第13話 仕事の依頼
あれから一週間後、世間には衝撃的なニュースが流れていた。
『春下鈴音、二年間の
それほどまでにかつてのスーパースター、国民的アイドルの復活は待ち望まれていたものだった。
それから勢いはとどまるところを知らず、まだ復活から1日しか経っていないのに早くも復帰記念の番組が放送された。
テレビに出ている春下鈴音は俺が会った春下鈴音に間違いなくて、不思議な感覚に包まれていた。
そんな俺にも彼女の再ブレイクの影響が。
ユーチューブの動画再生数はどの動画も倍くらいに増えたし、ツイッターのフォロワーも桁が一つ増えてとうとう100万を突破。
あまり作詞作曲者という認知されにくい役職にも、彼女の歌によってスポットライトが当てられることになったのだった。
「やっぱあの人、凄いな。評判を見てみても悪口がほとんど書かれてない。あれだけ人気が出てるならアンチも当然いるだろうに……」
俺の
春下さんの曲の反響を調べていた俺は、自分に対する
一旦エゴサをやめて(いや、調べていたのは春下さんのことについてだが)、溜まっていたメールの返信をする。
一応頂いている仕事の依頼については一件一件しっかりと断りのメールを入れている。
「仕事はしないって散々言ってるような気がするんだけどなあ」
そうやって愚痴を吐きながらオファーを処理していると、一つ珍しい依頼があることに気が付いた。
『テレビ○○でプロデューサーをしている山田と言います。突然すみません。ぜひ作曲家「
続いて企画している番組の内容についての説明があった。
俺の作った曲について一般の人にアンケートを取ってランキング形式にして発表。その合間に、風城冷がどのように作曲しているのか、作詞の時に気を付けていることはなにかについて俺が話したり、出演者が印象に残っている曲を語るといったものだった。
『こういう番組をやりたいのですが、許可と出演依頼をお願いしたいです』
「うーん」
話を聞いている感じこれは……。
「なし、だな」
顔出しするのは大学生活に支障をきたす可能性があるのでまずいし、何より俺自身のイメージが曲に響くのは嫌だ。
というかそもそも、作曲家と呼ばれているがそんなたいそうなものではない。どこまでいっても趣味の問題なのだ。
「つーか、だいたい作曲家とか作詞家だけ切り取って面白くなるのなんて、畑亜貴さんとか田淵智也とか、そういうトップレベルの人くらいだろ」
どちらもアニソンを中心に多くのヒット曲を生み出した天才である。
自分はそこまでの人間ではないし、肩を並べるのも恐ろしいくらい大したことをしていない。
そういう色々な事情を込みで、断りの連絡を入れた。
「すみませんが、顔出しも難しいですし仕事も引き受けてないので、許可は出せません。申し訳ないです」
連絡を一つ入れると、意外なことにすぐ返信が来た。
『えー! せんぱい、なんで断るんですかぁー!』
つい最近交換したあずさからのラインだった。
っておい!
「おい、何の話だ?」
『とぼけないでくださいよー! さっき山田Pから言ったテレビのやつですよー!』
いや、お前はもうちょい隠せや! なんでプロデューサーとバリバリ親しくなって、そんな仕事の内容まで報告する関係になってんだ!
「山田さんから断った連絡も聞いてるだろ」
『あんなの認められませんよ! 私だって出る予定なんですから、出演は無理でも番組は許可してくださいね!』
それでは仕事に行くので、と最後に告げて返信が来なくなった。
いやいや、自分勝手か! なんだこいつ、ただ自分の都合だけを押し付けてきやがった!
一人でキレていると、山田さんから謝罪の連絡が来た。
『すみません。ちょうど一緒にいたものですから……。ただ、番組の方はこちらからももう一度お願いします。出演は難しくてもレターメッセージでも良いですから』
どうにか番組の放映にこぎつけようとする山田さん。
こうやってある程度
というか、許すまであずさが苦情を入れてきそうなことを考えると、妥協点はここなのかもしれない。……非常にネガティブな決め方で嫌だけど……。
「では、番組はやってもらって構わないです。ただ自分は顔出しなしで、あとギャラとかもなしでお願いします」
ふぅ、と一息つく。
まあこれで宣伝になってあずさの曲が売れるなら、それはそれでいいのか、と思う。
そもそも特段俺が何かをやるわけでもないので、止める権利もないのだろう。テレビに出ない時点で仕事じゃないし。
――そういう軽い気持ちで許可を決めてしまったが。
後日、番組の放映日時が決まると同時に出演者が発表され、その中に「春下鈴音」、「
もう今から不安でしょうがない。
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