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「佐々木先生について、教えて」


 大塚さんと別れてから、ぼくはシスタークロエがいる教頭室に来た。

 シスタークロエが顔を上げる。手元には、『韓流スター特集号』の雑誌。なるほど、だらしない顔の原因は、それか。


 修道女って神様だけが恋人のはずでしょ? ぼくがそう指摘しても、神様はお心が広いからきっと許し手くれるわ、なんて言ってイケメンあさりに精を出すシスタークロエは、修道女としてはどうかと思うけど、だからこそ、こういうときには頼りになる。きっと、この学園で働いてるイケメン教師にもつばをつけているはずだから。そう、佐々木先生とかね。


「あら、どうしたの、真剣な顔しちゃって」

「何か知らないの、佐々木先生の好物とか、趣味とか」

「それ聞いて、どうするの? あ、待って、彼女に教えてあげるのね」

「だから、勝手にぼくの頭の中のぞかないでってば」

「そうねぇ」


 ぼくの文句を無視して、シスタークロエは考えに沈む。

 ぼくの扱いがひどい。いつものことだけど。


「あ」


 おっと、何かを思い出したようだ。


「甘いものが好きだって言ってたわ」

「なにそれ、漠然としすぎ」

「たしか、クッキーが好きだとか」

「ほかには?」

「趣味は読書」

「好きなタイプは?」

「二つ結びの女の子が可愛いって言ってたわね」


 なるほど、なるほど。


 やっぱり、情報収集する相手にシスタークロエを選んで大正解だ。

 思った通り、佐々木先生はしっかりマークされてる。


「そんだけ知ってて、なんで佐々木先生を落とせないんだよ」


 シスタークロエが佐々木先生と付き合ってくれてれば、大塚さんと佐々木先生はうまくいかないっていうぼく言葉が嘘にならずに済んだのに。

 完全な八つ当たりだって、わかってるけど。そう思わずにはいられない。


 シスタークロエがむっとする。


「彼はお子様だったのよ。私には釣り合わないの。そうね、高校生がお相手なら、ぴったりかもね」


 今度はぼくがむっとする番だった。


「せいぜい頑張んなさい。タイムリミットまで、あと9日よ」

「わかってるよ」

「彼女と佐々木先生をくっつける、なんて、あなたにできるのかしら? ラブラブしてる二人の姿に耐えられる? このまま死んだ方がマシだって、思わない?」


 にやり、と赤い唇がぼくをあざ笑う。

 本当に、シスタークロエはひどい。


 せめてもの反撃に、ぴしゃんと音を立てて教頭室のとびらを閉めた。


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