第15話 特別番組(特番)中編

「ハイ、続いて7位から4位の方を見ていきました~。どれも有名な曲ばかりですね。これは視聴者さんも相当そうとうランキングに困っただろうな~」

「私だったらこの曲の中で順位付けるの嫌ですね~」


 マルが独り言のように感想をつぶやき、佐藤がそれに乗っかる形。どうやらこの番組はこのスタイルを採用するらしい。


たつみさんは、風城かざしろ先生の曲の中で一番好きなものとかあります?」


 アナウンサーの佐藤が美麗に振ると、彼女は淡々と答える。


「初めて彼に作ってもらった曲」

「というと……『アンドロイド』ですか?」

「違う、あれはネットに投稿されてたやつ。その次」

「じゃあ『ドラマチック・ラスベガス』かな?」


 マルの質問に、それ、と答える美麗。


「初めてあの人がわたしのためだけに作ってくれた曲。わたしのことだけを考えて作ってくれた曲だから」


 一同沈黙。恋する乙女の純情じゅんじょうなセリフかと思って対応に困る周りだったが、臆面おくめんもなく堂々と言い切る彼女の姿にようやく現実に引き戻されて。


 慌てて琴葉が確認に入る。


「か、彼が巽さんのために書いたから、曲調や音域がマッチしてたってことね? そ、そうだよね?」

「うん」

「「「はぁ……」」」


 急な美麗の発言に張り詰めていたあずさ、琴葉、鈴音の3人が、胸をなでおろす。


 次いで、マルや佐藤、ゲストの作曲家であるはるかも安堵する。


「危うく放送事故かと思いましたよ……。もう少し分かりやすく言ってくださいね」

「?」


 マルの指摘に疑問符を上げる美麗。どうやら自分の言葉が誤解を生むようなものだと気付いていないようだった。


 それ以上この話題を続けるのもマズいと思った佐藤が、遥に話題を転換する。


「と、ところで、風城先生の作曲の特徴って何かあるんですか、野崎先生?」


 台本通りの流れに戻ったことで、遥も落ち着いて話すことが出来た。


「……そうですね。先生の曲にはこう、得体の知れない何かがあるんですよね。これは自分が作曲者だからなのかもしれないですが、不気味さまで感じてしまいます」

「不気味さ?」

「ええ。別に突拍子もないコード進行になるわけでもないですし、珍しい技術を使っているわけでもないんですよ。どれもきちんと教科書に載っているものばかりですし、目覚ましいものなんてないはずなんです。でも……」

「でも?」

「それなのに、今までになかったような曲なんですよね。斬新ざんしんで、特殊で、それでいて素敵。だから、これはもう笑い話なんですけど、作曲家の中では風城冷を目の敵にする流れがあるんですよね」


 私もその一員です、と笑う遥。


「わっかりますねぇ~それ。ワタシなんて、あの人が出てきてから『この作詞じゃ満足できない』なんて言われたりしましたからね。こっちとしては、商売上がったりですよ」

「あ~そういうの辛いですよね~」


 音楽家の二人で話が盛り上がる。と、そこへあずさが入り込む。


「そういうのやっぱりあるんですか~? うちも、プロヂューサーさんが『どうにか風城先生から曲をもらってきてくれ』って口癖くちぐせのように言ってますよ。それにせんぱいの曲って歌う側としても、歌いたくなっちゃうんですよねっ」

「ああ、あずさちゃん、それすごい分かる。先生の曲って、歌ってるうちに気持ちよくなっちゃうのよね~。カラオケで自分の曲歌うのってあんまり好きじゃないんだけど、つい歌っちゃう」


 あずさの発言にまるで差し込みのように琴葉が反応する。


「そんなに多くの仕事があるからでしょうかね、先生が仕事をお引き受けにならないのって」

「えっ、そうなんですか⁉」


 まとめにかかった鈴音の言葉にアナウンサーの佐藤が反応する。


「ええ、先生って仕事を一切承諾していないらしいですよ。やっぱりご多忙たぼうだからでしょうかね」


 と、こんなことを言っているが、それが違うことを鈴音は知っていた。仕事を引き受けない理由は初めて会ったときに彼から聞いていた。


 それでも、どこか風城冷について自慢したくて、推測の形を使って話をった。


「だから余計に困るんですよね~。風城先生が仕事を受けてくれないから仕方なく、みたいな形でワタシの方にオファーが来ることもしばしば」

「ということで、そろそろ次のランキングに行きましょうか!」


 終わらない話をぶった切って佐藤が番組進行を進める。切られたマルは観客に爆笑されていて、唖然としていた。

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