8
「なにいじけてんのよ」
占い研究部の部室で寝転がっていると、ふいに足を蹴られた。
修道着に身を包んだシスタークロエが、ぼくを見下ろしている。
今日も、修道女には似つかわしくないばっちりメイク。太いアイラインと重たいマスカラのせいで真っ黒な目は、宇宙人を彷彿とさせる。宇宙人でなくとも、妖怪であることは間違いないけど。
もう一度、蹴りが飛んできた。
「いってー……」
はじめのより、ずいぶん痛い。邪な心をのぞかれたんだ。シスタークロエは、ぼくと同じで、そういうことができる。しかも、水晶なしで。
「力を失ったんだって?」
「ばあちゃんから聞いたの?」
「まあね。どうしてそんなことになったのか、理由は聞いてないけど。あ、待って。今、知ったわ」
「ぼくの頭、勝手にのぞかないでくれる?」
ぼくは疲れ切っていた。
委員会終わり、さようならと挨拶する大塚さんと、佐々木先生の視線が熱く
約束の二週間。今日で、すでに5日が過ぎた。運命の日まで、あと10日もない。
死にたくないけど、大塚さんと佐々木先生をカップルにするために頑張る気力も、いまはなかった。
「変装もしないで、人が来たらどうするの。部員はあなた一人なんだから、あなたがここにいるのを見られたら、占い師が誰かばれるわよ」
「張り紙したから平気」
もう放っておいてよ。ぼくはいま、傷心中なんだからさ。
寝転がったまま、目を腕で隠す。
「張り紙ってこれのこと? 『二週間お休みします。もしかしから、永遠にさよならかもしれないけど』」
張り紙の文字を読み上げたシスタークロエは、おおげさにため息をついた。
「ずいぶん、弱気なのね。占い師ちゃんに何かあったのかって、学生たちは大騒ぎよ。今度は自分の番なのに占ってもらえないのかって、突っかかってくる子もいるし」
ぼくは鼻で笑う。自分の都合ばっかり押し付けてくる、勝手なやつらだ。
「どうでもいいよ、そんなの。シスタークロエが代わりに占ってあげたら?」
「冗談。私にそんな暇はないわよ。早く力、取り戻しなさいよね。方法は分かってるんだから」
「どうかな」
と、何かちくちくしたもので叩かれ、ぼくは驚いて飛び起きた。
藁ほうきをかまえたシスタークロエが、さらにほうきを振りかぶる。
「ちょ、たんま、たんま、何すんだよ!」
「占い研究部に、無能はいらないわ。出て行きなさい。力を取り戻すまで、部室の使用は禁止よ」
「そんなぁ」
有無を言わさぬ迫力に、ぼくは慌てて逃げ出した。
ばあちゃんも、シスタークロエも、ぼくに厳しすぎると思う。ぼくはまだ、いうなれば見習いで、大切に育てるべき後輩だというのに。
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