第3話



 世界が悲劇に包まれる間も、雪は降り続けていた。ただその降り方に不思議な特徴が現れた。


 構造物の兵器で滅ぼされた都市とその周辺だけに、特に強い吹雪が発生した。大量の雪は破壊された街に積もり、焦げた無数の遺体を隠し、次の目標ターゲットを探す無慈悲な戦士たちの視界を奪った。


 その頃の雪に鮮やかな色は付いていなかった。重くぼたぼたと落ちてくるその物体は、汚らしい灰色と黒がまだらになった土塊つちくれのようだった。


「人の想いはさ、染み出して風に舞うんだ。上へ上へと昇って、空の上に溜まっていく。それが雪を染めて、次の日の世界に落ちてくるんだって」


 友人から教えてもらった言葉が僕の胸に虚しく響く。その時は真面目に考えていなかったし、今は特に信じたくなかった。なぜって、雪があの灰色の空の上で、人類が吐き出した恐怖と絶望を吸い取っていただなんて。


 だが現実には抗えない。僕は差し出した手に積もる塊を見つめた。この斑の雪の禍々しさが、すべてを表しているのかもしれない。



 その日、僕は目に飛び込んできた緊急のニュースを見ていた。破壊された都市の一角で撮られた、粗い粒子の映像だった。


 破壊行為は数日前に行われたのだろう。街には例の黒い吹雪が吹き荒れていた。大量に落ちてくる雪が、溶けることなく黒い川のように街の道路を覆い尽くしていた。


 カメラが何かに反応したのか、さっと右に振られた。ある一点を捉え、荒々しくズームする。そこに映ったのは地面を這うように飛ぶ、四角い飛行物体たちだった。


 そいつから生えているノズル状の物が、地表をひと撫でする度に、一山の雪がまるまる兵器の腹の中へ吸いとられていった。


「初めて見るタイプです。これは構造物が行った実験のエビデンスを回収する兵器のひとつかと思われます」


 学者の解説を聞いた僕は、強烈な違和感を覚えていた。


 あそこに溜まっている雪は、人の感情そのものだ。構造物の目的が、人間が発する強い感情の収集だとしたら。一年のあいだ人々の恐怖を煽り、少しずつ人々を殺戮していく手法が、より多く雪に感情を含ませる為の効率的な計画だとしたら――恐ろしいほどに点と点が繋がっていく感覚に、僕は身震いを隠せなかった。



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