第18話 肉欲
「ところではーさん」
「ちょっと待って、はーさんってなに?」
「琴葉せんぱいだから、はーさんですっ!」
「まあ長いよりはいいか……。で、なに?」
「――このダメダメなせんぱい、どうします?」
どうも、ダメダメな先輩です。
後輩のあずさに引かれたくないからエロ本を隠して嘘をついていたら、あっさり琴葉にバラされたダメダメな先輩です。
正直に言って何されるかわからなくてコワイ。前みたいに琴葉にボコボコにされるのではないかと震えております。
だが意外なことに、琴葉はあまり怒っていない様子で。
「エッチな本を見ちゃうのは男の子としてしょうがないんじゃない~?」
と言ってくれた。さすがっす、はーさん!
「ただ、あずさちゃんも気を付けた方がいいわよ~? だって凛くん、人畜無害そうな顔して、実は、け・だ・も・の、なんだから~」
「おい人を
自慢じゃないがこの顔で怯えられたことは相当数ある。……本当に自慢じゃない。
だが、二人は俺の悲痛な叫びも無視して、頼んでいた出前の寿司と少々のおつまみにありついていた。
「やっぱりお寿司には白ワインね~。合うわぁ~」
「……未成年もいるから気を付けろよ」
「は~い。凛くんも飲む?」
「遠慮させてもらおう。あまりお酒に強くない」
「あ~あれだ~。酔っぱらって目の前の美女に手を出さないか不安なんだ~?」
「だから俺は肉欲にまみれた男ではない!」
女性のいる前でお酒をあまり飲まないようにしているのは確かだが……。別にそれだけが理由じゃない。
特に琴葉やあずさなんかの前で弱音を吐いてしまう自分が怖いのだ。
同情されればたしかに一時の
それに彼女たちとはこういうフラットな会話ができるのが一番いいのだ。
お互いに干渉はすれども浸食はしない。理解はしても支配はしない。
こうして一緒にご飯を食べて、わいわいしているくらいが丁度いいと思うのだ。
「――凛せんぱいはまじめですねっ」
「それが凛くんのいいところ、なんだけどもね」
「ん? 何の話だ?」
「いや、なんでもないですっ!」
彼女たちは俺を分かってくれている。少なくとも見知らぬだれかよりは。
それだけで十分幸せで、俺にはありあまるほどの幸福なのだ。
だから、この関係が一生続けばいいと思う。
――とそんな
「凛くん、付き合って~。それで、私のためだけに曲を書いてよ~。ね? おねがい」
「だめですぅ~凛せんぱいはわたしのものなんですから~。せんぱいっ、付き合うなんていわずけっこんしましょ~っ」
酔っ払いふたり、爆誕☆ いや、☆、じゃねえよ。まじの緊急事態だよ。
右腕に琴葉、左腕にあずさ。まさに両手に花、なんつって。
ばかぁぁっぁぁ‼
「琴葉が酔うのは分かるが、なんでお前まで
「ふぁぁぁん、においですかねぇぇ~」
「におい⁉」
匂いで酔うなんて聞いたことないぞ⁉ どんだけ弱いんだ⁉
「つーか琴葉! てめえは社会人だろうが! 人んち来て酔いつぶれてるんじゃねえよ! セーブくらいしろや!」
「うぅぅん、凛くんのいえならいっかな、って」
「いっかな、じゃねぇぇぇッ!」
とりあえずこの状況をなんとかせねば。さすがに柔らかい部分とかが当たってやばい。
――ってか、こんなにやわらかいんだね、女子のおpp
「ブフゥ‼」
殴った。自分の意識を刈り取るほどの威力で殴った。腕に意識も血液もいかないくらいありったけの力で自分の頬を殴った
「だめだ、早くなんとかせねば……」
急いでベッドの方へ向かう。途中引きずる形になってしまったが、いかなスーパーアイドルといえどもこれくらいは許してくれるだろう。
ベッドに二人を放り捨てて、冷房の温度を下げる。できるだけ冷やして酔いが回るのを押さえたい。
――だが、投棄したはずの二人はすぐにベッドから落ちて俺の足元までやってくる。
「凛くん~?」「凛せんぱい?」
もはや不機嫌そうな二人。
やめて、不機嫌の元凶はオレじゃナイヨ? ヤメテ?
だが願い届かず、俺の足にがっちりホールドしてくる二人。
「おいやめろ、動きづらいんだ――って!」
無理やり二人を剥がそうと歩きだした次の瞬間、二人にズボンを引っ張られていたせいでズボンが脱げてしまった。
「あれ、え、え⁉ きゃあーっ‼‼」
部屋に叫ぶのは俺の悲鳴。それでも止まらない二人はズボンが脱げるとみるや、また俺の足にへばりついてくる。
「今度はパンツかにゃ~」
「つぎはぱんつ、でしゅね~」
肉欲にまみれていたのはこいつらだったかッ‼ 畜生ッ!
その日は結局風呂場で夜を過ごした。寒かった。
二度と琴葉にはお酒を飲ませないし、あずさの前で飲ませない。
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