第11話 琴葉、怒る。
「ただいまー」
春下さんと分かれてようやく俺の休日が休みになる。と言ってももう夕方だけど!
そういうわけで突発的に起きたイベントは解消されたのであとは自由な時間である。
「課題ももう終わらせたし、曲でも作るか~。そろそろ琴葉の曲も作りたいんだよな~」
「呼んだ~?」
「ん、ちょうどよかったいたのか……っていたのか⁉」
「いるよ~。凛くんお帰り~」
「なんでいるんだよ!」
よく見たら玄関にかなりお値段が張りそうなヒールが置いてあった。気づけよ俺……。気づいたところで残念なことしてもどうしようもないけどさ……。
「まったく、勝手に家に入るなと何度言えば……」
「凛くんから鍵もらってるし、入ってもいいのかな~みたいな?」
「鍵を返してもらおう」
「いやーん、凛くんえっち~」
どうにも扱いづらい人間である。美麗のような子供っぽい感じではなく、逆にとてもこざかしく、すぐにはぐらかされてしまう。
「ねえねえ凛くん」
そんな適当人間の琴葉がこちらを見て笑っている。
「ん、どした?」
あまりにもわざとらしい笑顔だったので返事をして様子を伺ってみると、なんだか額に青筋が入っているように見えた。
「あ、あれ? ど、どうした?」
「いやーなんかさー」
そこでわざとらしく、くんくんと匂いを嗅ぐ琴葉。ソファの匂い、部屋の匂い、それらを確かめ終えた琴葉はもう一度顔に笑顔を貼り付ける。
そして、冷たく一言。
「なんかねー、『女』の匂いがする」
「女の匂い?」
はて、女の匂いとは?
「それはお前の匂いじゃないのか? 女なんて今この場にお前しかいないだろ」
「いやいや凛くん。今はいないけど……今日この家に私以外の女、いたよね?」
はてはて、いたかな? 家に来る女性なんて琴葉以外だったら美麗くらいしかいないけど、今日は来てないしな~……って。
いたわ。
「イエ、マサカソンナコトアルワケ」
「言え、吐け。居ただろ、吐け」
ヒェーーーっっっ! なんかブラックな琴葉さんが出てるーーーゥ!
「いま……、した……」
恐怖に逆らえずあっさりゲロってしまう俺。
そんなみじめな俺の告白を聞いた琴葉様は、満足した顔でにっこりと笑う。
「よし、凛くん。お仕置きだ☆」
なぜだぁぁぁぁぁぁぁっっっっぁぁぁぁぁ‼‼‼
「ほへへ、ははひははへほむはへひはっはほへほふは(それで、私はなぜこんな目に遭ったのでしょうか)」
「あらーごめ~ん。つい
「ほへへふふはへはは、へひはふはひははひへほふは‼(それで許されたら、警察はいらないでしょうが‼)」
「元はと言えば、この部屋に女を連れ込んだ凛くんが悪いのよ~?」
連れ込んだと言えばかなり語弊があるし、そもそも琴葉にお金を出してもらっているとはいえここは俺の家だぞ! 連れ込んでもいいだろうが!
「それはダメだからね~。凛くんは一生女を作っちゃダメだからね?」
「なんでだよ! 縛りプレイか! というか俺の独白を勝手に読むな!」
「凛くんは一生独身なんだよ~分かった?」
「分かるかァ!」
どうして二十歳にして独身が決まらないといけないというのか。
あと、鼻がよすぎる。なんで6時間も前に居た女性の匂いが分かるのだろうか。琴葉がそこら中に消臭剤を
「それで、その女とは何してたわけ? 見たところ、事後、というわけでもないようだけど」
「そんなんしてるわけねーだろうが! ただ曲に歌を付けたCDができたから聴いてほしいといわれただけだ!」
証拠だと言わんばかりにCDを見せつける。琴葉はそのCDを取り上げると、
「聴いても?」
「まあいいんじゃないか。来週にはどうせ発売されるからな」
もちろん誰が歌い手だとかは内緒だけどな、と付け足しておく。琴葉も業界の人間なのでそのあたりに関して特に文句は言わない。
パソコンに差さりっぱなしだったイヤホンで琴葉が曲を聴く。
それから20秒ほどしたところで彼女の顔が――驚きの顔に変わりこちらを慌てて向く。どうやら誰が歌っているのかすぐに分かってしまったらしい。
それでも俺は肯定することも否定することもなくただ続きを聴くように促す。
その後、彼女はただ神妙な面持ちでずっと聴き続けて、イヤホンを外した時にはため息を漏らしていた。
「凛くん……」
「おっと、内緒だぞ?」
「言わないわよ。というか、私にだってまだ驚きで実感が湧かないもの……」
どこか泣きそうな顔でさえある彼女。もしかしたら琴葉も春下さんの復活を待っていたクチかもしれない。
「ちょっと、お手洗いに行かせて」
琴葉も感傷的な気分になるんだな。ちょっと意外な一面だ。
じゃーという
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