第14話 特別番組(特番) 前編

「本番5秒まえーっ! 3、2、1、」


 ディレクターの合図とともに、陽気な音楽が流れ出す。


 そして一人の男が大きな声で発声する。


「『作曲家、風城冷かざしろれいについて語り合おうの会』、スタートしました〜!」


 まずは男女2人の司会進行がカメラによって画面に抜かれる。


「本日司会を担当します、主に作詞をメインで仕事をさせていただいています、マルハツオです、よろしくお願いしま〜す!」

「はい。テレビアナウンサーの佐藤佳純かすみです、本日はよろしくお願い致します!」


 アロハシャツで1人だけ場違いな男のテンションに引きずられて、女性アナウンサーの佐藤もにこやかに挨拶する。


「いや〜佐藤さん」

「なんですか?」

「ワタシ、この日が楽しみすぎて寝られませんでしたよ!」

「あら、そうなんですか?」

「だって、風城冷ですよ? 今回は風城先生と呼ばせていただきますが、あの人のことなんて業界じゃ知らない人いないんじゃないんですかね〜?」

「へえ、そうなんですね。たしかに私みたいな一般人でも、風城先生の名前は知っていますからね」


 あ、もちろんマルハツオ先生もですよ、とアナウンサーは付け足す。


「ハッハッハ、ワタシなんて風城先生に比べたら、業界にすがりつくはしくれものですよ」

「いえいえ、そんなこと」


 とここで、ディレクターから『次に進めてください。ゲスト紹介』というカンペが出される。


「さてここで、素敵なゲストの方々を紹介したいと思いますが」


 その指示に従ってアナウンサーから話の転換がなされる。


「わっかりました〜。なんせ、超豪華ゲストの皆さんですからね。プロデューサーの山田さんが『日程とギャラが、本当にしんどかった』なんていってましたよ」

「はいはい、そういう裏話うらばなしはここで言わないでください。ーーそれでは紹介して行きしょう!」


 とここでカメラが1番から2番に切り替わり、司会側とは逆側にスポットが当たる。


「まずはこの方。大人気女優として活躍されており、その傍らで歌手デビューを果たした、白川琴葉ことはさんです!」

「は〜い、白川琴葉です。本日はよろしくお願いします〜!」


 そして続いて、あずさ、美麗みれいが紹介される。あずさはテレビの撮れ高を意識した立ち回り、美麗はいつも通り無愛想ぶあいそうな顔で平坦な挨拶をしていた。


「はい、ありがとうございます。そして次は……もう今や時の人ですね! どうぞ!」

「いえいえ、そんな……。春下鈴音です、よろしくお願いします」

「ウォーッ! 本当に鈴音ちゃんだー! まさか復活するとは思ってなかったですよ!」


 興奮するマルハツオに苦笑いする鈴音。本当に困っている、という反応だが悪い気はしていないようだ。


「ちょっとマル先生。もう1人」

「ああ、ごめんごめん佐藤さん! あとゲストの方もすみません。もう1人実は来てくださっているんですよ。数々の曲をお作りになられている、風城先生と同じくらい人気の作曲家さんです! はい、どうぞ!」


 マルハツオの紹介で、もう1人の女性ゲストが画面に映される。


「作曲家の野崎遥のざきはるかです。華やかなゲスト陣の中にいるのが少々心苦しいですが……よろしくお願いします」


 遥が丁寧にお辞儀すると、またマルハツオからフォローが入る。このままのペースでは番組はしゃくがオーバーしてしまうので、こういうところはカットされるのだろう。


「はい。それではゲストの皆さん、今日はよろしくお願いしまーす!」


 マルの声で、集まっている100人ほどの観客から拍手が送られて、番組開始である。



「はい、10位から8位を見ていきましたけども」

「すごいですね〜。どれも有名な曲ばかりで、もう既にオールスターって感じ」


 マルの発言に琴葉が反応を見せる。


「そんな白川さんの曲もランクインしてましたけど、どうですか? 何か風城先生について印象だとかありますか?」

「そうですね〜、とても真摯 しんしに取り組むイメージがあります。本当に売れることよりもいい曲を作りたいんだっていう気持ちが強い方じゃないですかね」


 ホウホウ、とマルが神妙しんみょううなずく。そこにすかさずあずさが参戦。


「わかりますっ! せんぱいってお金とか全然気にしてないですもんね! ギャラだっていつも貰わないし」

「えっ、そうなんですか⁉️」


 そこに大きな反応を見せたのは作詞家のマルと作曲家の遥。


「それってホントなんですか?」

「間違いないですよ〜。実際に本人から直接『お金は受け取らない』って言われちゃいましたし」

「そうそうっ、私もそれ言われました!」


 マルの確認に琴葉とあずさが肯定する。


「えっともしかして……たつみさんや春下さんもですか?」

「うん。彼はお金もらわないから」

「私もさすがに渡すって言ったんですけど、断られちゃいましたね」


 そこは同じことを経験したのか、4人はその時のことを思い出しながら語る。


「え、あんなに売れた作品の数々を手掛けているのにお金をもらわないって、すごいですね?」

「ワタシも、そんな人聞いたことないですよ〜。もうそこから凄い人ですね」


 遥とマルが2人して驚愕きょうがくの声を上げて、観客席の方からも「え〜!」という声が聞こえる。


 その反応を見て、鈴音は喜びを感じていた。


「お金をもらわない」という彼の美談を絶対に今日話すと決めてきていたのだ。


 これはお金をもらってくれない彼に対する腹いせかもしれないし、はたまた素晴らしい楽曲を提供してくれた彼に対する恩返しかもしれない。


(琴葉さんに先取りされたことはなんだか悔しいけど……、まあいっか)


 鈴音としては言おうと思っていたことが言えたので、既に達成感に満ちていた。


 だから、まさかーー琴葉が同じことを考えていたなんて、想像することは出来なかった。


 彼女たちの気付かないところで、彼女たちの戦いが始まった。


 波乱の幕開けである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る