Sugar Bowlにて ♪「Ventura Highway」America
この店は、平日の学校帰りだけでなく、日曜日や夏休みなどの日中にも、時々、使った。
夕暮れ時は、アメリカの田舎風住宅の造りが、平凡な高校生が時間を過ごすのにはもったいないくらいのレトロな雰囲気を醸しだしていたけれど、日中は南側の窓から明るい陽が射し込んで、これはこれで健全なデートタイムを約束するかのような感じの爽やかな雰囲気に包まれた。
その街には、数多くの茶店があったし、他の店で時間を過ごしたこともあったけど、やっぱり、圧倒的に落ち着けるのはこの店だった。
高校3年生の夏休みのある暑い日も、彼女と二人でこの店のドアを開いた。ランチタイムの時間が過ぎて、ネクタイ姿のサラリーマンの姿も一人か二人だった。
いつもの角のソファの席には、大学生風の女が二人居た。何がそんなにおかしいのか笑いながら最後のデザートを互いに分け合って食べていた。
しょうがなく、その隣の硬い木製の椅子の4人掛けのテーブルに向かい合わせで座った。そして、この日は、メニューをじっくり見てから注文した。
「ご注文をお伺いします。」夏休みのバイト生らしい若い女が、小さくレモンを切って入れた水をテーブルに置いてから言った。
「わたしは、レスカ」
「僕は、ブルーハワイをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「君、ブルーハワイってお酒じゃないの?」
「そうだよ。今日は暑いからさ」
「だいじょうぶなの?」
「だいじょうぶだよ~この前も、あいつらと飲んだんだ」
「ううん。そうじゃなくて、帰りの自転車、二人で乗るでしょ?」
「自転車?だいじょうぶだって!車じゃないんだから捕まらないって!」
「じゃなくて、後ろに乗る私は大丈夫なの?」
「お前のことか… そうだな… もし、ふらふらしてダメならお前に漕いでもらうさ」
「勘弁してよね」
「だいじょうぶだって。この前飲んだときもちっとも酔っ払わなかったんだ」
「それって、広田玲央名がCMに出ているトロピカルドリンクでしょ?」
「そう」
「どうせ、三ツ矢サイダーかなんかで割ったんでしょ?」
「まあ、そうだけど、いいじゃん」
「お待たせしました。レモンスカッシュとブルーハワイです」
「ああ、旨い… なんだよ? そんなに覗き込むなよ」
「ほんとに?」
「ああ、旨いよ。この前飲んだサイダー割りより旨い」
「私にも飲ませて」
「いいよ。でも、キツイからちょっとだけだよ」
「うわっ。なにこれ!」
「声が大きいよ。なにこれって、ブルーハワイだよ」
「こんなキツイの飲めるの?」
「ああ、おいしいよ」
酒の味を覚えたての生意気真っ只中の僕は、彼女に悟られないように精一杯やせ我慢しながら、ストローから口に流し込まれる青い液体を胃の中に押し込んだ。この店のブルーハワイは、高校生の家飲みサイダー割りとは明らかに違う、予想を遥かに超えた度数のホンモノのトロピカルドリンクだったからだ。
前にこの店で聴いたときは、そんなに早いリズムに思えなかったこの曲が、どんどん加速していっているのを頭の隅っこでかろうじて感じていた。
♪「Ventura Highway」America
https://www.youtube.com/watch?v=ujsOx33f4mk
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