第21話 10の質問

「というわけで、次のコーナーです」


 なぜかふつおたのコーナーで既に使い果たした感じがいなめない。


 何故だろう、初めてのラジオということで緊張しているのか。


 いや……それよりも明確な原因があるが、まあ伏せておこう。本人のプライバシーもあるから。


「次のコーナーは、せっかく風城かぜしろ先生が来てくださったということで、『巽さんからの10の質問』です!」

安直あんちょくなネーミングですね」


 がははっ。これは笑いどころだ。ついでにスタッフ陣を睨みつけながら笑ってやろう。


「巽さんと風城先生は面識があるということですが、今回はまだまだ風城先生のことを知らないリスナーさんに向けて、質問に答えていただきます。ちなみに質問は、スタッフの方から5つ、わたくし鈴木が1つ、そして巽さんに4つ、作ってもらいました」


 その説明にもう地雷が隠されている。美麗が質問を作った、とか嫌な予感しかしないな。


 つーかお前、俺のこと大体知ってるだろ。


「はいではまずスタッフから~」

「どんと来てください」


 では、と一呼吸おいて。


「一つ目。今何歳ですか?」

「秘密です」


「二つ目。風城冷という名前の由来は?」

「適当に思い付いたやつです」


「三つ目。作詞と作曲どちらがお好きですか? またどちらの方が得意ですか?」

「好きなのは作曲ですね。それでも作詞の方が少しだけ得意な気がします」


「四つ目。曲を作るうえで気を付けていることはありますか?」

「楽しむことですね。無理に作ろうとかは一切やらないです」


「五つ目。顔出しはいつかオーケーしてくれますか?」

「それ質問じゃなくて仕事の依頼ですよね、断ります」


 五つすらすらと質疑応答を繰り返したところで、鈴木と美麗が内容について詳しく聞いてくる。


「ペンネームが適当というのは」

「そのままですね。なんとなく本名に近い感じで。美麗さんなら分かると思いますけど、字面が似てるんですよね」

「あ、ほんとだ」

「今まで気づかなかったんかい!」


 凪城凛。風城冷。うん、なんか近い。部首ぶしゅが一緒だ。たぶん。


「作曲の方がお好きなのに、作詞の方が得意ということでしたが」

「まあどちらもプロから見たらまだまだなんですけどね。それでも作曲は自分の気持ちいいフレーズを作っているだけなのに対して、作詞はピンとくるまで練ってます」

「曲を作るうえで気を付けていることで、楽しむというのは?」

「もとからプロになってやろうという気はないので。片手間で、という感じですかね」


 そう言うと、鈴木はびっくりしたように質問を返してくる。


「え、じゃあ本職は作曲家ではないのですか?」

「僕はしがない一般市民です」

「え~意外です~」

「作曲家に転向したりとかは」

「考えてないですね」


 さすがに大学生などというと年齢もバレるし、大学生の書いたお遊び曲なんてなったら提供したアーティストさんに風評被害が及ぶ。適当にぼかすのがよいだろう。


 それに作曲家になろうという予定もないので、あまり的外れなこともいっていない。


「あ、仕事のオファーはまた正式に依頼しますとプロデューサーが申していました」

「断りますとお伝えください」


 外でプロデューサーやディレクターが頭を抱えていたが、そんなん知らん。


「じゃあ次に私からの質問です。どうですか、ラジオ、楽しいですか?」


 ラジオのアシスタントらしい、真面目な質問だった。


「そうですね」


 ふーむ、楽しいかと言われれば。


「楽しいですね。もちろん緊張しますけど、それ以上に楽しいと思います。たくさんの人からメールが来ると、色々な人の日常が分かりますし、お二人のトークも面白いですし」

「あ、ありがとうございます! そう言っていただけるとこちらも嬉しいです!」

「よかった。急にたのんだから迷惑かとおもってた」


 美麗が少し安堵したように手を胸に当てている。ほっ、という音が聞こえてきそうだ。


 美麗も一応心配してくれていたんだな。こういう場所に不慣れの俺を。


「いえいえ。もちろん迷惑でしたけど、それ以上にいい経験をさせてもらってます」


 少し毒を吐いてみると、意図した通り外野が気持ちよく笑ってくれる。今も。


 話してて楽しい場所だし、もうそろそろ終わりかと思うと寂しいところもある。


「じゃあまた来週もゲストにきてね」

「いや、それは断る」


 危ない危ない、あと少しでいい雰囲気に流されてまた来週も仕事をすることになるところだった。いや、インターンの仕事はしますけども。


 じゃあオチも付いたところで最後に……最後に。


「じゃあさいご、わたしからしつもんします」

「うっ、うう……。ど、どうぞ」


 これである。


 駄々をこねてもしょうがないので、覚悟を決めて彼女からの質問を待つ。


「じゃあひとつめ。かのじょはいますか?」

「いません」


「かのじょはいますか?」

「いません」


「ほんとうに?」

「なんで僕は美麗さんに疑われているんですか⁉」


 なぜか念を押すように尋ねられる。いやいや、その疑惑はどこから上がったものだよ。


 潔白だと伝えると、少しにこっとして、それから次の質問に移る。


「いままでにかのじょが居たことはありますか?」

「またプライベートな質問だなぁ。いや、いたことないな。いわゆる彼女いない歴イコールなんちゃらってやつだ」

「彼女いない歴イコール……樹齢?」

「年齢だ! 俺は木じゃねえ!」


 木になりたいと思ったことはあるが。


 そして、メモメモ、と台本の余白部分に律儀りちぎにメモを取る美麗。なんかちまちまとやっていて、小動物みたいだ。


「じゃあつぎ。どんなじょせいがタイプですか?」

「なんでさっきからそういうのばっかなんだよ! ……普通に優しい人かな。でもそれでいて、対等でいてくれる人」

「たとえば?」

「例えば、かあ。一緒に寄り添ってくれて、支えあう関係。なにかを教え合って、笑い合える関係が築ける人がいいな」


 メモメモ、である。なんかちょっと口角上がってるけど。


「教え合う、関係。ふふふ」


 なんか不気味な声まで聞こえてきた。怖い怖い、早く最後の質問を。


「じゃあさいご。いちばん好きなアーティストは?」

「たぶん『巽美麗』という回答以外は不正解な気がしますね! まあとても好きなアーティストです、美麗さんは。これからも応援しているので、頑張ってください」


 良い感じに番組の終わりに近づいていったのではないだろうか。きれいにまとめられたし、笑いも取れた。


「ありがとうございます。精いっぱい頑張るので……はやくつぎの曲をくださいね」

「それは少々お待ちを~! 無理して作らないと心掛けているので!」


 最後に一番痛いところを突かれた。わ、笑えねぇ。


 インターンもいいけど、そろそろ曲も作りたい頃だ。


 どちらも頑張りたいものだなあ、と漠然ばくぜんと思ったところで今回の放送は終わった。。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る