第57話 5/16-B 知らない側からすると

 つか確かにこいつの説明は昔から判りやすかったんだよなー。


「そもそも源氏って女官とか姫さんとか、少女マンガを回し読みしてた様なもんなんだって」

「そうかいな」

「主人公の源氏だってさあ、まあ本当は源の何とかって名前があるけど」

「へ? 光源氏って名前じゃねえの?」

「光ってのはあだ名。本当の名は出てこないよー。つか、本名出てきたの、この中では玉鬘の君だけだし」

「たまかずら?」

「源氏が若い時下町で知り合って時々通ってた夕顔の君が物の怪に取り殺されてるんだけど、彼女には娘が居たんだよね。それが実は義理の兄で友人の通称頭中将との間にできてる」

「世界って狭いー」

「そら狭いよ。だってこの時代の話って基本的に京の都と、せいぜい牛車で行ける距離のとこだよ。まあ玉鬘は九州から京まで逃げてきたんだけど」

「何で?」

「向こうで美しい姫が欲しい! って地元のむくつけき男に求婚されて、しないと自分を育ててくれたひと達に危害が加えられそうだったから」

「世知辛いねー」

「でも都で引き取ってくれたのは本当の父親ではなく、その友人の源氏なんだよな。あ、そうそう、その玉鬘が藤原の瑠璃君と呼ばれていた、ってあるんだよな。まーこれも幼名で、何かしら大人になるときちんとした名がつけられる訳だー。だけどその名前も、この時代の場合はそうそう作者紫式部もそうだけどきっちり残る訳でないんだよな。だれそれの娘とかだれそれの母とか」

「そーいや百人一首にもあったなあ」

「だろ?」

「名前にしては面倒だなーと思ってたけど」

「それだけかい」

「うん」


 いやだって、全部名前だよな、とそのまんまアタシは信じてたもの。こいつの解説が無い時には。


「だから例えば蜻蛉日記を書いたひとだって、あくまで藤原道綱くんの母なんだよな」

「どっかの奥さんではあったんだよな」

「蜻蛉日記は正妻じゃないけど気位の高い女性の日記だからもう何というかどろどろだわな」

「正妻じゃないっていうと何だ、愛人?」

「いや一応妻なんだよ。相手は当時の偉い人だし、息子もその関係でちゃんと官位も貰えるし。だけど自分より低い身分の女に夫の心が移るとどろどろ……」

「むむむむむむ」

「趣味じゃねーがな。まだ和泉式部日記の方がさっぱりしてる」

「あ!」

「何」

「そーいえば百人一首で紫式部と和泉式部は親戚だと思ってたことがあった」

「お前なー」


 まあまあ、と背後からむしゅ、と乳を揉む。あーやらかいのは癒やし。

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