第31話 あずさ復帰おめでとう祭⁉(前半)
あずさが復帰してから2週間、彼女は仕事に引っ張りだこだった。
今までのアイドル活動はそのまま、それ以上に報道番組に出ることが多くなっていたのだ。
やはり世間としては生田あずさという女性がどのようにしてストーカーの脅迫と戦ってきたのか、あるいはどうやって芸能界への復帰を果たしたのかというところが気になるようで。
結局は断ったらしいがどうやら本を出さないかという話もあったほどらしい。
そういうわけで復帰してからここまでずっと忙しかったのだが、ようやくほとぼりが冷めてきて落ち着いてきたらしい。
そこで開催しようと提案されたのが「あずさ復帰おめでとう祭」といういかにも頭の悪そうな会だった。
その名の通り、あずさの芸能界復帰を祝して集まる会らしいんだが。
「――なんで俺の家なんだ?」
「このメンバーで集まるのにまさかレストランなんて使えるわけないじゃないですか」
「いや、逆に俺の家なら使えると思った理由を知りたいんだが」
「まあまあ」
そしてなんとこの会の主催者は、意外なことに春下さんであった。もしかしたら同じアイドルとして何か感じるところがあったのかもしれない。
メンバーは俺、春下さん、あずさ、美麗、琴葉の5人だ。人選を春下さんに任された俺は、安直に自分の知り合いに声をかけたのである。
気が利いていたらあずさの同じグループのメンバーとか呼べると良かったんだけどな……すまんあずさ。
「おっじゃましまーすっ!」
そんなことを言っていると主役であるあずさが家に入ってきた。春下さんに続いて二人目。
まあ、お前上の階から下りてくるだけだもんな……。
「せんぱーい、なんでそんな現実を目の当たりにして絶望した、みたいな表情してるんですかー?」
「おお、当たりだよあずさ……。寸分
「むー。祝う会なのにしけたツラをするんじゃありませんーっ!」
「うわっ」
殴りかかってきた。怖いやつだ。
「そういえば、白川さんと巽さんはどうされたんですか?」
準備のために皿を出していた春下さんが聞いてきた。うーむ、いい人なんだけどなぁ……やたら家電が送られてくるんだよな。
本人は「お金はあげてません」っていう無茶苦茶な理論を振りかざしてくるんだが、どう考えてもおかしい。図書カードに交換しましたみたいな感覚なんだろうか。
それはともかく。
「ああ、琴葉と美麗な。美麗はもうすぐ来るらしい。琴葉はちょっと仕事が長引くから先に始めてて、と」
「そうでしたか」
まあスーパースターの集まりだからな。こういうことはあるあるである。あるある、である。
「じゃあそろそろ出前をとってもいい頃ですね。凪城さん、お願いできます?」
「ああ、いいよ。寿司とかピザとか、そんなところでいいか?」
「ええ、あとは私が簡単にサラダを作りますから」
「へー、料理できるんですね。すごい」
素直に感心してしまう。仕事の方も忙しいはずなのに、料理までできちゃうのか。
「――あと、お金の方もあとでお渡ししますから」
「今日は割り勘で頼むナ?」
なんでもかんでも自分で払おうとしないでほしい。頼むから。
と、そんなくだらない話をしていると、玄関の方からガタガタと音が聞こえてきた。
「凛、きたよ」
「おー美麗、ちょっと待ってろー」
どうやら美麗がやって来たみたいだ。美麗にしては連絡を寄越してしっかり来るというまめなことをしてきた。いつもそうしてくれ。
スリッパを出そうと準備しに玄関へ行くと、しかしそこには美麗の他に見知った顔が居た。
「あの……お邪魔しても?」
「え、えーと、たしか野崎先生……でしたよね? 作曲家の」
俺の記憶が間違っていなければ、たしか特番で美麗やあずさたちと一緒に出ていた作曲家の方ではなかっただろうか。確か名前は
「はじめまして、ですよね。風城先生」
「え、ええ、こちらこそよろしくお願いします」
思わぬ来訪者に戸惑いを隠せない。というか初対面の人とそんなに上手く話せるならコミュ障やってないよ、っていやコミュ障やってるってなんだよ。職業か。
「……思ったよりお若いんですね」
「はは。あ、ええと、僕のことは他の人に言いふらさないように、なんて……」
「あ、それはもちろんです」
あ、はい。すみません。なんか、すみません。
というか。
「あの、なんで野崎先生まで……? あ、いや別に大歓迎ですが……」
「実は先ほどまで巽さんと打ち合わせをしていて。帰ろうとしたら巽さんに誘われまして恥ずかしながら付いてきてしまいました。……風城先生ともお話がしたかったですし」
てへへ、と笑っている野崎さん。めっちゃ若い人で素敵な笑顔だった。
大人っぽさを出すその余裕と共に、無垢な感じ。あれだ、ドストライクだな。
ていうか今、俺と話したかったって言った⁉ 作曲の話がしたいって意味だろうけど、分かっていても嬉しい。
「……凛、何やってるの」
「はっ⁉ べ、別に? ささどうぞ汚い家ですみませんが!」
「うふふ、ありがとうございます」
美麗が呼びかけてくれたことでモノローグから戻ってきた。
それにしてもなんだろう、俺の周りにはありがたいことに美少女しかいないんだが。そしてリビングから殺気を放ってくる奴が一人いる気がするんだが。
そういうわけで思わぬ形で参加者が増えたが、会は無事に進行していく、気がする。
――嘘でした。
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