第42話 5/2-B 冷たい麦茶が美味しく感じる季節になってきました

「うだる」

「そーだな」

「とうとう本格的に五月だなあ」

「そーだな」

「そーだなばかり言ってないでさあ!」


 そうは言われても。

 こちらは格別GWも何も関係ないし。キャンプの後片付けやら道具の整備とかした後、ついでにざっと大して物も置いてない部屋を掃除したら、……何か手が暇なんで、ついひご作りに手を出してしまっただけじゃないかいな。


「だったら寄ってくればいいのに」

「……ってそんな長いひご作っている時に寄れるかい」


 そうなのだ。今作ってるのは、幅7ミリ、長さ4メートルの長いもの。石箕用のものだった。

 この場合の7㎜は、さすがに両方に刃を挟んで幅を揃えることはしていない。とはいえ、手作業でもだいたいカンマ2程度の誤差で作ることはできる。

 ともかくざくざくと作っていき。

 そんでその間は…… 

 下手に当たるとケガするので、寄るなと基本的には言ってある。というより、以前それで跳ね返ったひごで顔にかすり傷つけてしまったというのがなかなかアタシ的には痛い。

 アタシもこいつも実家だらだら系なので化粧とは無縁だ。それでも顔に、というのはやっぱり胸が痛む。

 まだこっちにお互い戻ってきて、それぞれの作業をしだした頃だ。距離感がなかなか上手くいかなかった。色んな意味で。

 それに比べれば、今はまあ穏やかになったものだ。


「まああと三本作ったら、冷たい麦茶持ってきて茶にしようぜ」

「冷たい麦茶! あー…… もうそれが本気で美味しく感じる日が来てしまったんだねえ」

「つい一週間前は冷えるとか言ってたのになあ」


 これがなかなかこいつには辛い様だ。

 ともかく一緒に寝ていても、意味なくあちこちが冷たい。どうもそれに何だかなあ、と思って、ブランケットをこいつの寝てる間に腰にくくりつけておいたりする。


「え? 何? 何?」


 まあだいたいそういう朝は言われるんだけど、仕方ないだろ。こいつが体調いい方がアタシも気持ちいい。


「クーラーは今年も入れないんだよね?」

「アタシはな。お前はどーする?」

「あまり家に手は入れたくないんだけどなあ」

「まあ業者通せる家じゃねえしな」

「言うなー!」


 本と紙と服に溢れた部屋はなかなか他人を通せるものじゃない。


「まあまた色々解除されたら、海にでも行こうぜ」

「水浴びかいな」

「そういうとこの方がかき氷が美味いだろ」

「伊勢神宮のそばの赤福氷は美味しかったぜ!」

「あー、夏行くと美味しそうだなあ」


 まあそれも、この事態が済んでからだな。

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