第120話 夫婦生活③
「あはは、まったく凛くんったら。裸くらいいつも見てるでしょ?」
「い、いつもは見てねえよ‼ あと、そういう雰囲気がないと……微妙にハズい……」
「かわいい男だな~」
何と言われようが、無理なものは無理だ。
というか琴葉ほど綺麗な裸なんて、見慣れるようなものじゃないと思うんだが。
ちなみに今は、湯船に俺と琴葉の二人で浸かっている。
お風呂自体そこまで大きいわけじゃないから、俺の両足の間に琴葉が挟まるようにして体を落ち着けていて、時折甘ったるい声が聞こえてくる。あと髪がサラサラしていて川のように流れていた。
「最近、凛くんは調子どう?」
「まあまあだな。いや、なんかずっと調子がいいから、それを調子を良いと言うのかわからん」
結婚をしてから、俺は作曲活動だけではなく、実際に歌ったりギターを弾いたりのバンド活動にも手を出している。
といっても、歌を歌う知り合いが多いからその後ろで弾かせてもらってるだけだが。
最初はどちらかが中途半端になってしまうのではないかという恐れもあったが、今のところはどちらも順調。むしろどっちも前より上手くいってるくらいだ。
「琴葉だって、今度またドラマで主演を演じるんだろ?」
「うん。未亡人になる話」
「縁起でもないこと言うなよ……」
俺は死なんぞ? 僕はしにましぇん。
「じゃあまた、会える時間が減るな」
「うん、そうだね」
ドラマのロケになると、地方各地を撮影場所にすることが多い。
実際、前にドラマで琴葉が忙しい時は、月に2,3日しか家にいなかったし、家に帰ってきても寝るだけだった。あまりにも忙しそうだったので、俺も琴葉の迷惑にならないようにぐっすり眠らせてあげた。
「でも、さ。今度は舞台が東京だから、家には帰ってこれるよ」
そんなことを思い出していると、ふと、琴葉が不安そうにそんなことを口にした。
「でも朝から夜まで撮影だろ? その間はご飯は俺が作るから安心して帰ってこいよ」
「いや、そうじゃなくてさ」
「?」
琴葉はこちらを不安そうに上目遣いでこちらを見ていた。
その目には水が溜まっているように見える。
「ほら、前はだいぶさ、ご無沙汰にしちゃったから……」
琴葉が少し言葉を濁しながら言う。ご無沙汰とはつまり、夜の営みのことだろう。
「まあ、しょうがないんじゃないか? 夜くらいしっかり寝ないと、倒れちゃうし」
「でも……」
「どうしてそんなに引き下がらないんだよ。別にそれくらい、俺だって猿じゃあるまいし」
むしろそんなに言われると、俺が琴葉を体目当てにしているみたいに聞こえて、なんだかそちら方が嫌だ。
いやまあたしかに、あの時は悶々としてはいたものの、眠っている琴葉を襲おうとかは微塵も考えなかった。
「違うよ! そうじゃなくてさ……」
「そうじゃなくて?」
何が言いたいかいつもはっきり言う琴葉が、言葉に詰まっている。
真っ白な肌を上気させて、もじもじとする琴葉。あの、微妙な振動をされるとこちらも大変なことになるのでして……。
じゃなくて。
「言いたいことがあるなら言ってくれ。琴葉らしくなくて、気持ち悪い」
「ひど!」
率直な気持ちを伝えてやると、琴葉も緊張がほぐれたようで「もう……」って言った後、怒ったように返してきた。
「だから、その欲求不満になって、他の女の子とかに手を出すくらいなら……私を使ってくれた方が私も嬉しいから……」
なるほど、琴葉が言い淀んでいた理由が分かった。
さしずめ、自分らしくないことを言うのが恥ずかしかったのだ。
だが、しかし。
「ちょっ、なに急に⁉」
俺は咄嗟に琴葉の体を抱きしめていた。
その柔らかい、けど華奢な体に覆いかぶさるようにして。
「琴葉……好きだ」
「な、なによ、急に」
つんけんとした態度の琴葉だが、まんざらでもないのかやんわりと俺の腕に頭を乗せた。
そんな行動がかわいくて、さらに抱きしめる力を強くしてしまう。
「急にかっこいいことするのが、凛くんだよね……」
「すまん」
諦めたように言う琴葉に、でも俺は思いのたけを伝える。
「でも、俺は琴葉といる時間が何よりも幸せなんだ。俺はもちろんお前とそういうことをしたいと思うけど、でもそれ以上にお前が隣で寝てくれてるだけで嬉しいんだよ」
「凛くん……」
一番好きな人が、俺の前だけは無防備の姿を見せてくれる。ちょっとした独占欲みたいなものが、そういったことで埋まってしまうほど俺という人間は単純なのだ。
「だから無理なんかしなくていい。休みたいときに休んでくれ。そっちの方が俺も嬉しい」
そこまで言うと、琴葉は「そっか」と言ってそれ以上は何も言わなかった。
ただ、その夜、琴葉がいつも以上に積極的だったため、俺はぐってりこってり絞られてしまった。
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