第3話 4/12-13C
まだ冷える外でそれでも皆でバーベキューをやった。
誕生日だったユクエはヨツバの家族からもおめでとうの嵐を浴びて、肉を食え野菜を食え、とせっつかれていた。
昼間つぶしていた鶏の肉がこれでもかとばかりに串に刺されている。
「丸焼きじゃなかったんかい」
「クリスマスまで待てっていうお達しが出たんだよ!」
こそっと二人して耳打ちする。
何かというと大騒ぎして、少し大きめの自家製焚火台を持ち出してはバーベキュー。それがこの家での一番よくあるお祝い方法だった。
ユクエの「お隣」と言えるのはあと二軒あったが、家族ぐるみでつきあっているのはヨツバの家だけだ。
いちごをこれでもかとばかり生クリームの間に挟み、上に積んだケーキを切り分けては、落ちない様に食べて。
夜はまだまだちょっと冷えるから、とヨツバの母親が半纏を持ち出してきて。火には近づきすぎないようにしつつ。
庭にはヨツバの祖父が何かと手をかけていた桜が満開のままで。
きっと明日強風があったら散ってしまいそうだけど、まだ大丈夫だ。ひらひらと時々彼等の庭先に落ちてくる。
「二人とも風呂入ってから寝なさいよー」
そうヨツバの兄嫁が言う。
彼女の五人きょうだいのうち、三人がこのこの家に残った。長女と長男がそれぞれ家を出ていき、勉強より畑がいいと言った下の兄と、町役場に勤めている妹が居る。
妹の方は付き合っている男がいるので、そのうち結婚するのかもしれない、とヨツバはユクエに言っている。
「あんたは言われないの?」
「外に働きに出ないのかとは言われたけど」
家の手伝いの他にやっていることがやっていることだった。
*
「おいまだ濡れてるじゃないかー」
離れへ向かう渡り廊下で、わしゃわしゃとユクエはヨツバの短い髪を拭く。
少しだけ背伸びをしないといけないのがやや悔しい。
「すぐ乾くよ」
「このご時世に風邪引いたらどうすんの」
「うんそれは困る」
わしゃわしゃわしゃわしゃとやっているうちに、離れの部屋へとたどりつく。
作りかけの青竹の籠が部屋の脇にきっちりと寄せられている。
そしてその向こうには床が敷いてあり。
ヨツバはユクエの首に後ろから腕を回すと、やや低めの声で囁いた。
「入ってとっとと暖まろうぜ」
「歯ぁ磨いたか?」
「ドリフの教えの通りに!」
「お前志村けん関係で全員集合見まくったな? あれは正しいけど」
「ばばんばばんばんばん」
そう言いながら、どんどんと部屋の中へ中へ、ずず、ずいいと。
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