきますわよ?」
「アレね、ついにアレを着せるのね」
「私たち三人のお給料三カ月分です、絶対に着てもらいますわ坊ちゃま!」
そう言ってメイドたちが取り出したのは、黒いゴシック調なフリフリのドレスでした。
「そんな……こ、こんなの僕、うぅ……」
「やだー! これ、良い! ちょー良い!」
「素晴らしいわ、今すぐご主人さまお抱えの画家をお呼びして肖像画を描いてほしいくらい……」
「あ、だめ。わたしちょっと、鼻血が」
なんのかんのとあっさり袖を通すクレムくん。そのドレス姿は、以前何処かの商街の窓越しに見た可愛らしい人形にそっくりで、自分も思わず魅入っていたのか、つい油断してしまったのです……。
「それいいな――――あ」
普通に、小声でもなんでもなく普通にそう言葉を発してしまったのです。振り向くメイドたち、焦る自分、思考停止しピクリとも動かないクレムくん。
三つ巴の沈黙は、メイドさんたちの強襲により打ち破られました。自分が反応する間もなく部屋の中へ引きずり込まれ、両腕を固められ、その場で何故か正座させられてしまいます、自分悪いことしてないのに! いやしてたわ普通に覗き見してたわ!
「お客様、見てしまわれましたね?」
「お客様、覚悟はよろしいですわね?」
「お客様、このドレス最高ですよね?」
三者三様にそう言われ、自分は脂汗を流しながらクレムくんに助けを求めます。しかしクレムくんは未だ再起に至らず、ポケッとその場に立ち尽くしていました。
これは、もうどうすればいいのでしょうか……。とりあえずは、メイドさんたちの視線がもう自分を殺しかねないので、ここは素直な気持ちを吐露しましょう。
「……可愛いですよ、クレムくん」
瞬間、クレムくんの頬は真っ赤に染まり、何も言わずその場にカクンと膝をついてしまいました。次第に涙目になり、それを見せたくないのか必死に手で顔を覆っています。
するとメイドさんたちが自分に顔を近づけ、代わる代わる悪魔のように囁くのです……。
(お客様、もうひと押しです。今ならイけます)
(お客様、ちょっと命令口調でいきましょう。落ちます)
(お客様、あれで案外チョロいの呼び捨てとか効果的です)
なにやら自分までメイドさんたちの人形にされている気分ですが、ここはもう言うことを聞いて乗り切るしかなさそうです。自分、オラオラでいきます!
「クレム、立ちなさい」
「ひゃ、ひゃい!」
声を掛けられ驚いたのか、呼び捨てにされ咄嗟に反応したのか。クレムくんはパッと立ちあがりました。
「さぁクレム。その場で回って可愛い姿をよく見せなさい」
「か、可愛い――――あ、あの、あの…………ハイ」
ふわりとスカートをたなびかせて、クレムくんはその場でくるりと踊ります。あ、これダメだ。普通に可愛い。
「よし、えらいね。ありがとうクレム、とってもよく似合っていますよ?」
「――――――――――――っ!?!?」
それが止めだったのでしょう。クレムくんはへにゃへにゃと崩れ落ちると、そのまま昏倒してしまいました。願わくば、今夜のことは夢だったと思ってくれますように……。
「素晴らしいです、お客様」
「これであなたも同志です、お客様」
「なんなら資金提供も受け付けてます、お客様」
「………………次は白ゴスにしましょう」
こうして自分は、勇者だというのに闇の宴の住人となってしまったのです――。
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