第56話 5/16-A 専門は下手に足突っ込むと
「……何かお前の話聞いてると源氏ってサイテー男?」
「へ? 何いきなり」
「いやアタシはそもそもおめーの話でしか源氏知らないんだけどさ」
「お前まじ古典の時寝てたよな」
「だってさー、おめーの様に内容かみ砕いてぶっちゃけて説明してくれりゃいーんだけど。徒然草で、教科書に載ってた部分が、『ふらっと立ち寄った場所にあった家がぼろぼろで、そんなとこでも住んでるひとがいるんだなーとしみじみしてたらでかい蜜柑の木があってそこに『取るな』とあったから興ざめした』みたいな」
「……何でそういうのはちゃんと覚えてんの? 昔テスト前にそうやって教えればよかった?」
「何言ってるん? こういう時のはなしだから覚えてるんだろに」
雨が降ってまして。
非常事態は一応抜けたんだけど、何となく二人してだるだるしていたり。
本日はワタシがぱちぱちと打ち込んでる背中に奴がもたれて何ーとなくゆらゆらしてる状態。
こっちはまた次の仕事が来たから、ともかくアナログなことをしつつ。ちょっと肌寒いので背中が暖かいのはいいのぅ。こいつ上手いこと力は掛けないから。
ただ時々肩揉んだり腰揉んだり乳揉んだりはしてくるけどさ。
「いいんか?」
「まあ機械的な作業だし、もともと最低四回は見直すから」
正直あちこちむにむにされているのはそう悪くはない。というか気持ちいい。別にかまってー、とは言ってこないし。勝手にいじくってるだけらしい。
「そんで何でまた源氏?」
「ねーさんが枕の話から源氏の話に移ってきたんだよね。ねーさんもあまり古典得意じゃなかったけど、マンガでは読んでたって言うから」
「『あさきゆめみし』?」
「だったかな」
「まああれが一番まとまってるわな。琴の大きさとかは間違ってるよなーと思ったけど」
「へ?」
「あー、琴にも色々あってよ、箏の琴ってのは今のほら、お正月にちゃん、ちゃらちゃらちゃらりー、とやってる奴だよな。で和琴ってのは大きさは同じくらいだけど弦が六本。だけど源氏には琴の琴ってのも出てきてさ。作者はこれを他の琴と同じ大きさに描いてしまったんだわな。実際は箏の半分くらいの長さで、スティールギターみたいな音出すんだわ。動画で中国の琴ってので出てるんじゃないかなー」
「へー。……ってそういうとこいちいち気付く?」
「だからさー、何か一度専門に足突っ込むと、マンガでもドラマでも歴史考証で腹立ててしまうんだよな」
「難儀なこっちゃ」
全くだもう。
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