第25話 異常なあずさ
なんとかボコボコにされながらも(誰にやられたかは本人のプライバシーのために控える)日本にたどり着いた次の日。
電化製品を買いに秋葉原まで出てきていた。出てきたといっても少し電車を乗り継いできただけだけど。
電化製品というが、具体的にはパソコンだ。
俺は普段曲を書いているときにパソコンを使っており、そういう意味でパソコンは必需品と言える。
そして今まではノートパソコンを
デスクトップ型にすれば、スペックも申し分なくなるだろうし、ノーパソの方は学校のレポートを書く専用にすることが出来る。
というわけで、今日は新しくパソコンを買い替えるのがどれくらいのコストになるのか、予算を調べにやってきたというわけだ。
「話によると自作パソコンの方がコスパはいいらしいけど、どうなんだろう」
一通りパソコンを作るのに必要な部品をメモしてきた。部品の値段を足し算して
「やっぱ、そういうマニアックなやつは秋葉原だよなー」
それで
それは置いておいてまずは完成品のパソコンが売っている店にやって来た。
電気街通りを少し歩いたところ、目に入った店に入ってみた。
「うぇーっ、やっぱたけーな」
もちろん店の人に聞こえないように小さな声で呟いたが、想像以上の値段の高さに声が大きくなってしまったかもしれない。
そもそも学生の身分で手が届く値段じゃない。そりゃあ大学生でも、実家暮らしでバイト代を全て費やせば行けるかもしれないが、それまでに半年はかかりそうだ。
やっぱり作る苦労をしてでも、自分でパソコンを組み立てるしかない。ある程度ここで凛少年の心は決まる。
とりあえず無理なことは分かったので、早々に出て次の店に向かった。
「次は、あっちか」
次はたくさんのパソコン部品が集まっているという店。
それを地図で場所を確認していたのだが。
道中で、俺の知っている顔がそこにいた。
「――あずさじゃないか」
「⁉ 凛せんぱいっ!」
変装していて顔が完全に隠れているが、彼女を知っている人が見たらすぐに分かるようなものだった。
やっぱりオーラは消せない、というやつだ。
彼女は前の交差点で誰かを探しているように辺りを見回していた。何か待ち合わせでもしているのだろう。
なので、すぐに挨拶して別れるつもりだったが。
「せせせんぱい……っ、ちょっときてください!」
「おっ、ちょっ、なんだ⁉」
彼女は俺に
あずさにいきなり強く腕を引っ張られた俺は一瞬困惑する。なんだなんだ。
だが、すぐに冷静になる。というか、冷静にさせられる。こんなあずさの姿は見たことがない。
(あずさがこんな強引なこと……普通じゃないな)
何かから逃げるように走るあずさ。よく見たら、かいている汗が尋常ではないではないか。
そこで俺は後ろを振り返るが、特に追ってくるものの存在を確認できなかった。
「あずさ、いったん止まろう」
差し迫った脅威はない。一度落ち着いて状況を確認するのが先だ。
でも彼女は止まらない。一心不乱に走る。気持ち、最初よりも握られた手が強くなっている。
「あずさっ‼」
俺の声が耳に届いていなかったらしい。二回目に呼びかけたときは、しっかり止まった。
「はぁ、はぁ」
「おい……っ⁉ 大丈夫かあずさ‼」
うなだれるあずさの体を何とか起こしてマスクとサングラスを外すと、そこには真っ青な顔が現れた。
「おい、おい⁉ どうした、あずさ⁉ 何があった⁉」
「えへ……えへへ……凛せんぱいだ……っ」
意識が
貧血でたぶん血がちゃんと
とりあえず、早く救急車だ。
一刻も早く呼ばなければ。
だけど、焦って、指が震えてこういう時に限って番号を何度も押し間違える。やばい、いそげ、いそげよ!
やっとのことで救急車を呼べた俺は、日陰にタオルを敷いてそこに頭が乗るように彼女を横にする。
なかなか到着しない救急車に無責任な苛立ちを覚えながら、辛抱強く待つ。
幸い路地でさわぎにはなっていないが、救急車が来たらそうもいかないだろう。
「いったい、なんだってんだよ……。いつも元気なあずさが」
数分後、救急車が来てあずさは運ばれていった。
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