「なにいじけてんのよ」


 占い研究部の部室で寝転がっていると、ふいに足を蹴られた。 


 修道着に身を包んだシスタークロエが、ぼくを見下ろしている。

 今日も、修道女には似つかわしくないばっちりメイク。太いアイラインと重たいマスカラのせいで真っ黒な目は、宇宙人を彷彿とさせる。宇宙人でなくとも、妖怪であることは間違いないけど。

 もう一度、蹴りが飛んできた。


「いってー……」


 はじめのより、ずいぶん痛い。邪な心をのぞかれたんだ。シスタークロエは、ぼくと同じで、そういうことができる。しかも、水晶なしで。


「力を失ったんだって?」

「ばあちゃんから聞いたの?」

「まあね。どうしてそんなことになったのか、理由は聞いてないけど。あ、待って。今、知ったわ」

「ぼくの頭、勝手にのぞかないでくれる?」


 ぼくは疲れ切っていた。

 委員会終わり、さようならと挨拶する大塚さんと、佐々木先生の視線が熱くからんでいた。……気がする。それを見ただけで、今日のライフをすべて使い果たしてしまった。


 約束の二週間。今日で、すでに5日が過ぎた。運命の日まで、あと10日もない。

 死にたくないけど、大塚さんと佐々木先生をカップルにするために頑張る気力も、いまはなかった。


「変装もしないで、人が来たらどうするの。部員はあなた一人なんだから、あなたがここにいるのを見られたら、占い師が誰かばれるわよ」

「張り紙したから平気」


 もう放っておいてよ。ぼくはいま、傷心中なんだからさ。

 寝転がったまま、目を腕で隠す。


「張り紙ってこれのこと? 『二週間お休みします。もしかしから、永遠にさよならかもしれないけど』」


 張り紙の文字を読み上げたシスタークロエは、おおげさにため息をついた。


「ずいぶん、弱気なのね。占い師ちゃんに何かあったのかって、学生たちは大騒ぎよ。今度は自分の番なのに占ってもらえないのかって、突っかかってくる子もいるし」


 ぼくは鼻で笑う。自分の都合ばっかり押し付けてくる、勝手なやつらだ。


「どうでもいいよ、そんなの。シスタークロエが代わりに占ってあげたら?」

「冗談。私にそんな暇はないわよ。早く力、取り戻しなさいよね。方法は分かってるんだから」

「どうかな」


 と、何かちくちくしたもので叩かれ、ぼくは驚いて飛び起きた。

 藁ほうきをかまえたシスタークロエが、さらにほうきを振りかぶる。


「ちょ、たんま、たんま、何すんだよ!」


「占い研究部に、無能はいらないわ。出て行きなさい。力を取り戻すまで、部室の使用は禁止よ」

「そんなぁ」


 有無を言わさぬ迫力に、ぼくは慌てて逃げ出した。


 ばあちゃんも、シスタークロエも、ぼくに厳しすぎると思う。ぼくはまだ、いうなれば見習いで、大切に育てるべき後輩だというのに。


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